【特別インタビュー】渡米から早10年以上……佐藤琢磨がインディカーで感じた衝撃、面白さ、幸せ

2010年にアメリカへと渡り、今やインディカーの歴史に名を残すドライバーのひとりとなった佐藤琢磨。彼がヨーロッパのレースからアメリカのレースに転向して感じた衝撃や、それぞれの違いなどについて語ってくれた。

【特別インタビュー】渡米から早10年以上……佐藤琢磨がインディカーで感じた衝撃、面白さ、幸せ

 佐藤琢磨インタビュー第1回目は、彼の2回におよぶインディ500優勝に関して話を聞いた。第2回の今回は少し幅を広げてインディカー・レース全体の話を聞いてみようと思う。

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ーーここ数年、インディのドライバーはヨーロッパからの若手が増えて、層が増しているように見えます。レースは変わりましたか?

「この10年、ドライバーのレベルが随分と上がったのを感じます。かつては本当にひと握りのトップドライバーがいて、あとはアメリカしか知らないドライバー、あと半分はオーバルしか知らないドライバーでした。でも、いまのインディカーのグリッドの半分はヨーロッパのジュニアフォーミュラを経験しているドライバーで埋め尽くされている。だから、レベルは凄く高い」

Race winner Alex Palou, Chip Ganassi Racing Honda

Race winner Alex Palou, Chip Ganassi Racing Honda

Photo by: Barry Cantrell / Motorsport Images

ーーレースもオーバルよりロードコースの方が多くなってきましたね。

「今年のカレンダーを見ると、オーバルはたった3戦しかない。残りは市街地の公道です。それに、その公道が穴だらけ。モナコなんて毎年綺麗に舗装し直してくれますが、アメリカの道はガタガタです。ただ、そういう環境の中で走るので、とても面白いですね。だから、10年やっててもまだやろうという気になります」

ーー毎年新しい挑戦ですか?

「トップカテゴリーのレースでは本来はメーカー、チーム、マニュファクチャラーの戦いがあるじゃないですか。R&D(研究開発)があって、技術が進化して、ドライバーがそこから100%の性能を引き出して走るって世界ですよね。でもインディカーはハードウエアがほとんど決まっているので、あとはドライバーの力が重要になる。ドライバーがレースのやり方を工夫しないといけない。ホント、ジュニアクラスのドライバーになったみたいです。タイヤの使い方にしても、走る度に発見がある。そこが何とも面白いです」

ーーインディカーのクルマ自体が非常にプリミティブ(原始的)ですよね。

「そうなんです。クルマもある意味レトロですね。いまだにアンチロールバーが付いてて、ドライバーが自分で調整できる。ギアボックスは昔はHパターンで、ヒール&トゥをやってました。いまそれは電子制御になってカチャカチャやるだけです。インディカーの電子制御ってそれしかないんですよ。クラッチの制御だけ。あとは全部ホントに機械式です。オーバルに入るとウェイトジャッカーという、右後ろのダンパー長を変えることによってクロスウェイトを変えるというシステムがある。そういうツールを使って最速のクルマに仕上げていく。だから、ドライバーはステアリングを回すだけじゃなく、次のことを考えながら先手を打ってやらないと、何かが起きてからじゃ間に合わない」

ーードライバーは忙しいですね。

「そうなんです。様々な変更は右足と手でやるんだけど、オーバルはそれプラス別離的にメカニカルなアクションを加えないとクルマが曲がってくれないので。忙しいですが、とても楽しい。いまでもとても新鮮で、次のレースが楽しみなのはそういうことなんです」

ーーヨーロッパでF1を戦って、それからアメリカに渡ってインディカー参戦ですが、メンタルな面、技術的な面で葛藤のようなものはありましたか?

「ありました、ありました。僕らレースをやってる当事者でさえ、レースはやっぱりヨーロッパと思っている節がある。アメリカのレースなんてオーバル、アクセル踏んでりゃいいんでしょみたいな」

ーーまあ、知らないとそう思いますよね。でも、アメリカ行ってみると大違いだった?

「全然簡単じゃなかった。やってみたらもう本当に衝撃ですよ。F1とは世界が違った。セッティングなんかも全然違う。例えばインディアナポリス・モータースピードウェイでは、右フロントの車高とか4分の1ミリ単位で動かすわけですよ。F1では見たこともない。それくらい細かくやる。クルマの技術自体は半世紀くらい前のものかも知れないけど、こりゃ凄いという世界でやってる。F1を経験したら、ドライバーとしては頂点を極めたって思うじゃないですか。僕はF1ではフィジケラに始まってバトン、デビッドソン、色んなドライバーとチームメイトになって走ったけど、高速コーナーで負けたことってF3時代から1回もなかったんですよ。でも、インディカーに来てオーバル走って、初めてこいつら普通じゃないって思った」

Takuma Sato, Rahal Letterman Lanigan Racing Honda, Ed Carpenter, Ed Carpenter Racing Chevrolet

Takuma Sato, Rahal Letterman Lanigan Racing Honda, Ed Carpenter, Ed Carpenter Racing Chevrolet

Photo by: Michael L. Levitt / Motorsport Images

ーー何考えているんだって?

「僕がアクセル緩めていくところを、あの人達は踏んでいくんですよ。何も考えていないっていうんじゃないと思いますよ。彼らもちゃんと自分で制御しているんだけど、それでも踏んでいけるというのは本当に上手いんだと。こんなに上手い人たちがこんなに大勢集まっているレースってなかなかないぞという面白さはある」

ーーインディ500マイルは同じ場所を200周も回るわけですよね。それもほとんど全開で。

「そうなんです。サーキットはF1と比べるととてもシンプルですよね。単純なオーバル。でも、シンプルゆえに誰もが99%まで持ってこられる。勝負は残り1%で争うわけです。これがね、近いようで遠い。その難しさは自分でやってみるまで分からなかった。もちろん、最初はそんなに簡単には成功しないことは重々分かっていた。でも、心の奥底では簡単に勝てるだろうって……」

ーー思ってた?

「でも、勝つまでに3年かかった。悔しい思いも嬉しい思いもしたし、これぞレースってのも経験した。その中で勝ってきて、気がついたらF1より長くなってて、自分の夢だったインディで2度も勝つことが出来た。ホント、インディカーに出会えて良かったと思いました」

ーーアメリカのレースはドライバーにも誰にも平等だから面白いんでしょうね。

「F1にはドライバーでは埋められない壁があるけど、インディはそうじゃなくてクルマがみんな同じだから、見に来てくれるお客さんに分かり易く出来てる。何十億かけて新しいフロントウイング作ってコンマ1秒速くなっても、お客さんには分からないですよ。じゃあお金は使わないことにして同じ500万円のフロントウイングをみんな同じように使って下さいと。そうするとお客さんはドライバーの技量を目の当たりに見ることが出来るので、彼らと一体になって楽しんじゃう。そこはアメリカは上手いですよ。アメリカに来てそういうところを経験すると、改めてスポーツの面白さ、モータースポーツの面白さみたいなのは感じました」

ーーアメリカとヨーロッパではお客さんの質というかレベルも違いますよね。

「高い低い、良い悪いじゃなくて違いますね。ヨーロッパはレベル高いですよ。だけどインディ500には35万人の観客が集まるんですよ。半分は酔っ払っててレースの流れなんか分かっていないと思いますが、でもそれが雰囲気だからね。日本からもスポンサーのお偉方を含めて大勢のファンが応援に来てくれる。僕の順位が上がっていくとみんな興奮して盛り上がる。それが走ってて分かるんですよ。その近さって本当に素晴らしい」

Atmosphere

Atmosphere

Photo by: Motorsport Images

ーーアメリカに行って自分が成長したという実感はありますか?

「学ぶことは沢山ありましたね」

ーー野球の世界ではイチローという素晴らしい選手がいましたが、接点はありましたか?

「いや、ないです。でもカテゴリーは違っても、同じ日本のアスリートとして刺激を受けることは沢山ありました。彼だけではなく、様々な世界選手権のスポーツに行っている人達からも僕は凄く刺激を受けるし、逆に自分もそういう風に見られているところはあると思うんです。だから、やっぱり海外で戦うというのは、国内でやるのとは違って、だからこそ面白いんですね。自分も鈴鹿のスクール出てから23年、F3とか始めてから20年、ここまで走らせてもらって感謝しかないですね」

ーー憧れのヒーローは?

「アイルトン・セナですかね。彼らの時代、僕は何もわかっていなかったから、ヒーローとしてしか見ていなかった。でもいまはああいうトップドライバーが何を感じ何をして来たのかっていうのも分かるつもりだし、そのなかにポジションを維持していくことの面白さと難しさがあるのも分かる。やっぱり経験ですかね。それでも、セナの走りというのは鮮烈だったし、僕の中で生き続けている」

ーー同年代でも頑張っている現役ドライバーいますよね。

「シューマッハやハミルトンとも走ったけど、同じ時代を生きると、いまでも頑張ってるライコネンやアロンソといったドライバーからは刺激を受けます」

ーーアメリカでは同時代のドライバーはあまり走っていませんか?

「アメリカにはいわゆる生けるレジェンド、生ける伝説が大勢います。現役ドライバーではありませんが、マリオ・アンドレッティは80歳? でもツーシーターのフォーミュラカーにゲストを乗せて全開で走っています。A.J.フォイトはもう86歳? 彼は流石にもう乗っていませんが、インディ500で4勝している。それに、パイプフレームのシートベルトもないクルマから知っていて、いまのカーボンファイバーのシャシーもモノコックも知っている。例えば、俺の時代は右前輪が2000何ポンドのスプリングを使っていたなんて話が始まるんですよ。何が凄いって、僕がインディで走っているのをモニターで追いかけていて、ピットに帰ってくると途端にアンダーを出し過ぎてるとか、右フロントが足りないとか、左リヤをもっと積極的に使った方がいいとか、僕が話そうとしたことを知ってるわけですよ。80歳を超えたおじいちゃんがなんでそんなことが分かるんだろうと思うけど、やっぱりそういう人が勝つんですよインディ500は。A.J.に会えたことは、僕の一生の財産ですね」

Takuma Sato, A.J. Foyt Enterprises Honda, A.J. Foyt

Takuma Sato, A.J. Foyt Enterprises Honda, A.J. Foyt

Photo by: IndyCar Series

ーー幸せですね。

「僕が幸せなのは、所属するチームのボスがみんな凄いドライバーだった人ばかりなんです。F1はエディ・ジョーダンから始まって鈴木亜久里さん、アメリカに渡ってからはジミー・バッサー、ボビー・レイホール、それからA.J.のところで走ってマイケル・アンドレッティ、そしてもう一回A.J.のところで走り、今年はまたレイホールのところです。みんな一級のドライバーばかり。でも、彼らに共通しているのは、誰ひとり一切ドライビングには口出ししないことです。コクピットの中で仕事をする人へのリスペクトが凄く高いんです」

ーーゆくゆくは琢磨さんもチームオーナー、というのは冗談としても、この先は日本の若手を育てる仕事も忙しくなりそうですね。

「次の世代の子供達に、自分達が得た知識を伝えなくてはいけませんね。SRS(鈴鹿レーシングスクール)の校長という大役を仰せつかったんですが、中嶋悟元校長から推薦を受けたので、じゃあやっていこうと。中野信治さんと一緒にやっているんですが、なかなか思い通りにならないことも沢山あって、育成の難しさを実感しています。時間がかかることだから焦ってはダメですしね。でも、良い子が大勢いるので、タイミング良く才能を見つけないとと思っています。いま、卒業生の角田裕毅がF1に行きましたが、ホンダがF1止める前の最後の年ですよね。これもタイミングです。でも、裕毅が素晴らしい走りをすればホンダがいようがいまいが生き残れるわけです。そうすれば、F1の世界でも日本人を見る目が変わってくるはずです」

ーー最後にご自身のことを聞きますが、この先何歳まで走ります? 高橋国光さんは60歳近くで引退されました。

「国さんを目指そうかな……でも、こればっかりは自分だけで決められることじゃない。ただ、僕はこのレースの緊張感が大好きなんです。グリッドに並ぶときの緊張感。これがある限りはずっと続けると思うんです。この緊張感というのは、自分にまだ向上心があるからですよね。どうでもよくなったら緊張なんかしない。でも、やっぱり失敗したくない、もっと上手くなりたいという思いがあるから緊張するわけですよね。それがある限りは、自分としてメンタル、フィジカル両面で上向きなはずなので、頑張ってみようと思っています」

ーー今年のインディ500は残念でした。3勝目を期待していましたが。

「僕も全力を尽くしましたが、そう上手くはいきませんよ。でも、今年46歳のエリオ・カストロネベスが4勝目をあげたのを見て、僕も負けちゃいられないと思いました」

ーー琢磨さんのことは昔から知っていますが、全然年を取らないですよね。その若さで自分のレースも若手の指導も、思いっきりやってください。活躍を期待しています。今回は有り難うございました。

 

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