MotoGPコラム|日本人チャンピオンの“夢”、2023年こそ! 21歳の<好漢>小椋藍、転倒敗戦も「必ず報われるはず」と青山監督
全20戦と史上最多のレース数で行なわれたMotoGP2022年シーズンが閉幕した。Moto2クラスでは日本人ライダーの小椋藍がタイトル争いを繰り広げ、最終戦バレンシアGPも大注目の一戦となった。結果は転倒による敗北とはなったものの、最後まで攻めの姿勢を崩さなかった小椋の姿を追った。
Moto2クラスチャンピオンシップの雌雄が決する2022年最終戦バレンシアGPは、ランキング首位のアウグスト・フェルナンデス(Red Bull KTM Ajo)と2番手の小椋藍(IDEMITSU Honda Team Asia)が9.5ポイント差で迎えた。攻守の有利不利で言えば、ポイントでリードするフェルナンデスにアドバンテージがあるのは明らかだが、たとえば小椋が優勝してフェルナンデスが4位で終えれば小椋が逆転タイトルを獲得することになる。したたかで粘り強い勝負が身上の小椋の走りを考えると、これも大いに考え得るシナリオだ。
そこで、決勝レースを翌日に控えた土曜の午後に、MotoGPクラスのフロントロウを獲得したホルヘ・マルティン、マルク・マルケス、ジャック・ミラーの3名に事前予想を訊ねてみた。もしチップをベットするなら、どちらの選手に張る? そう訊ねると、3名はそれぞれ以下のように回答した。
「張るならアウグストだね。9.5ポイントは大きな差ではないし、小椋はいつも週末の走行が進めばどんどん速くなっていく選手だから、明日の決勝はふたりの直接対決になれば面白いだろう。でも、その場合でもアウグストは小椋の直後で終えればタイトルを獲得できるのだから、僕ならアウグストにチップを乗せるよ」(マルティン)
「ホルヘの言うとおりで、小椋はセパンの最終ラップでミスをして大きな代償を払うことになった。MotoGPのタイトル争いよりもMoto2のほうが可能性はオープンだけど、でも、難しいだろうね。今週もアウグストはいいペースで走っているようだから、僕はアウグストに張る」(マルケス)
「まあそういうことだね。ふたりが言うとおり、無難な賭けならアウグストだろう。でも、レースでは何が起こっても不思議じゃないよ」(ミラー)
Augusto Fernandez, Red Bull KTM Ajo
Photo by: Gold and Goose / Motorsport Images
一方で、日本人選手の中上貴晶は、自分なら全額小椋に積む、と笑顔で述べた。
「日本人だからもちろん藍に張りますよ。いつもセッションごとにどんどん速くなっていくタイプの選手だし、決勝レースでも高水準の安定した走りを見せているから、僕は藍にベットします」
土曜の予選を終えてフェルナンデスはフロントロウ3番手、小椋は2列目5番グリッドからのスタートになった。一日の走行を終えた小椋の表情には決戦を翌日に控えた緊張のようなものはなく、むしろ吹っ切れてさばさばしている雰囲気も感じ取れた。
「ペースはもうちょっと上げたかったけど、このサーキットにしては良かったし、レースは始まってみないとわからないですからね。明日はフロントロウの3台が速いので、彼らが現状では強いと思います」
「最終戦まではできることをすべてやって全開で攻め、最終戦でチャンピオンシップを考えた戦い方をできればなあ、と思っていたんですよ。でも、前回が前回だったので、吹っ切れますよね。自分に(チャンピオン獲得を決定づける)選択肢があるわけではない以上、こっちとしてはとにかく全開で走るだけで、あとはアウグスト次第。彼のひとつ前でゴールしたって何の意味もないわけだし、もうひたすら攻めるしかないですから」
日曜午後12時20分にスタートした決勝レースは、まさにその言葉どおりの展開になった。チャンピオンシップポイントで9.5ポイントのビハインドにいる小椋は、フェルナンデスの前でゴールすることが必要最低条件だ。しかも、ポイントで大きな差をつけるためにはとにかく優勝を目指さなくてはならない。
1周目から果敢に攻め続ける小椋は、トップグループのバトルの中でオーバーテイクされても即座に前を奪い返す果敢な姿勢でアタックし続けた。先頭集団の熾烈な争いを映すモニター越しにも小椋の強い意志と気魄が伝わってくるような、そんなライディングだった。
が、8周目の8コーナー進入でフロントが切れ込んだ。転倒。マシンとともに路面を滑走し、グラベルへ転がってゆく。そこで小椋藍のタイトル争いは終了した。
Ai Ogura, Honda Team Asia
Photo by: Gold and Goose / Motorsport Images
最後の一瞬まで攻めの姿勢を崩さず、持てる力を出し尽くして果敢に走りきった小椋の姿からは、21歳の若者に対して使うにはやや大時代かもしれない〈好漢〉という言葉がむしろぴったりくるほどの、潔さと力強さとたくましさが感じられた。
「昨日も言ったとおり、フロントロウのライダーたちと比べると自分のペースがなかったので、がんばりすぎちゃったところはありますね。無理できずに後ろでゴールするくらいなら無理して転んだ方がましだと思っていたんですけど、ミスがいいというわけでもないので……なんとも言えないですね」
土埃にまみれたレザースーツを脱いだ小椋は、苦笑気味にレースを振り返った。
「(レースペースで)それだけ余裕がない状態でレースを迎えたことがまず問題といえば問題だったので、もう少し自分にスピードがあれば、もっとうまくレースを戦えたとも思うんですけどね。でも、うまくマネージできたかどうかは別として、100パーセントで走りきりました」
今シーズン、最後の最後までフェルナンデスとタイトルを争ったシーズンの展開の、特に終盤戦の戦いについてはこんなふうに述べた。
「シーズンとしては、良かったと思います。マレーシアの転倒はともかく、今回の転倒はちょっと自分が弱かったとも思うし、結局は自分のミスから生まれたものだから、『負けたな』という印象です」
チーム監督の青山博一は、最後まで果敢に攻めきった小椋の走りを高く評価した。
Ai Ogura, Honda Team Asia, Moto2 champion Augusto Fernandez, Red Bull KTM Ajo, Arón Canet, Pons Racing
Photo by: MotoGP
「非常に残念ですが、できることを全力でやってくれた結果なので小椋を責めることは何もないですし、今年は20戦を通じて非常に良いレースをしてくれました。Moto2の2年目シーズンでここまでやれたことは、素晴らしいと思います。結果的にチャンピオンは取れませんでしたが、これも経験だし、来年またチャンスはある。次回は同じ結果にならないようにしてもらえれば、今日の結果も必ず報われるはずです」
「前回セパンの転倒も今回の転倒も、あくまで攻めた結果ですが、とはいえ、結果として負けであることに違いないので、なぜそうなったのかを本人がしっかりと分析し、次に同じシチュエーションになったとき同じことをしないようにする。それが大切です」
さらに青山監督は、自らの現役時代の経験とも照らし合わせながら、今シーズンの経験と特にシーズン後半の結果は来年の小椋をさらに強くするだろう、と述べた。
「自分も現役の時には、目の前に優勝がぶら下がっているのに単独で転んでしまったことがあります。人間は失敗をして成長します。小椋はまだ21歳で若いし、しかもまだMoto2は2年目ですよ。チャンピオンを獲ったフェルナンデス選手のほうがMoto2の経験はずっと豊富で、だからこそいろんな状況に対応するのも彼の方が上手かったのだろうと思います。負けてしまったことは非常に残念ですが、我々チームとしてもRed Bull KTM Ajoという名門チームと最終戦まで戦えたことをとても光栄に感じています。今回は負けましたが、来年こそ違う結果に終われるようにチャレンジを続けていきたいと思います」
2023年シーズン、小椋藍とIDEMITSU Honda Team Asiaは間違いなくチャンピオン最有力候補の一角として、新たな一年を迎える。
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