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”情け”をかけてでもMotoGPはバトルの拮抗を望むのか? ホンダ&ヤマハへの優遇措置適用がはらむ問題点|MotoGPコラム
MotoGPの2023年シーズン前半戦はホンダ、ヤマハの日本メーカー勢が大苦戦。彼らの苦境に対して、運営のドルナ・スポーツが優遇措置(コンセッション)を適用させるかどうかの検討が行なう状況にまでなってしまった。しかし苦戦がここ1~2年続いているとはいえ、コンセッション制度を調整して適用させることはよく考える必要があるのではないだろうか?
西村 章
編集: 2023/07/20 9:26
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MotoGPの2023年シーズン上半期は、日本メーカーのホンダとヤマハの不振が大きな話題になった。第8戦オランダGPまでの結果を見ると、8回の決勝レースでホンダとヤマハのライダーが表彰台に上がったのはそれぞれ1回のみ(アレックス・リンス 第3戦アメリカズGP優勝、ファビオ・クアルタラロ 第3戦アメリカズGP3位)。決勝レース8回の表彰台全24個のうち22個は、ドゥカティ(18)、KTM(2)、アプリリア(2)に占められている。ホンダ、ヤマハとも、かつては最強ライダーたちを擁して何度も世界の頂点に君臨してきた名門陣営だが、2023年現在の戦闘力は欧州メーカー勢に大きく差を開かれているのが実情だ。
この事態を受けて、コンセッション(ルール上の技術的制約を緩やかにする優遇措置)をホンダとヤマハに適用したほうが良いのではないか、という議論が浮上している。MotoGPを運営するドルナのチーフスポーティングオフィサー、カルロス・エスペレータはレギュレーションのコンセッション規定を更新して、苦戦が続くホンダとヤマハの戦闘力向上に役立てたい、と公言している。
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■そもそもコンセッションって何?
このコンセッションというルールについて、まずは整理をしておこう。
この文言がルールブックに初めて登場したのは、2015年度版だ。この前年度(2014年)にオープンカテゴリーという分類がMotoGPクラスに登場し、そのオープンカテゴリー陣営に適用される措置として、制度の運用が始まった。オープンカテゴリーとは、2012年と13年にMotoGPクラスで採用されたCRT(クレーミングルールチーム:量産車の改造エンジンをオリジナルフレームに搭載したマシンで参戦する方法)を引き継ぐ形で、2014年と15年にMotoGPクラス内に存在した区分だ。
RCV1000R(2014/アルバロ・バウティスタ)
Photo by: Team Gresini
オープンカテゴリー勢はファクトリーと比べて戦闘力が大きく劣るため、オートバイメーカー各社が独自に開発する電子制御(ECU)ではなく共通ECUを装備し、燃料タンク容量やシーズン中に使用可能なエンジン基数、テスト回数などの制限も大幅に緩められた。このオープンカテゴリーに与える特典措置を、一定の条件を満たすファクトリー勢にも適用範囲を広げよう、というのがコンセッションの基本的考え方だ。これは、2015年版ルールブックの[1.15.1.1]で以下のように記されている。
ファクトリーオプションでエントリーし、2013年シーズン中にドライコンディションでレースに勝利していない二輪メーカー、または2013年シーズン以降初めてチャンピオンシップに参戦する新規二輪メーカーには免除措置が適用される。これらの二輪メーカーには、1.15.1.1.A. fで規定するとおり、オープンカテゴリーと同じテスト機会が与えられる。
この文言はテスト回数などに対する規定だが、エンジンホモロゲーションや燃料容量に対しても、同様の文章でそれぞれ優遇する措置を認めている。また、この措置の適用基準については、[2.4.2 コンセッション]の項目で以下のように定めている。
競技規則および技術規則におけるさまざまなコンセッションは、2013年以降初めてこのクラスに参戦する新規MotoGPメーカーと、2013年シーズン以降ドライコンディションでレースに勝利していないメーカーに与えられる。
コンセッションの付与と除外は、レース中のドライまたはウェットコンディションにおける、メーカーの以下のコンセッションポイント獲得に基づいて行なわれている。
・優勝=3コンセッションポイント
・2位=2コンセッションポイント
・3位=1コンセッションポイント
2015年シーズン規則の追加修正(6月27日発表)では、合計6コンセッションポイントを獲得したメーカーが優遇措置の適用除外となることも決定した。ちなみに、2016年からはMotoGP全車両がドルナ指定の共通ECUを使用することになり、オープンカテゴリーという区分自体が存在しなくなったため、「コンセッション」という優遇措置は2013年以降にドライレースで勝利していないメーカーもしくは2013年以降にMotoGPクラスへ新規参入してきたメーカーに適用される特典、という位置づけが明確になった。
■優遇措置の活用と今
このコンセッションという制度をじつに巧みに利用したのが、2010年代前半に苦戦にあえいでいたドゥカティ陣営だ。
2014年のドゥカティ・デスモセディチ(カル・クラッチロー)
Photo by: Ducati Corse
2013年のドゥカティは表彰台獲得ゼロ、その前年の2012年は2位が2回のみ、という不振が続いていた。この苦況を抜け出すため、2014年から自社製ECUではなくドルナ支給のマニエッティ・マレリ製共通ECUを搭載することでオープンカテゴリーとして参戦した。
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いわば、ファクトリーという「名」を捨てて、オープンカテゴリーに与えられるコンセッションという「実」を獲った、ともいえるだろう。この奇抜な策略が奏功し、ホンダとヤマハにまったく歯が立たない状態だったところから、コンセッション活用で少しずつ戦闘力を向上させた彼らは2014年に2位を1回、3位を2回獲得。2015年は開幕から3戦連続2位を獲得し、上記の規則修正発表時にはすでに10コンセッションポイントを獲得していたため、2016年以降の措置適用除外が決定した。
この時期にコンセッションが適用されていた陣営は、スズキ(2015年参入)、アプリリア(2016年ファクトリー参入)、KTM(2017年ファクトリー参入)の3メーカーだ。スズキは2016年に優勝1回、3位3回を獲得して翌年にコンセッション適用除外となる。しかし、2017年は一度も表彰台を獲得できなかったため、2018年にはふたたびコンセッション適用へ舞い戻ることになった。これは、2015年版規則から以下のような文言が明記されているためだ。
メーカーがシーズン中にコンセッションポイントを獲得しなかった場合、当該メーカーのマシンを使用するすべてのライダーは翌シーズンからコンセッションを全面的に適用される。
2018年にふたたびコンセッション適用陣営となったスズキは、この年に何度も表彰台を獲得して翌年以降のコンセッションを脱し、「一人前」ファクトリーチームとして安定した強さを発揮していく。また、KTMは2020年で、アプリリアも2022年でコンセッション適用が終了し、現在に至る。
■ホンダとヤマハに“下駄を履かせる”ことの妥当性は?
このように見てくると、コンセッションというコンセプトは、新たにMotoGPへ参入してきたメーカーに、いわば制度的なゲタを履かせることで高い敷居を跨ぎやすくして見た目の戦闘力アップを達成し、そのゲタを履いた期間中の開発力向上を促進する仕組み、といえるだろう。このコンセッションを苦戦続きのホンダとヤマハに適用すれば、現在の厳しい状況から脱出する一助になるだろう、というのが、冒頭で紹介したカルロス・エスペレータの提言の趣旨だ。
しかし、ホンダとヤマハは今シーズンすでに表彰台を獲得しているため、現状のルールでは2024年にコンセッションは適用されないことになる。その問題をクリアするために、エスペレータは現在のコンセッション規定を「更新」して可能な限り早く両メーカーにこの特典を適用したい、と考えているのだろう。
この案がはたして本当に実行に移されるのかどうかは、様々な動きが停止しているサマーブレイク中の現在では、なんともいいようがない。ただ、コンセッション規定を「更新」して日本の2メーカーに適用することの妥当性については、いくつかの簡単な指摘をしておきたい。
ひとつは、特定メーカーを「救済」するために規則を変更する行為は、普遍的であるはずの「きめごと」を、恣意的に運用することになりはしないか、ということだ。コンセッションの理念は、古参の強豪に対して新規参入勢を少しでも(結果の)平等に近づけるために、ハードルの高さに届きやすくするよう競争力を引き上げる、いわば「ゲタ」を与える手法だ。その「ゲタ」を、皆と同様に平等な技術開発機会を与えられていたにもかかわらず、運営の失敗や方針の見誤りなどの私的理由で競争力低下を招いた陣営の戦闘力向上のために運用することが、はたして公平なルール運用といえるのかどうか。
FIM
とはいえ、これは規則適用の当事者である参戦メーカー個々が、「規則の下の平等」や「機会の公平性」をどう考えるかという問題なので、彼ら自身が、ルール改変はメーカー間の平等性担保に抵触せず、コンセッション適用は恣意的なものではない、という合意に至れば、そういうものとして運用すればいいだろう。
これらの規則変更はグランプリコミッション(GPC:ドルナ、FIM、IRTA、MSMAの代表で構成)の提案と決議で決定するが、この規則のなかでも技術規則に関することがらはMSMA(モーターサイクルスポーツ製造者協会)の全会一致による賛成が必要とされている。MSMAはMotoGPクラスに参戦するホンダ、ヤマハ、ドゥカティ、KTM、アプリリアの5メーカーの代表で構成されており、彼らのうちのひとりでも反対すれば、ドルナが検討しているのであろうこの提案は成立しなくなる。
これはつまり、ホンダとヤマハが、自分たちにコンセッションを適用する提案の意味をどう理解して賛成/反対するのか、ということだ。同時に、欧州企業3社が、現状で戦闘力の劣る日本メーカー2社にコンセッションを適用することを公正な措置と考えるのかどうか、ということでもある。特にドゥカティは、2014年にファクトリーからオープンカテゴリーに鞍替えするアクロバティックな作戦でコンセッションを活用して開発を進め、戦闘力を取り戻した経緯がある。それだけに、この提案が実際にMSMAの議題に上ったときに彼らがいったいどう反応するのか、というのは気になるところだ。
しかし、それよりももっと肝要な問題がある。ホンダとヤマハに対するコンセッションが提案・適用され、シーズン中のエンジン開発等が可能になって使用基数やテスト回数が増えたとしても、それで本当に戦闘力の再向上を見込めるのかどうか、ということだ。彼らが極度の不振に陥っている理由が、バイクの性能差のみに由来するものであれば、大きな溝にも見える現在の差は、多少の時間がかかったとしてもコンセッションの適用でやがて埋まってゆくだろう。
だが、彼らの苦戦の原因が単にハードウェアの性能差のみではなく、技術開発の姿勢や企業としてのレースに対するアプローチなどに潜んでいるのならば、ゲタを履かせてもらったただけでは問題は容易に解決しないかもしれない。その場合には、むしろもっと深い層から手当てをして何かを根本的に変えていかないかぎり、一時的に埋まったように見えた溝はやがてまた底が抜けてふたたび大きな差が開いてしまうことにもなりかねない。
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つまり、彼らがレジリエンス(不利な状況から復活する力)を発揮して本格的な強さを取り戻すためのカギは、恒常的な強豪陣営としてふたたび活躍するに足る成長戦略の指針を中長期的な視野で示すことができるかどうかにかかっている、ということなのだろう。
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