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MotoGPコラム|スプリントレースは良案? それとも破壊者? 盛り上がり狙う運営の策に出た議論のタネとは

MotoGPが発表した2023年からの“スプリントレース”導入は、否定・肯定・様子見……様々な反応が寄せられている。急な発表にファンからも驚きの声が挙がっているが、今回はいくつか議論すべき点と見られているコトに関して考えてみた。

Paddock atmosphere

写真:: Gold and Goose / Motorsport Images

 第13戦オーストリアGPでも、いつものように様々なパドック発の話題が世界中を席捲した。そのなかでも今回は、選手たちの賛否発言を含めて大いに議論を呼んだスプリントレース実施の意義と課題について、少し考えてみたい。

 2023年からスプリントレースを毎戦土曜午後に実施する、という概要はオーストリアGP土曜11時45分からの記者会見で発表された。とはいえ、現状では新スケジュールの詳細はまだ定まっていないようで、近日中に追って発表、とされている。

 このスプリントレース実施は、二輪ロードレース世界選手権73年の歴史でもおそらく最大の変更のひとつ、といえそうだ。なにしろ、選手たちがレースを争うのはウィークの最終日、という連綿と続いてきた伝統を変えて、ウィークに2回レースを実施することになるのだから。それだけに、この新たなフォーマットには議論すべき論点がたくさんありそうだ。そのうちのいくつかを、以下で検討してみよう。

■ライダー不在の変更だった?

 まずは、この決定に至る手続き的な問題について。

 スプリントレース実施に関するライダーたちの賛否については、金曜と土曜の走行後取材で様々な意見が噴出した。両手を挙げて歓迎する選手から、なぜそんなことをしなければならないのかわからない、と明確に否定的な意見を述べる選手まで、立ち位置は様々だ。だが、金曜の走行後取材で取材陣から問われるまで、彼らは公式には何も通達されていなかった、ということは共通している(これらの取材時刻後に開かれたセーフティコミッションで、ようやく知らされた模様)。

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 あくまでも手続き的なことをいうならば、この新フォーマットが選手たちに事前通達されなかったことは、けっしてルール違反ではない。

 週末のスケジュール進行はスポーティングレギュレーションで定めることがらで、その変更はグランプリ常任委員会(FIM代表とドルナ代表で構成)とグランプリコミッション(FIM、ドルナ、IRTA、MSMAの各代表で構成)の専権事項だからだ。とはいえ、これはセッション時間短縮や延長といった通常の手続き変更ではない。日曜に行なう決勝の半分の距離とはいえ、ひとつの週末にレースを2回実施することになるわけで、精神と肉体への負荷、そしてなによりリスクが倍に増える選手たちへの通達や周知は、マナーや礼儀という意味でも、もう少し早い段階でなされてもよかったのではないか。

■スケジュール変更の余波

 

 また、このスプリントレースはチームのメカニックやメーカー技術者たちの仕事にも、一定の影響を及ぼしそうだ。

 現状で発表されている新スケジュールは、金曜午前午後の2回のプラクティスで予選Q1とQ2の組分けを行い、土曜の午前に従来のフリープラクティス4回目に相当する非計時セッションを行ってから、2回の予選を実施。そして午後にスプリントレース、という流れになる予定だという。

 現在のFP4は日曜の決勝レースと同じ時刻に行なうために、レースシミュレーションを実施する大きな意味があった。ところが、このセッションを決勝時刻よりも大幅に早い、つまり様々なコンディションが違う午前中に行なうのであれば、各チームがこのプラクティス時間に実施する内容やセッション戦略は、従来とはある程度異なってくるだろう。

 あるいは、スプリントレースを超実戦的ロングランと捉えるならば、日曜の決勝に向けてさらに有効なセットアップの積み上げを試せる、と考えることも可能かもしれない。とはいえ、予選が土曜午前に繰り上がる以上、チームと選手が金曜の走行時間のうちに実施すべきメニューは、従来よりもさらに慌ただしさを増すことになりそうだ。

 また、このMotoGPクラスのセッション時間変更は、Moto2とMoto3両クラスのスケジュールにしわ寄せが及ぶ可能性もある。両クラスの走行時間減少や日曜午前のウォームアップ取りやめといった案も検討されているようだが、両クラスがいままで以上に「添え物」扱いされていくのだとすれば、あまり双手を挙げて喜ぶわけにもいかない。

■チャンピオン争いへの影響や”記録”の整合……

 さらにメディアの視点からいえば、年間総合優勝決定の計算が複雑になり、チャンピオン確定の記録に混乱を招きかねないことも、あくまで付随的なこととはいえ、やや気がかりなことがらだ。

 二輪ロードレース世界選手権は73年の歴史で、レースは週末に一度だけ行われる、という伝統を守ってきた。そこに土曜午後のスプリントレースが加わることで、とくにチャンピオン争いが山場を迎えるシーズン終盤は、ポイント状況次第でいままでになく微妙な戦いを強いられることにもなりそうだ。

 スプリントレースの結果は、優勝や表彰台などの正式結果にカウントされない一方で、1位から9位までそれぞれ12、9、7、6、5、4、3、2、1点のチャンピオンシップポイントが与えられる。日曜の決勝レースは従来どおりに優勝から15位まで25、20、16、13、11、10……、と加点されるため、たとえば最終戦のスプリントレースを終えたときにランキング首位と2番手の選手に25ポイント差が開けば、土曜の段階で年間総合優勝が確定することになる。

2021年王者が決定した時のファビオ・クアルタラロ(ヤマハ)

2021年王者が決定した時のファビオ・クアルタラロ(ヤマハ)

Photo by: MotoGP

 つまり、土曜のスプリントレース結果は正式な優勝や表彰台にカウントされないにもかかわらず、そのリザルト次第では「本来の」決勝レースが行われる前日の土曜日にチャンピオンが確定する、というやや奇妙な事態が発生する可能性があるわけだ。同様に、最終戦ひとつ前のレースでは、土曜のスプリントレース後にランキング首位と2番手に62ポイント差が開いていれば、日曜の決勝を待たずにチャンピオンが決定する。

 グランプリの正式結果を一冊にまとめた「FIM MotoGP Results」という記録史料には、史上最年少・最年長チャンピオン記録(●年●月●日など)や各年チャンピオンの優勝率なども記されている。土曜のスプリントレースでポイントを加算しながら入賞記録をカウントしないことになると、この記録の歴史的整合性に支障が生じることもあるのではないか。

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 スプリントレースが今後ずっと続いていくのかどうかは不明だが、少なくとも後年にこの時代の記録を振り返ると、たとえばかつての有効ポイント制のように何らかの説明がなければ、後世の混乱を来してしまうことも考えられる。

■”それでも”スプリントレースは否定できない?

 とはいえ、この新たなフォーマット導入により、土曜日の走行はこれまで以上にショー的な興趣が増すことはまちがいない。2013年に予選をQ1・Q2のふた組にわける現在の方式が導入された際も、セッション観戦の関心を引き上げることに成功したが、スプリントレースはそのとき以上にエンターテインメント性が大きく向上する。きっと、土曜のチケット販売を伸ばす大きな誘因にもなるだろう。テレビ放送も、スプリントレースという新たな刺激を提供することで、さらに視聴者の大きな関心を集めることが可能かもしれない。

 だが、来シーズンのタイムスケジュールが上記で説明したとおりに、従来は土曜午後に行われているFP4とQ1・Q2を、土曜午前へ繰り上げる方向で検討しているのだとすると、放映時間の限定されるテレビ放送ではスプリントレース以前のセッションが放送されず、切り捨てられてしまうことも考えられるのではないか。そうなれば、視聴者はグリッド獲得に至る予選までの各陣営の流れや組み立て等を知る機会がなくなってしまうことになる。

 これは放映権を持つテレビ局が中継時間を増やせば解決する話だが、放送枠の拡大は外野が勝手なことを言うほど簡単ではないだろう。あるいは、公式サイトの有料会員になってオンラインでライブ実況を見るという最も手っ取り早い方法もあるが、そうはいっても、日本人には英語コメンテーターのマシンガントークを容易に理解できるものでもない。

スプリントレース導入の記者会見で。ドルナのカルメロ・エスペレータCEO、FIM会長のホルヘ・ビエガ、国際レースチーム協会(IRTA)会長のエルベ・ポンシャラル

スプリントレース導入の記者会見で。ドルナのカルメロ・エスペレータCEO、FIM会長のホルヘ・ビエガ、国際レースチーム協会(IRTA)会長のエルベ・ポンシャラル

Photo by: Dorna

 もちろん、そんなマニアックなところにわざわざ興味を抱かなくても、アドレナリンが噴出するレースを土曜と日曜に2回見る方がずっと面白い、という意見もあるだろう。それもたしかに首肯できる。

 だが、アクション映画は背後のドラマがしっかりと描かれているからこそ、派手な活劇シーンが大きなカタルシスをもたらすものだ。それと同じ理屈で、決勝本番に至るまでの、地味だけれども意義の大きいセットアップの過程を理解していればいるほど、激しく緊密なバトルというレースの興趣にさらに大きく感情移入できるようになるだろう。

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 今回の新フォーマット提案は、昨年末のバレンティーノ・ロッシ引退の影響や、パンデミック後の観戦者数伸び悩みに対するテコ入れ対策、ともいわれている。たしかにその見方はけっしてうがちすぎではないだろう。とはいっても、現チャンピオンの母国フランスGPでは、今年は3日間で22万5000人というパンデミック前の実績を凌ぐ動員を達成している。また、先週末の第13戦オーストリアGPも、土曜の来場者は4万5553人、日曜は9万2305人という高い水準だった(一方で、イタリアGPやイギリスGPの来場者数は大きく落ち込んでいる)。

 強い刺激を増やして耳目を集めるのは、人気を獲得する常套手段としてたしかに有効な方法だ。その意味で今回の新フォーマット提案は意義のある試みだろうし、上記各項で示したいくつかの懸念も、じっさいに運営面の課題となるのであれば走り出してから修正を施していけばよい。ただ保守的で懐古的な立場から新たな試みを否定してしまうのは、じり貧を招いて失敗に至る最短距離の道でもあるのだから。

 だが、人は刺激に慣れるものだし、さらに新たな強い刺激を求め続けてそれが得られなくなれば、あっさりと別のことに関心を移してしまう。

 人気向上のために刹那的ではない方策を探るのであれば、その競技本来の面白さをじっくりと周知徹底し、幅広く根強い誠実なファン層を育んでいくことだ。地味で時間はかかる作業だけれども、ファンと競技者と支援者がときにそれぞれの立場を入れ替えながら全員で真摯に人気を育んでいくことが、その競技を深く広く根付かせ、やがて大きく羽ばたかせてゆくためのなによりの血肉になる。

 そしてその土壌から、その国の人気を一身に背負う選手が登場して大活躍することが、きっとその競技人気の最大のカンフル剤になる。

 
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