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速いマシンを作り出すため、ドライバーに求められる“良いフィードバック”とは? カギは「言葉のチョイス」と「走りの客観視」

モータースポーツではドライバーとエンジニアが密にコミュニケーションをとっていかに良いマシンのセットアップを作り上げるかが重要である。スーパーフォーミュラに参戦するドライバーやエンジニアのコメントから、コミュニケーションにおいて重要と考えられるふたつのキーワードが浮かび上がってきた。

Ayumu Iwasa, TEAM MUGEN

Ayumu Iwasa, TEAM MUGEN

写真:: Masahide Kamio

 国内外で実績を積んだトップレベルのドライバーたちがひしめくスーパーフォーミュラ。しかしその中で好結果を残せる者はほんの一握りであり、リザルトがこれまでの実績や実力に見合っていないドライバーの方が多いと言ってもいい。それほどまでに、このカテゴリーは難しい。

 スーパーフォーミュラは車両がワンメイクとなっており、ドライバーの実力も拮抗しているが、それが逆にカテゴリーとしての“難しさ”を増幅させている。マシンのセットアップ、ドライビングスタイル、気象条件……さらにそれらの中に枝分かれされる様々な要素が複雑に掛け算された結果、ほんのわずかな差が生まれ、それが結果に結び付いている。そのため事前のテストではマシンのフィーリングやタイムが良くても、実際のレースウィークになってコンディションが変わると、不可解な程に調子を落とすドライバーも珍しくない。

 そういった不調の原因を特定するのは、前述の通り無数の要素が存在するため容易ではないだろう。ドライバーのドライビング技術なのか、チームのデータ解析力なのか、はたまた誰も責められないような“不可抗力”なのか……。その答えが見出せず、多くのチームやドライバーが頭を抱えている。

ドライバーが自分のドライビングを理解していれば、色々な“判断”ができる

Ayumu Iwasa, TEAM MUGEN

Ayumu Iwasa, TEAM MUGEN

写真: Masahide Kamio

 スーパーフォーミュラに限らずモータースポーツにおいては、ドライバーとエンジニアがいかにコミュニケーションをとって“速いマシン”を作り上げていくかが基本中の基本だ。ただそのコミュニケーションの世界は奥が深い。ドライバーからのフィードバックと、エンジニアの解釈との間に齟齬が生まれると、マシンのセットアップがうまくいかなくなってしまう。

 第4戦富士の前に開催された富士公式テストで、とある興味深いコメントをしたドライバーがいた。ルーキーの木村偉織(San-Ei Gen with B-Max)が、“ドライビングの軸”を作るためのロングランをしていたと話したのだ。

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「ドライビングもよく分からない中でセットアップをしたところで、走り方が変わるとクルマのフィーリングも変わってしまいます。例えばブレーキングポイントが10m、20m変わると、フロントにかかる荷重なども変わってきてしまいます」

「富士は僕が今まで乗ってきたカテゴリーとは運転の考え方が違うと感じました。具体的にはコーナーへの進入からターンインにかけての向きの変え方なのですが、そこが見つかった時に、自分が求めていたクルマの動きと、現実に起きていることが違っているんだと思いました」

 そう語っていた木村。同じくスーパーフォーミュラ参戦1年目である岩佐歩夢を担当するTEAM MUGENの小池智彦エンジニアも、そういった自分のドライビングスタイルを客観的に理解するようなアプローチは、ルーキーかどうかにかかわらず非常に重要だと感じている。彼はその理由を次のように説明した。

昨年はローソン、今季は岩佐を担当する小池エンジニア

昨年はローソン、今季は岩佐を担当する小池エンジニア

写真: Masahide Kamio

「あの(木村のような)考えを持っているドライバーは個人的にすごく強いと思います。それはルーキーだからではなく、全ドライバーに当てはまることだと思います」

「ドライバーって、経験を積めば積むほど『クルマでどうにかしてほしい』という気持ちが強くなると思います。ただセットアップは何かを良くしたら他が悪くなるものなので、基本的にはどうバランスを取るのか、どう妥協するのかになってきます。もちろん、セットアップ自体の全体的なレベルアップも必要ですけどね」

「ドライビングの軸が固まっているドライバー、自分のドライビングを理解しているドライバーであれば、『ここは(ドライビングで)詰められるけど、ここはクルマでしか(改善)できないよね』など、そういった色々な判断ができると思います。最悪なのは、ドライビングでカバーできる領域をマシン(セットアップ)の方でカバーしてしまって、ドライビングでカバーできない部分をマシン側でもカバーできていないことです」

「『ここはアンダーステア』『ここはオーバーステア』『ここはブレーキで奥までいけない』『ここは車高が低すぎる』と言われてその通りに直したからといって、良くなるとは限りません。それこそドライビングが変わってしまうと、クルマの状況も変わってしまうので」

「自分のドライビングがどうなっているかを自分で判断した上で、それをエンジニアに伝える……それが真のフィードバックだと思います。岩佐選手はルーキーですけど経験があるので、それができています」

 また小池エンジニアは、根っからのクルマ好きである岩佐が車両の構造をしっかりと理解している点もフィードバックに活きていると語る。小池エンジニアは昨年リアム・ローソンを担当してタイトル争いを演じたが、ローソンに対してはファクトリーでメカニックらと共に車両の機構について説明する機会を設けたという。

言葉のチョイスが明暗を分ける

坪井(左)と小枝エンジニア

坪井(左)と小枝エンジニア

写真: Masahide Kamio

 またドライバーは、車両について正確に感じ取れるだけではいけない。それをいかにうまく言語化して、エンジニアに伝えるかも重要なのだ。

 そういったコミュニケーションの改善が結果にも繋がっていると感じているのが、7月の富士戦でも勝利を飾った坪井翔(VANTELIN TEAM TOM’S)だ。

 坪井はスーパーフォーミュラでは長らくCERUMO・INGINGに所属していたが、今季からトムスに移籍して小枝正樹エンジニアとコンビを組むことになった。坪井はスーパーGTで長らくトムスに所属しているため小枝エンジニアも知った仲ではあるのだが、コンビを組むのは初めて。会話の中でのわずかな齟齬に手を焼くこともあったという。

 開幕から尻上がりに調子を上げていた坪井は、富士テストの際にこう語っていた。

「僕たちもここ(国内トップカテゴリー)まで上がってきた中で、ドライビングスタイルもある程度固まってきていて、ここはこう走る、といったイメージがあります。そこの意見や考え方に関しては、エンジニアさんとコミュニケーションをとらないといけません」

「僕はこれまで新しいエンジニアと組む経験があまりなかったのですが、こうやって小枝さんと初めてマンツーマンでコミュニケーションをとる中で、僕が言うコメントのニュアンスが伝わりづらかったり、同じことを言っているんだけど、微妙な言葉のチョイスの違いで、感じ取られ方が違っていたりしたと思います」

「そういった言葉の擦り合わせに関しては、何度もコミュニケーションをとってきました。その辺がちょっとずつ良くなってきたのだと思います」

「特に予選Q1からQ2にかけては、データをじっくり見る時間がない中で何を求めるかなど、短時間でコミュニケーションをとるのは簡単ではありません。その辺り、お互いが素早く短い言葉で理解し合えるようになってきていると感じています」

 ここで紹介した要素は、結果を出すために必要な多くの要素のひとつに過ぎないかもしれない。しかしながら、ドライバーはただクルマを速く走らせるだけではダメで、自分のドライビング中に起きている現象をいかに正確に把握し、それをいかに正確にエンジニアに伝えるかが勝敗にも関わってくる……これは紛れもない事実だろう。
 

 

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