【インタビュー】タチアナ・カルデロン「ここまで頑張れたのはレースが大好きだから」
今季からスーパーフォーミュラに参戦するタチアナ・カルデロンに、motorsport.comはオンラインによるインタビューを実施。知られざるバックボーンや意気込みを訊いた。
写真:: 吉田知弘
新型コロナウイルスのパンデミックによりモータースポーツの開幕が大幅に遅れている昨今。コロンビア出身の女性ドライバー、タチアナ・カルデロンは、2020年のスーパーフォーミュラ参戦に向けスペインでトレーニングを続けている。今回はそんな彼女にインタビューを実施し、レースを始めたきっかけやSF参戦の経緯などを訊いた。
ーーまず、レースを始めたきっかけを教えて下さい。コロンビアではモータースポーツは盛んですか?
「始めたのは9歳の時です。姉のパウラが近くのレンタルカート場へ連れて行ってくれて、そこで5分間走行券を買って走ったんです。スピードに興奮し、アドレナリンが出るのが分かってたちまち虜になってしまいました。ちょうどファン・パブロ・モントーヤがF1に乗り始めた頃で、サッカー全盛のコロンビアでモータースポーツも少しだけ人気が出始めた頃でした。ただ、コロンビアにはサーキットは少なく、しっかりとしたレース・シリーズもなかったので、まずアメリカに渡って経験を積んで、それからヨーロッパでフォーミュラカーのレースに出ることにしました。
カート時代のカルデロン。いくつものタイトルを獲得した
Photo by: GRM
ーーコロンビアには若手ドライバー育成のシステムはありますか?
メキシコに本社を置くテルメックスという通信大手が運営するエスクデリア・テルメックス(Escuderia Telemex)という、中南米の国々で唯一運営されている若手ドライバー育成プログラムがあります。私は5年前にそのメンバーに選ばれて、支援して貰えることになったのです。今年からはテキーラの製造販売を行なうバンデロ・テキーラ・アンド・コー(Bandero Tequila and Koe)がスポンサーに付いてくれて、日本のレース参戦を支援してくれることになりました。
ーーモータースポーツに惹かれたのはなぜですか? モントーヤが夢を与えてくれたから?
「レースを始めたのは、ハンドルを握っているのが本当に好きだったからです。レースでは常に結構速かったんです。だからF1ドライバーになることが夢でした。モントーヤが出て来たことで、私も夢がちょっと近づいた気がしました」
モントーヤの活躍で「F1が近付いた気がした」という
Photo by: Sutton Images
ーーモータースポーツには男女の壁はないですからね。
「私は女性だから限界が低いとか男性だから競争力が高いと感じた事はありません。モータースポーツは唯一男女が同じ土俵で戦うスポーツです。やる気と才気が鍵で、性別や国籍は関係ありません」
ーーあなたは裕福な家庭の生まれです。その家庭環境があなたの夢を叶える助けになりましたか?
「はい、それは否定しません。家族の支えがなければ今の私は存在しません。両親は、夢は大きく持ち、懸命に働くことを教えてくれました。どんな夢であろうと、それを叶えるためには頑張るしかないことを教えてくれたんです。私のレース活動は姉のパウラがマネージャーでありPR係で、弟も一緒に私を支えてくれています。両親は故郷から私を励ましてくれます。とにかくやりたいことがあれば男だろうが女だろうが関係なく頑張ることです。両親や兄弟はそのことを私に教えてくれました」
姉のパウラと料理を作るカルデロン(手前)
Photo by: GRM
ーーあなたはコロンビアの首都ボゴダでコレジオ・ヘルベチア(Colegio Helvetia)という多言語を教える学校へ通い、そこを卒業してすぐにヨーロッパに渡りました。海外へ出たのは学校で外国語を学習したからですか? それともレースがしたかったからですか?
「今振り返ってみると、外国語を何ヵ国語か理解出来るということは大変役に立っていると思います。でも、私が海外へ行くきっかけはレースです。スポーツはいろんなことを教えてくれます。特にコロンビアではモータースポーツはそれほど盛んではなかったので、私の未来は海外だと考えていました。スペイン語、ドイツ語、英語を話すことが出来たことはヨーロッパで大きな助けになりました。現在は日本語を勉強しています。この国の文化にはとても興味があるし、スーパーフォーミュラも大好きです」
ーー2011年からヨーロッパでレースを続けますが、なかなか成績がついてきませんでした。スペインF3選手権6位が最高。成績不振が続いてレースを止めようと考えたことはありませんか? 何があなたにレースを続けさせたのですか?
「イギリスF3で表彰台に立ちましたし、ワールドシリーズ・フォーミュラV8 3.5でも表彰台に立ちました。MRFチャレンジでは速いドライバーと戦い2位、ユーロF3選手権ではマックス・フェルスタッペンやエステバン・オコンと走って何度かトップ5、トップ10に入っています。もちろん望んだ結果は得られていませんが、自分は争いの激しい選手権においても優れたドライバーであるという自負は持っています。結果だけを見て勝っていないということは簡単です。でも勝利する、表彰台に上がるにはトップチームでクルマを含めて優れた装備が必要です。私はその点では恵まれていなかったと思っています。それでも私が頑張れたのは、私自身のレベルが高いことを認識しており、競争が好き、レースが好きだったからです。素晴らしい環境、優れた装備が手に入れば私の実力をお見せすることが出来ると思います」
ーー2019年はFIA F2選手権に挑戦しましたが、残念ながら22位という成績に終わりました。この結果をどう受け止めますか?
「2019年は私のキャリアのうちで最も困難で最低のシーズンになりました。2018年にテストをしたときには凄く感じが良くて、クルマも私に合っていました。でも、最終的にF2参戦を決めたのが遅く、テストをしたチームにはもうシートの空きがなく、違うチームへ行かざるを得ませんでした。ちょっと問題のあるチーム(BWTアーデン)で、前もってテストができず、やっとテストに漕ぎつけたと思ったらテストの2日前に私の担当エンジニアがチームを辞めたんです。それで結局テストをする時間もなく、クルマは全然私に合っていないし、そうでなくてもタイヤを理解するのが大変難しかった。F2を4年も5年もやる人がいることが分かりました。とにかく私にはクルマを理解する時間さえなかったというのが本音です。
FIA F2では苦しいシーズンを送った
Photo by: FIA Formula 2
ーーあなたは自分のことをプロフェッショナル・レーシングドライバーだと思いますか? あなたにとってプロのドライバーの基準は何ですか?
「私はプロのレーシングドライバーです。成績は良い時も悪い時もありますが、アルファロメオF1チームのテストドライバーを務めている点を見てもらっても、プロのドライバーと言えるでしょう。F1グランプリの世界で仕事を得るのは、女だからあるいは良い人だからということでは叶いません。アルファロメオF1チームの人達は、私がやるべき事をやっているというのを見ていてくれたのだと思います」
ーースーパーフォーミュラのことは知っていましたか? スーパーフォーミュラで戦うと決めた理由は? 未知の国の未知のレースを戦うことに不安はありませんでしたか? スーパーフォーミュラはあなたのキャリアにプラスになると思いますか?
「私は何年もスーパーフォーミュラのことを追いかけていました。世界でも屈指の厳しいレースですし、クルマはどこまでもF1に近いと思います。昨年の末、日本のマーケットに非常に興味を持っているスポンサーが私を援助してくれることが決まりました。バンデロ・テキーラ・アンド・コーです。そこで、私が彼らのスポンサードで日本のスーパーフォーミュラを走ることが出来れば、バンデロ・テキーラの名前を日本で広めることができると考えました。そして、多くの人の助けがあり、スリーボンド・ドラゴコルセのチームでレースが出来ることになったのです。何もかも初めてですし、我々のチームはドライバーが私ひとりなので苦労すると思いますが、でも私は挑戦することが好きなので大丈夫です。スーパーフォーミュラは、戦い、クルマ、チーム、ドライバーなどどれをとっても最高のレベルにある選手権だと思います。学ぶことは多くありそうです」
富士で行なわれたスーパーフォーミュラのテストでチーム監督の道上と
Photo by: GRM
ーーそのスーパーフォーミュラでテストした感想は?
「ダウンフォースの大きさとスピードの高さに衝撃を受けました。F2の比ではありません。まずタイヤの性格がこれまで経験したものと異なるので理解する必要があります。クルマ自体も私には新しいので、要求してくることをよく理解しないといけない。もしかすると、ドライビングスタイルを変えないといけないかもしれません。日本のチームも初めてなので、仕事のやり方を理解しなければいけないと思っています。テストはとても気持ち良く走れました。チームのみんなとも上手くやれたと思っています。多くの周回をこなせたので満足です」
ーー日本でテストをしている間に世界は新型コロナウイルスで大変なことになり、あなたもすぐにはスペインに帰ることが出来ませんでした。日本に閉じ込められている間は何をしていましたか?
「テストの後で10日間日本にいました。その間、富士山へ行ったり美しい湖へ行ったり、神社やお寺を訪れました。その後で数日東京で過ごしたのですが、なるべく出歩かないようにしました。でも、日本の文化や料理を覚える良い機会でした。もちろん、トレーニングもしましたよ。今はマドリッドに帰ってきています。世界中の人が大変困難な時を過ごしていますが、私も健康に気をつけて、いつレースが始まっても良いように体力作りに励んでいます。スーパーフォーミュラでは特に首が大変なことになりそうなので、集中的にトレーニングしています。もちろん、メンタルトレーニングもやっています。良い精神状態で開幕を迎えたいですから。それから、ROKiT Phoneがドライビングシミュレータを提供してくれたので、毎日自宅で日本のすべてのサーキットを攻略しています。早く実際のサーキットを走りたいですね」
ーーあなたのヒーローは誰ですか?
「ファン・パブロ・モントーヤです、もちろん。レース以外ではテニスのロジャー・フェデラーですね」
ーー有り難うございました。最後に、クイック・クエスチョンに一言で答えて下さい。これは、アメリカのアクターズ・スタジオという芸能学校のジェームス・リプトン校長が、有名俳優とのトークショーの最後に尋ねていた質問と同じものです。
1)一番好きな言葉は?
勝利。
2)一番嫌いな言葉は?
針。
3)何に興奮しますか?
エンジン音。
4)落ち着くのは?
メディテーション(瞑想)が私のスイッチを切ってくれます。
5)好きな音は?
昔のF1の大きなエンジン音。
6)嫌いな音は?
ドリルの音。
7)一番好きな罵りの言葉は?
くそったれ(Sh***t)
8)今の職業に就いていなければ何になっていた?
テニス・プレーヤー
9)絶対につきたくない職業は?
医者。血が怖い
10)天国の入り口で神にかけてもらいたい言葉は?
あなたの勝ちだ。
ーー有り難うございました。
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