ThreeBond DragoCORSE、タチアナ・カルデロンのレース日記|第1回:ハイレベルなスーパーフォーミュラで奮闘し自信取り戻す

2020年から日本のスーパーフォーミュラにThreeBond DragoCORSEから参戦しているタチアナ・カルデロンが綴るレース日記。第1回は、ヨーロッパのF2で悪夢を味わったカルデロンが、日本で自信を取り戻していくまでについて語ってくれた。

Tatiana Calderón, ThreeBond DRAGO CORSE

Tatiana Calderón, ThreeBond DRAGO CORSE

Masahide Kamio

 皆さん初めまして、タチアナ・カルデロンです。ThreeBond DragoCORSEチームから日本のスーパーフォーミュラと、リシャールミル・レーシングからFIA世界耐久選手権(WEC)に参戦しています。スーパーフォーミュラは今年2年目ですが、昨年はこの日本のトップカテゴリーのレースに参戦した初めての女性ドライバーという栄誉に預かりました。日本に来る前はヨーロッパで数多くのレースに参加していました。F3、GP3、それからF2でも走りました。中でも最も自慢できるのは、昨年アルファロメオF1チームのテスト・開発ドライバーとしての職を得たことで、今年も継続しています。今月から、毎月一回のペースで私のレース日記を、motorsport.com日本版に掲載してもらう事になりました。読者の皆さん、私の日記を読んで是非応援して下さい。

 ご存じのように、私は昨年からThreeBond DragoCORSEチームから日本のトップカテゴリー、スーパーフォーミュラに参戦しています。この挑戦は私にとって非常に厳しいものでした。これまで一度も訪れたことのないまったく新しい土地で、新しいチームに加わり、チームメイトもいないひとりだけのレースをする。それも非常にレベルの高いシリーズ。でも、この挑戦は私にとって素晴らしい経験であり、私にチャンスを与えてくれた道上龍さんには感謝の気持ちでいっぱいです。そして、今年もその挑戦を続けられることになり、この上ない幸せを感じています。開幕戦の富士では思い切り力を発揮出来、これから先の希望が見えました。

 これまでヨーロッパでレースをしてきた私にとって、日本でレースをするということはまったく予想だにしなかったことです。これまではF1に乗ることを唯一の目標として来ました。もちろんいまでもそれが第一目標ですが、昨年から始めたスーパーフォーミュラとWECへの挑戦で、新しく視野が開けたことを実感しました。これまで経験してきたヨーロッパのレースでは、成績へのプレッシャーと活動資金の厳しさばかりがのしかかっていましたが、日本でスーパーフォーミュラを戦うことでより充実したドライバー人生を送ることが出来ているように感じます。特に2019年に戦っていたヨーロッパのF2と比べると、スーパーフォーミュラはプロのドライバーとして戦う価値が非常に高いカテゴリーといえます。

■ヨーロッパではF2までステップアップ。しかしそこで“悪夢”を見る

 私がF1ドライバーを夢見たのは、母国コロンビアで9歳でカートを始めたその時です。私は姉のパウラとずっと一緒にレースをやってきたので、我々にとれば女性だからという特別な感覚はありませんでした。我々が物心ついた頃、コロンビアのヒーローであるファン・パブロ・モントーヤがF1グランプリで大活躍をしており、我々は朝早く起きて彼の走るF1グランプリをテレビで観るなど、ずっと彼を追いかけていたんです。その後私がカートレースを始めると、いつの日か私もF1ドライバーになるんだという夢を描き始めました。

 2008年、私がアメリカでStars of Karting選手権で勝ったのをきっかけに、私のレース人生はよりシリアスなものになってきました。姉のパウラは当時勉強を優先してレースは止めていました。私も大学に進学する年齢になった時、悩みはしましたが、大学へ進学するよりレースに真剣に取り組みたいと思い、両親を説得にかかりました。彼らは私がそれまで真剣にレースに取り組んでいたことを知っていたので、支援してくれることを約束してくれました。

 2010年、私はアメリカ・インディアナポリスに住み始めて、インディ・ライツの下のクラスであるStar Mazdaシリーズを2年間戦いました。何度か表彰台に上がり、インディ・ライツへステップアップするチャンスも掴んでいましたが、そこで考えたのです。インディカー・レーシングは走ってみたいけど、オーバルレースは安全の観点からあまり気が進まなかったからです。ちょうどラスベガスのレースでダン・ウエルドンが事故死したばかりでした。そこで私はアメリカでレースをすることを諦め、ヨーロッパでF3のテストを受けることにしました。それこそF1グランプリへ繋がる階段だと判断したのです。

 ヨーロッパに渡ってからはヨーロピアンF3オープンを1年、2013年にFIA F3シリーズにステップアップして3年間戦いました。そこでは大きな成長を感じました。同じシリーズを戦っていたドライバーにはいまF1グランプリを走っているマックス・フェルスタッペン、シャルル・ルクレール、ジョージ・ラッセル、エステバン・オコン、アントニオ・ジョビナッツィ、ランス・ストロールという仲間がいました。その後GP3へ移って3年レースをしましたが、その間にザウバーF1チーム(現在のアルファロメオ)の開発ドライバーとして契約をしたのです。

Tatiana Calderon, Sauber Test Driver

Tatiana Calderon, Sauber Test Driver

Photo by: Manuel Goria / Motorsport Images

 2018年のメキシコGPの折、初めてアルファロメオF1カーのステアリングを握りました。最高のフィーリングでした。その当時、すべてのことが上手く回り始め、2019年にはアルファロメオの支援でFIA F2に進出できたのです。ところが、そこからが悪夢でした。クルマが全然フィットせず、チームのエンジニアが1年のうちに何人も変わるという最悪の事態でした。ああ、もう忘れたい年です。そこに、2020年に日本でスーパーフォーミュラを走らないかという誘いが来たのですから、飛びつかないわけがありません。

■スーパーフォーミュラで取り戻した自信「もう2年前の私ではない」

 実際、2020年は最近では最も楽しめた年でした。スーパーフォーミュラと同時に、リシャールミル・レーシングからデイトナ24時間を皮切りにヨーロッパ・ルマン・シリーズのLMP2クラスに参戦出来たからです。憧れのル・マン24時間レースにも出場できました。ル・マンでは30年振りに女性ドライバー3人組の参戦として話題に上りました。そして、今年はWECにステップアップ、世界のトップ・スポーツカードライバーと戦います。ライバル(?)って言っていいのかどうかわかりませんが、私の子供時代から憧れのファン・パブロ・モントーヤとも戦うんですよ。

 とはいえ、私が最も好きなレースはシングルシーターのレースです。だから、ThreeBond DragoCORSEさんからスーパーフォーミュラへの誘いがあったときには天にも舞い上がる気持ちでした。日本のスーパーフォーミュラは、かつてストフェル・バンドーンやピエール・ガスリーの参戦などによってヨーロッパでは非常にレベルの高いレースとして認知されています。最近ではそこで活躍したアレックス・パロウやニック・キャシディがインディやフォーミュラEで走っており、私も自分の力を試す絶好の場だと思っています。

 でも、日本に来たばかりの時には、それが正しい選択だったかどうか自信がありませんでした。多くの人が日本のスーパーフォーミュラが厳しい世界だということを教えてくれたので、キャリアに傷がつくのではないかと心配しました。でも、来てみたら、ラップタイムだって4秒も遅いということはなく、それほど心配することはないとわかったんです。もちろん慣れるまでには時間がかかりましたし、最初にテストをしたあとコロナのせいで5ヵ月もクルマに乗れなかったことは流石にこたえました。しかし、2020年の最後にはレースに出場でき、自分に十分競争力があることがわかったので、F2ですっかりなくしていた自信を取り戻すことが出来ました。もう2年前の私ではありません。

 私が自信を取り戻したのは、昨年のスーパーフォーミュラの鈴鹿のレースです。その前の岡山、菅生の2レースをコロナの日本入国制限で走れなかったわけですが、やっと入国できてオートポリスで走った時に、テストの時とクルマがまったく違っていたのに驚きました。私が休んだ2レースは代わりに塚越広大選手が走りましたが、彼のセッティングが私とはまったく異なっていたんです。しかし、鈴鹿戦はダブルヘッダーで2レースが行なわれたおかげで、クルマにも慣れ、自分にも自信がつきました。チーム内でも信頼を勝ち取れたと感じ、私がやれるところをチームのみんなに見せてあげることが出来たと思っています。その結果、チームも私の希望通りのクルマに仕上げるために猛烈に働いてくれました。

 F2で自信を失った後でしたが、スーパーフォーミュラで頑張れたことは自信を取り戻し、男性を相手にしても十分に戦えることを証明することが出来ました。チームオーナーの道上龍さんが2年目も私を走らせたいと言ってくれたときには最高に嬉しかったです。ヨーロッパでレースをやっていたときには、2年以上同じチームで走ったことはありませんでした。1年目に成長が感じられたと思っても、翌年はまた違うチームで最初からやり直しでした。ですから、同じチームで複数年走ることが出来るということがこんなに快適なものだとは知りませんでした。そして、日本の文化を理解し、多くの人達とのコミュニケーションもよりスムーズになりました。

タチアナ・カルデロン Tatiana Calderon(ThreeBond Drago CORSE)

タチアナ・カルデロン Tatiana Calderon(ThreeBond Drago CORSE)

Photo by: Masahide Kamio

 現時点でまだポイント獲得出来ていませんが、2021年の開幕戦富士スピードウェイのレースはやり甲斐がありました。予選は11番手。これまでの最高位です。決勝レースでも十分にポイント獲得圏内で走れました。ただ、レースが始まって直ぐに無線が壊れ、レース中まったく情報が入ってこず、予定より5周も遅いピットストップになりました。ピットアウトしたときには雨が激しくなりタイヤは温まらない。そこで大きなタイムロスをしたと思います。レース中にはOTS(Over Taking System)ボタンが不調で、結局一度もOTSは使えませんでした。

 ペースはレースを通してまずまずで、中嶋一貴選手や山下健太選手といった経験豊富なドライバーと争い、13位でゴールしました。ポイント圏外だったことは残念で、立ち直るのに日にちを要しましたが、レースのペースは決して悪くなく、クルマのポテンシャルも十分に感じられました。(第2回に続く)

 

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