スーパーフォーミュラ
SFチャンプ岩佐歩夢、速さの裏にこの男あり。エンジニアも全幅の信頼……MUGENチーフメカニックの流儀「『変わったことやるね』と言われます」
昨年、スーパーフォーミュラでチャンピオンに輝いた岩佐歩夢を担当したTEAM MUGENの八木下雄貴メカニックは、同じく岩佐担当の小池智彦エンジニアからも全幅の信頼を寄せられている。スーパーフォーミュラではメカニックもパフォーマンスの差別化要因だと言われる中、八木下メカはどんなことを考えながら仕事をしているのか?
戎井健一郎
編集: 2026/03/22 8:54
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岩佐歩夢、SF初優勝のひとコマ。岩佐の左隣が八木下メカニック
写真:: Masahide Kamio
2025年のスーパーフォーミュラでチャンピオンを獲得したのは、TEAM MUGENの岩佐歩夢だった。岩佐はトラブルやアクシデントでいくつかのレースを取りこぼすことはあったが、パフォーマンス自体は非常に高い水準で安定しており、予選ではフロントロウを5回獲得、決勝では完走した9戦中7戦で表彰台に上った(内優勝2回)。
そんな岩佐と共にシーズンを戦ってきたのが、小池智彦チーフエンジニア。ドライバーと共にマシンのセットアップを煮詰め、レース戦略などの各種オペレーションも担うチーフエンジニアはドライバーの右腕的存在であり、中継でその姿がフィーチャーされることも多い。
その実力は、同じくTEAM MUGEN所属で2度のチャンピオンエンジニアである一瀬俊浩氏が「劣等感のようなものを感じた」と語るほど。小池エンジニアは、岩佐のタイトル獲得に間違いなく貢献したと言えるだろう。しかしその小池エンジニアは、八木下雄貴チーフメカニックの貢献が大きかったと話していた。
スーパーフォーミュラはワンメイク車両によって競われるレースだが、競争レベルが高いが故に、ドライバーのスキルやエンジニアのセットアップだけでなく、メカニックによる車両整備のクオリティもパフォーマンスを司る大きな要因であることが、ここ最近多くの関係者によって証言されている。またスーパーフォーミュラは、パーツ点数が多くメカニックも分業制の色が強いスーパーGTよりも、チーフメカの力量差が大きく出るという声もある。
例えば実力あるドライバーが不可解な不振に陥った時、傍からはそれがモノコックの個体差による“ガチャ”的要素だと片付けられてしまいがちだが、そもそもレーシングカーのような精密な車体であっても、工業製品として許容されるレベルのわずかな誤差は確実に存在する。重要なのは、それらを踏まえた上でどのように車体を組み上げ、パフォーマンスを出せる状態にするのか、ということだ。
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小池エンジニアは、NAKAJIMA RACING時代からの同僚で、MUGENでは共に笹原右京、リアム・ローソン、そして岩佐を勝利に導いてきた八木下メカニックに全幅の信頼を置いている。曰く、八木下メカの組み上げた車両では、他チームで聞かれるようなセットアップの感度が出ない(=セットアップを変更したにもかかわらず、それがフィーリングに反映されない)などといった現象が起こったことはないのだという。
そんな八木下メカニックは、どんな思想で車両を組み上げているのか? 話を聞く機会があった。
メカニックには色々と組み付けの“テクニック”があるとされるが、企業秘密の側面もあり、その詳細はなかなか表には出てこない。ただネジの締め方ひとつをとっても違いが出るといい、実に奥が深いと聞く。
中でも八木下メカニックの仕事は、ライバルチームから見ても一風変わっているようだ。
「他のチームさんと比べて組み方は特殊かなというところはありますね」
「工場だと僕ひとりでやっているので、結構自分の好きなようにクルマを組んでいます。その中で自分なりに色々と考えて、小池とも相談しながら色々試しているのですが、よそのチームさんと話す限りは、自分はちょっと特殊な組み方かなという気がしますね」
岩佐と談笑する八木下メカニック(左)
写真: Masahide Kamio
その“特殊な組み方”について、「具体的には言えないんですけど……」と苦笑した八木下メカニック。自身を含めメカニックが工夫している点については、「締め付け方、外板の取り付け方は結構工夫していると思います」と話した。
そして驚いたのが、彼が「数字は嫌い」と言い放ったこと。数値を根拠に定量的なアプローチで再現性高く車両を組み上げるメカニックこそが優秀なのかと思っていたが……どうやらそれだけではないようだ。
思い返せば昨年、ROOKIE Racingの石浦宏明監督がこんなことを言っていた。
「(前回と)同じように精度高く組むだけなら、そんなに難しくないのではないかと思うのですが、それがどう性能に直結するかといったことを追求するのは、各チーム色々な視点があると思います」
「そこは奥が深すぎて、誰も100%の正解は持っていないと思います。ただこれは想像ですが、SFでもよく優勝するようなチームは、きっと何か独自のノウハウをたくさん持っているのだろうなと感じます」
なるほど、結局のところ最も重要なのは数値が揃うことではなく、その車両からパフォーマンスが出せるかどうかなのだ。八木下メカニックは自らの哲学について次のように話す。
「僕は基本的に数字が嫌いなんですよ。だからエンジニアの仕事もあまり好きではないですし。自分が感覚的に思ったことをクルマに取り入れちゃうタイプなんです」
Ayumu Iwasa, TEAM MUGEN AUTOBACS
写真: Masahide Kamio
「他のチームのメカさんはアライメントとかを大事にすると思いますが、僕は正直そういうのにあまり興味がないんですよ。もちろん、ある程度のところまでは数字を追いかけるのですが……。何と言えばいいか難しいですが、『ウイングをこういう風に締めて』とか『ここの角度がこうなれば良くなる』といった外板のところは結構気にしています」
「僕の場合は、あまり意識していないのですが、自分の組み方が結果的にそう(パフォーマンスの再現性がある方向性に)なっているのかなと。一緒に仕事をする人からはよく『変わったことやるね』と言われますね」
彼のことを、「数字は追わない感覚派」「天才肌」と呼んでしまうのはいささか乱暴であろう。彼の特殊な流儀は、レーシングカーの本質を深く理解していることの裏返しなのかもしれない。
昨年のJAF表彰式で、SFチャンピオンメカとして金のスパナを受け取った八木下メカニック。彼は今後、いくつこのスパナを手にすることになるだろうか。
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