【インタビュー】ホンダ長井昌也モータースポーツ部長(1)「今は大きな転換期。新しいことを認めなくては」

2021年4月より、ホンダのモータースポーツ部長に就任した長井昌也にmotorsport.comがインタビュー。前半では今後のモータースポーツの在り方、後半ではメーカーとドライバーの関わり方を中心に語ってもらったが、第1回の今回はその前半部分をお届けする。

【インタビュー】ホンダ長井昌也モータースポーツ部長(1)「今は大きな転換期。新しいことを認めなくては」

 ホンダ広報部長から中国ホンダ(本田動力(中国)有限公司)に駐在になり、総経理として過ごして来た長井昌也が、今年4月1日からモータースポーツ部長として本社に戻って来た。これまで不可解なマネージメントが多々見られたホンダのモータースポーツ活動だが、長井の就任で是正はなされるのだろうか? 何もしなくてはこの先必ず行き詰まるといわれるホンダのモータースポーツ活動。長井の力で甦るか? その手腕をとくと拝見させていただこう。

ーー広報部長から中国へ。中国では何をなさっていたんですか?

「ホンダには2輪、4輪、そして、かつて汎用といわれたLCという部門があります。ライフクリエーションと言うんですが、その部署の責任者をやっていました。発電機だとか船外機、芝刈り機、建設用機器などを扱う部署です」

ーー中国ではモータースポーツ関連のパーツ等は扱っていらっしゃらなかったんですね。

「はい、私はモータースポーツ関連にはまったくタッチしていませんでした。私は中国駐在は2度目だったのですが、一度目は4輪の工場責任者で、上海のサーキットが出来たときに中国のジャーナリストさんなんかと足を運んだ程度でした」

ーーじゃあ、今回帰国していきなりモータースポーツ部長だと言われて……

「正直言って驚きました。私がホンダに入社したのは1987年で、F1活動第2期の真最中です。新しい社長の三部敏宏、ブランドコミュニケーション本部長の渡辺康治も同じ時期に入社しました。でも、これまでモータースポーツとは関係のないところで働いていまして、定年が見えてきたいまやれと言われて、嬉しくもあり、ビックリでもあります」

Ayrton Senna, Team Lotus Honda 99T

Ayrton Senna, Team Lotus Honda 99T

Photo by: Motorsport Images

ーーホンダに入ったからには一度はモータースポーツやらないと、と言う気持ちはありましたか?

「会社自体がモータースポーツと共に育ちましたから、遺伝子の中に組み込まれているように思っています。最近の新入社員はちょっと様子は違うかもしれませんが、我々の世代はまさにモータースポーツと一体化していましたから」

ーー長井さんは具体的にモータースポーツをどう考えていらっしゃいましたか?

「自分の会社の商品ラインアップの頂点にNSXがあり、そのフラッグシップに入っている技術が他社の技術と競っているというのが私の持って居るモータースポーツのイメージでした。ところが、ここに来てクルマが大きく変わり始め、カーボンニュートラル技術に転換して行きつつあります。ですので、モータースポーツの世界でもいままで思っていたモータースポーツと違うものがいままさに動き始めたと言うことだと思います。サーキットでレースをしているクルマはまだガソリンを使っていますが、市販車では電動車がドンドン増えてきている。だから、技術の位置付けが変わってきていると思います」

ーーレースはもう「走る実験室」ではなくなったと。

「恐らくいま瞬間的に量産技術とレース技術の位置関係が逆転していると思われます。それは、電動化という流れがあるからですね。ただ、時間が経ってくるとレースがまた技術を引っ張って行くようになるんじゃないかと。そういうふうになって行くと思います、レースを自動車メーカーがやっている限り」

ーークルマの役割が走るというだけではなくなってきたということですかね。

「レースはただ速く走るというためだけにクルマ作っていますが、街の中の自動車は走るだけじゃなくて様々な付加価値がついてきましたから。曲がる、止まるの技術とはまた違ったものが要求されてくる」

ーーレースも含めてクルマ全体の社会を見ていくと、間違った方向に進まないように議論を尽くさなければなりませんね。

「はい、道筋をつけていく人がいないといけないんですが、これからのモータースポーツはどっちへ向かっていくかを良く見極めないといけません。今とはきっと違うことになると思うんですが、過去に拘ってエンジンは音がしないといけないとか言うのじゃなくて、新しいことを認めなくてはいけません。ただ、そういうことが体感的にわかって推し進めて行くのは次の世代の人に託すのがスジなんじゃないかと思います」

ーーモータースポーツの技術的な面はこれからも自動車メーカーが担っていくことになると思いますが、メーカーによって大きく差がつく先進技術をどうレースに取り入れるかは、これから解決しなければいけない問題ですね。

「レースは一社でやるわけではないので、 皆で意見を出し合っていかないと。方向性としてはカーボンニュートラルに向けた技術を競うようになると思いますが、どういうフィールドで、どういうルールが良いのか皆で考えていかないといけませんね」

ーー自動車メーカーにとれば面倒臭い時代になりましたね。

「面倒臭いとは思いません。やっぱりレースで培った技術が市販の商品に反映されるというのがレースをやっていく上での理想で、だからレースをやっているというのが自動車メーカーの大義ですから。世の中に役立つ技術を磨いていくのが自動車メーカーの使命だと思うので、そのことが根底にないと自動車メーカーがレースに参加する意味を見つけるのが難しいですね」

ーーそういうことをベースとして、自動車メーカー、特にホンダは様々なカテゴリーのレースに参加しているわけですが、それらをバランス良く纏めて行くのが長井さんの仕事だと。

「僕もまだいまのポジションに就いたばかりで、どのカテゴリーとどのカテゴリーがどういう風な位置付けにあるのかということを完全に把握しているわけではありません。ただ、もう少し上手く整理していけば、それぞれがもっと上手く位置づけられるんじゃないかと思います」

#1 STANLEY NSX-GT

#1 STANLEY NSX-GT

Photo by: Masahide Kamio

ーースーパーフォーミュラはさておき、スーパーGTはマーケティングの面でも重要かと思いますが、いかがですか?

「スーパーGTでは各自動車メーカーのフラッグシップというクルマが登場するのですが、トヨタはスープラ、日産はGT-R、ホンダはNSXですよね。しかし、時代が変わる中でガソリン・エンジンのこうしたクルマがずっとレースを継続していくかということに危惧を抱いていることも正直な気持ちです。将来を考えると、いまのラインアップにない先進技術を搭載したカーボンニュートラル対応のクルマが出てくる可能性がある。であれば、そういうクルマがないといけない。難しい話です」

ーー具体的にホンダはどうですか? やっぱりNSXですか?

「ホンダのラインアップがどうなんだと言われると非常に難しいんですが、GTレースも参加各社のフラッグシップモデル、あるいはスポーツモデルがどういう風になっていくかによって変わっていくわけですから。うちもいつまでもNSXじゃないかもしれない。ただ、私はまだ商品企画の人と徹底的な話をしていないので、いま現在は何とも言えないですね」

ーーレースのために市販車のラインアップを考えるというのはない話ですが、レースに通用する技術を備えたクルマはラインアップに欲しいですね。

「自動車メーカーにとってモータースポーツの現場で磨いた技術が量産車技術に繋がるというのは大変重要なことで、それを考えると商品ラインアップも大きく変わってくると思います。レースの技術と量産技術のどっちが先かというニワトリと卵じゃないですが、とにかく両者は密接な関係になくてはいけませんよね」

ーーホンダは技術の会社だと思っていたのですが、いまトヨタにお株を奪われているように思えます。トヨタはハイブリッド技術をレースに持ち込みましたし、今度は水素技術を持ち込みます。技術オリエンテッドな部分をトヨタにとられて悔しくないですか?

「そうですね。ホンダの企業価値というものは、常に新しい技術を追い求めて、それが世の中に役立つ技術として社会から評価されてきたということに尽きます。この点ではどこかのライバル社に負けて2番でいいですと言うことはありません」

ーー新しい技術なんかはやっぱりホンダに最初にトライして欲しい。二番煎じじゃだめです。

「はい、肝に銘じます。そこにホンダの企業価値があると思っていますので」

(第2回に続く)

 

Read Also:

シェア
コメント
今や欠かせない? レーシングドライバー/ライダーが、自転車でトレーニングをする理由
前の記事

今や欠かせない? レーシングドライバー/ライダーが、自転車でトレーニングをする理由

次の記事

【インタビュー】ホンダ長井昌也モータースポーツ部長(2)“松下騒動”を語る

【インタビュー】ホンダ長井昌也モータースポーツ部長(2)“松下騒動”を語る
コメントを読み込む