【インタビュー】ホンダ長井昌也モータースポーツ部長(2)“松下騒動”を語る

2021年4月より、ホンダのモータースポーツ部長に就任した長井昌也にmotorsport.comがインタビュー。前半では今後のモータースポーツの在り方、後半ではメーカーとドライバーの関わり方を中心に語ってもらったが、第2回の今回はその後半部分をお届けする。

【インタビュー】ホンダ長井昌也モータースポーツ部長(2)“松下騒動”を語る

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ーー次ぎに、現在の日本のレース界について伺いたいのですが、まずドライバー。いまは日本のトップカテゴリーのレースを走っているドライバーはほとんどどこかの自動車メーカーに囲われている。ドライバーもどこかのメーカーと契約できればしばらくは生きていける。でも、その状況が顕著すぎません?

「そうですね。本来はドライバーはチームの戦力のひとつですから、チームが決めて契約するというのが求められる姿でしょうね。それがあるべき姿だともいます。日本は特殊ですね」

ーーちょっと自動車メーカーがドライバーを甘やかしている感じがします。どのメーカーもずっと変わらないドライバーの顔ぶれを揃えて、ドライバーも待遇が良いからかそこから羽ばたこうとしない。自動車メーカーのドライバーに対するアプローチが間違っていると思いませんか?

「つい最近そういう背景が災いして問題がありました。ご存じの通り松下信治君のことです。彼はこれまで海外でホンダのサポートの下で好成績を残して来たんですが、今年はスーパーGTでニッサンに乗った。すると、ホンダの中にスーパーフォーミュラでは彼を乗せないという人がいたんですよ。ホンダの機密がニッサンに漏れるって。ホンマカイナ、ですよね。それで色々あちこち調査してまわってそんなことはないという結論に達しました。そもそも自動車メーカーがレースをやっているのは、それを見てお客さんが楽しんでくれるということです。松下君が走ればレースはより面白くなり、観客も喜ぶ。するとスーパーフォーミュラも盛り上がるでしょ。自動車メーカーの技術どうだこうだはその後についてくるものですよ。最後にはそういう判断をして、松下君はB-Maxチームから出場できたのですが」

ーー松下君の問題にしても、やっぱりドライバーの居場所という問題ですよね。

「そうですね。Aという自動車メーカーのクルマで走っているドライバーをBという自動車メーカーの人が見て、良いドライバーだからうちに欲しいと言ったらそれがかなうとか、海外のチームの人が見てこっちで走ってみないかって誘われたり、そういうことが起きていく方が自然ですよね。ドライバーの皆さんだってそうやって自分が評価されるって言うことは喜ばしいことだと思いますよ。私はもうずっとこの自動車メーカーのドライバーですなんていうのはちょっと」

Nobuharu Matsushita, B-Max Racing Team

Nobuharu Matsushita, B-Max Racing Team

Photo by: Masahide Kamio

ーーそういうアイコンのようなドライバーがいることも重要ですけどね。ニッサンの星野一義とか長谷見昌弘、ホンダの中嶋悟とかいう人はそうでした。彼らは飛び抜けて上手いドライバーでヒーローでしたから。それでも彼らだって他のメーカーのクルマ乗ったり、プライベートチームで走ったりしました。

「そうですよね。個人的な意見ですが、プロ野球だってフリーエージェント制度が出来てからの方が盛り上がっていますね」

ーーモータースポーツ業界というのも変ですが、しっかりと組織だっていないから活性化も出来ない、問題解決もうやむやになるっていう状況ですかね。

「日本自動車連盟、JAFがありますが」

ーーJAFはビジネスには口を出さない。やはりJAFのような組織の他に、ビジネスにも絡み業界全体を牽引する組織が必要じゃないですか? サッカーにもラグビーにも野球にも相撲にだってあるのに、なんでモータースポーツにはないんですかね。

「普通はありますよね、どんなスポーツの分野にも。モータースポーツの業界にはないから、なぜ自動車メーカーだけやってるんだみたいな話が出て来ますね。そういう組織があって大枠を決めていくようになれば、ドライバーだってもっと自由に活動出来るでしょう」

ーー誰かがやらないと、いつまでも同じですね。変化というか進歩がない。そういう組織に守られるというのは、自動車メーカーに守られるのとは違いますから。

「そうですね。もし実力を認めてもらって他の自動車メーカーやチームから誘いが来ればモチベーションは上がりますよね。プロ野球だって自分の年俸はどれだけで、どこそこの球団からオファーが来ているというのは、彼らのモチベーションを上げることに凄く役立っていると思います。ドライバーもそういう環境にあるべきですよね、本来は」

ーーレースでは賞金も出して、それを公表して次世代のドライバーの憧れになるようなシステムを作るべきですね。

「スーパーフォーミュラは賞金が出ていますよね」

ーーそのレースシリーズにどれだけスポンサーがつくかって話ですが。

「ゴルフだってスポンサーあっての高賞金ですからね。優勝ウン千万円、ホールインワン100万円とか」

ーーいろいろ勝手なことを言ってすみません。でも、少しでもこの業界が潤って、我々メディアにも好影響が出ればと思っての提言です。最後にF1に関して少しお尋ねしますが、やっぱり止めるんですよね。

「そうですね。会社の経営トップが決めたことですが、いまF1に携わっている人が大勢いますので、この人達の力をカーボンニュートラルに向けてもらわないと、会社が続いて行かなくなりますからね。まず、いまはそれに向けて頑張っていかないと。前々の社長の伊東の頃から、カーボンニュートラルという言葉はなかったですが、CO2の排出量は半分にしないといけない、それに向けてどうするか考えないといけないと言っていましたから」

ーーモータースポーツファンとしては残念ですが、仕方ありませんね。地球が窮地に陥って人類が住めなくなるのは困ります。

「世の中全体の流れがそちらを向かないと駄目ですね。企業活動の事業目標も事業方針もそうだし商品ラインアップもレース活動もそうです。みんなが同じ方向を向かないと、どれかひとつだけ違うことをやって良いというわけではないですから。F1活動停止はその中のひとつです」

ーー有り難うございました。

 

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