スーパーGT公式テスト岡山で改めて痛感した「速いクルマは美しい」。カーボンニュートラル燃料導入で排気管に着目
岡山で2023年のスーパーGT公式テストが実施されたが、その際の関係者の証言は「速いクルマは美しい」といったフレーズを思い起こさせるものであった。
昔から「速いクルマは美しい」とか「美しいクルマは速い」というフレーズが多用されてきた。意味は文字通りだが、その理由には諸説がある。
先ずは単純に、速いクルマはそれだけで美しく感じるというものだ。レースでトップチェッカーを受けるレーシングカーは、その雄姿が瞼に焼き付いてしまい、美しいというイメージがついて回る。
しかし出版社に入社しサラリーマン編集者として業界にも慣れてきた頃に先輩から聞かされた説にも納得できるものがあった。それはF1のマクラーレン・ホンダに関するものだったけれど、マクラーレンはF1マシンを常にきれいに磨き上げてサーキットにやってくる。そして走行が始まっても順調にタイムを削っていくだけだから、チームスタッフはクルマを磨く余裕もたっぷりある、という論だった。
確かに長い間レースを取材してきたけれど、土曜日の公式予選終了後にピットで突貫作業を行なっているクルマが決勝であっさり勝った、なんて例は極僅か。大抵のケースでは公式予選から順調に走り、ポールを獲って決勝までにピカピカに磨き上げられたクルマが、そのままトップチェッカーを受けることが圧倒的に多いように思える。
今回、岡山国際サーキットで開催されたスーパーGT 公式テストでも“速いクルマは美しい”という好例に遭遇したのだが、その理由は後者に近い。綺麗にする……正確には汚れないような(汚さなくしている)クルマは速い、ということだった。
スーパーGTでは今年からカーボン・ニュートラル・フューエル(CNF)を使用することになった。このCNFは、バイオマス由来で100%非化石の燃料だ。
ハルターマンカーレスが供給するCNF
Photo by: Masahide Kamio
技術的にはまだまだ発展途上で、国内には大量に精製するシステムや設備が存在していないので、今シーズンのスーパーGTでは海外で生産されたものをシリーズを統括するGTアソシエイション(GTA)が一括輸入してチームに供給することになっている。ただ、価格が高価であり、パワーが低下してしまうという問題も抱えている。
そこでトヨタと日産、ホンダの3メーカーでは技術者が奮闘しながら“燃焼”を進化させている。今回、岡山の公式テストでは上記3メーカーだけでなくチームやドライバーにもCNFについて聞いて回ったのだが、ホンダでNSX-GTの開発を統括するHRCの佐伯昌浩ラージプロジェクトリーダー(LPL)に初日に聞いたコメントが印象的だった。
佐伯LPLにホンダ勢の仕上がり具合を訊ねたのだが、返ってきたコメントは「CNFへの対応は、トヨタさんが一番進んでいると考えています。日産さんも速いようで、そう考えるとホンダが一番遅れているんじゃないか」というモノだった。
午前中の速さを引き合いに、タイムからすればホンダが最も進んでいるようにも見えるのですが、と水を向けると「トヨタさんが一番汚れてないんです」と佐伯LPLは言う。もう少し詳しく説明してもらうと「排気管の周りを見るとトヨタさんが一番きれい。日産さんは少し汚れているけれど、ホンダが一番汚れています」と言うのだ。
CNFは従来のガソリンと比較するとわずかながら蒸発性に劣り、燃えにくいと言われている。綺麗に燃えなかった燃料が排気管から噴き出し、それがホンダ勢の車体に付着している……つまり、うまく“燃やし切っている”メーカーの排気管周辺は綺麗なはず、というのが佐伯LPLの主張だ。
もっとも、当のトヨタ勢に関して車輌開発を統括してきた株式会社トヨタカスタマイジング&ディベロップメント、TRD本部MS開発部の佐々木孝博部長は「まだまだ進捗率は50%くらい。それも到達点を今見えているところで考えた場合で、その到達点もシーズンが進んで行けばまだまだ高くなってくるでしょうから」と控え目なコメント。そして「レースではいくら排気がきれいになっても、パワーが出てタイムが速くならないと勝てませんから」と続けた。
一方、日産モータースポーツ&カスタマイズ株式会社の取締役副社長であり、日産系チームの指揮を執る松村基宏総監督も「(進捗状況は)まだまだといったところ。基本的にCNFでは(これまで使用してきたガソリンに比べて)パワーダウンするということ。そしてオイル希釈などで壊れてしまう心配もあります。だからパワーの“落ち”をいかに少なくしていくか。そしてエンジンが壊れることがないようにして行くか。やるべきことはいっぱいあります」と苦笑していた。
ちなみに2日目に3メーカーの車両を確認したところ、ホンダでもずいぶんきれいになっていた車輌もあったし、同メーカーでもチームごとに汚れ方が違っていることも確認できた。いずれにしても今シーズンのスーパーGTは、メーカーがしのぎを削る技術開発競争の舞台となるのは間違いない。しかも世界的なモータリゼーションの中で浮沈をかけた技術開発競争が展開されることになるのだから。
かつて“レースは実験室”と言われてきたが、また新たな実験室が登場することになった訳で、これには興味を持って推移を見守っていきたいものだ。
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