スーパーGT

改善点はF1でも話題のポーパシング。セットアップの懐も深くなったNSX-GT:2022スーパーGT開発戦線

2度の公式テストを終え、いよいよ開幕戦を待つのみとなった2022年のスーパーGT。GT500クラスに参戦する3メーカーの首脳陣に話を聞いた。第2回はホンダ陣営だ。

原田 了

公開日時: 2022/03/29 11:44

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#100 STANLEY NSX-GT

 GT-Rから新型のZにベースモデルを変更して新たに製作されたNISSAN Z GT500が大きく注目を浴びる中、ホンダの主戦マシン、NSXも大きく変身していた。Honda NSX-GTと車名には変わりないものの、昨年発表された現行の市販NSXとしては最終モデルとされているHonda NSX Type Sがベースとなっている。

 ノーズ形状が尖っているType Sがベースなだけに顔つきは大きく変わっているが、一見しただけではそれ以外に大きな変化は気付かない。しかし、ホンダのモータースポーツを統括するHRCでスーパーGTのプロジェクトを率いる佐伯昌浩LPL(ラージ・プロジェクト・リーダー)は、「コスト的に流用できるものは流用していますが、ノーズが伸びたことによって多くのパーツを新製せざるを得ませんでした」と苦笑する。

Masahiro Saiki, Honda

Masahiro Saiki, Honda

Photo by: Masahide Kamio

 Honda NSX-GTは以前から、というか1997年にスーパーGTの前身である全日本GT選手権(JGTC)にデビューした当時から、空力を徹底的に追求した“空力マシン”としてその存在をアピールしてきた。ホンダが空力のスペシャリストとして知られる国内屈指のコンストラクター”童夢”に開発を依頼していたことからも当然の帰結ではあるが、童夢が直接開発に関与しなくなった現在でも、空力マシンとしてのDNAは継承されているようだ。実際に新型のNSX-GTでも、細かなパーツへのこだわりが観て取れた。

 ただし空力の追求も諸刃の剣。追求していけばしていくほど効果は表れるが、それと相関してセンシティブになっていくのもまた事実。その好例がポーパシングと呼ばれるボディの上下動である。これまでのNSXで特に問題となっていたのが、フロントのそれだった。

 床下で発生するダウンフォース量は、車高(路面から車体底までの距離)に大きく左右される。一般的には高いとダウンフォースの量は小さくなり、地上高が低くなるとダウンフォースの量は大きくなっていくわけだ。しかし一定以上に車高が下がると、そこを流れる気流がストールしてダウンフォースの発生量は小さくなる。つまり車高の変化によってダウンフォースの発生量が変わるため、マシンが上下動を繰り返す……これがポーパシングだ。路面が平たんなら大きな問題にはなりにくいが、サーキットの路面にはうねりもあれば凸凹もあり、それがポーパシングの発生を助長する。

 特に問題となるのはストレートエンド。ストレートエンドは最高速を記録する場所であるためダウンフォースの発生量は最も大きく、車高も最も下がる。つまり最もポーパシングを発生しやすい場所なのだ。

 これは一般的に、空力を追求した近代レーシングマシンではありがちな現象で、今年のF1でも話題になっているのはファンならご存じの通りだ。

 これまでのNSX-GT(先代モデルのHSV-010 GTも含めて)は、このポーパシングに悩まされる傾向が大きかったようだ。しかし今シーズンのNSX Type Sをベースにした新型車両は、それが大きく改善されている。コーナーへのアプローチの映像を見ても、明らかにポーパシングは減っているようだし、実際にドライバーからは「(ポーパシングは)かなり減ってきて、あまり気にならなくなった」との声が聞かれた。

 さらにもう少し詳しく状況を聞いていくと、「シェイクダウン時には特に(ポーパシングが)少なくなった印象はなかったが、セットアップを進めていくうちに(ポーパシングが減ってきて)気にならなくなった」とも。

 佐伯LPLに確認すると「今年のクルマはダウンフォースに関しては鈍い、鈍感なキャラクターにしています」とのこと。“鈍い”とか“鈍感”というとネガティブなイメージになるので、ここではセッティングに左右され難いとか、懐が深くなったと表現しておく。いずれにしてもセッティングによってダウンフォースの振れ幅が小さく、結果的に乗りやすくなったといったところだろう。ドライバーによっては「これまで(NSX-GTを)速く走らせるにはラインもドライビングスタイルもたったひとつしかなかったけれど、今年のモデルでは幅が広がったように感じています」とのコメントもあった。

 もうひとつのポイントはエンジン。Honda NSX-GTもライバルと同様に、NRE(ニッポン・レース・エンジン)構想に則ってホンダが開発した2リッター直4の直噴ターボエンジンを搭載している。型式名はHR-420Eで、20年シーズンに投入されたこれまでより大幅に進化したバージョンだ。細かなことは公表されていないのだが、さらにパワーアップすることを見込んで、ブロックやヘッドなどのキャパシティも大きく引き上げられていた。

 使用3シーズン目となった22年バージョンでは、そのブロックやヘッドのキャパシティが「そろそろ限界になってきました」と佐伯LPL。もちろんライバル陣営もエンジンは毎年のように進化させているのだが、エンジン(内燃機関)の開発・進化にかけてはホンダのお家芸。副燃焼室を使ったり、燃焼速度を速めたり戻してみたりと、様々な研究を日々続けているようだ。それこそがホンダの真骨頂と少し嬉しくなった。

 2回行なわれた公式テストでは、TOYOTA GR Supraの速さが目立っているが、佐伯LPLは「まだテストの段階なので各陣営/各チームはテストメニューを消化しているだけで、どこも本当の実力を明かしていないだけ」とまったく気にしていない様子だった。さて、3週間後に迫った開幕戦で、3陣営/15チームが実力を明かし牙を剝いたとき、果たしてどのような実力分布となっているのか。大いに楽しみだ。

 

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