F1チームの短い冬休み、宿題は山盛り! 予算制限や新レギュレーションにどう対応する?
F1チームが冬の間、新車の準備や最新のレギュレーションへの対応に追われていることは周知の事実だが、このオフシーズンには新たなアプローチが必要とされている。
写真:: Glenn Dunbar / Motorsport Images
F1チームは例年、短いオフシーズンである冬の間、ニューマシンの準備や新たなレギュレーションへの適応などに追われる。しかし今シーズンは様々な理由から、新たなアプローチを採ることが求められている。
まず第一に、コロナ禍の影響により2020年のシーズンが終わるのが例年よりも遅かったということだ。2020年の最終戦アブダビGPは、12月13日に行なわれた。これは当初の予定よりも2週間ほど遅い日程だったのだ。
加えてファクトリーでの開発作業では、新型コロナウイルスの厳しい感染拡大防止対策を守らなければならない。
一方で、多くのメカニカルパーツは開発が凍結されている。2020年から多くのパーツが持ち越され、再設計の必要がなくなったが、慣れ親しんできた研究開発と生産スケジュールに大きな変化が生じる。
ただ、2021年シーズン用の新規パーツが少ないからといって、ファクトリーが暇なわけではない。新たなレギュレーションが導入される2022年に向けての開発が行なわれているからだ。
さらに、今シーズンから新たに財政レギュレーションが導入され、1億4500万ドル(約152億円)の予算制限が課せられる。中でも資金力があるメルセデス、レッドブル、フェラーリは予算制限の影響を最も多く受けるだろう。
例えばスタッフをF1以外のプロジェクトに配置転換し、計算から外すなど大きな調整を余儀なくされている。しかし、予算の上限額は2022年に1億4000万ドル(約147億円)、2023年には1億3500万ドル(約142億円)まで減っていくことになっているため、マクラーレンやアルピーヌ、アストンマーチンなども対応を迫られることになるのだ。あらゆる分野で、いかにリソースを効率的に使っていくかがチームにとって重要になってくる。
ルノーのマネージングディレクターを務めていたシリル・アビテブールは昨年、「誰が最もお金を使うのかから、誰が最もうまくお金を使うのかへと移行する競争だ」と語った。
「それは新しい考え方、新しいやり方だ。最も多くのお金を使う能力だけを認めるのではなく、計画能力やリソースや人材の管理、遂行の能力が報いを得るべきだ」
メルセデスのテクニカルディレクターであるジェームス・アリソンは、2021年シーズンに向けてチームが直面した多くの課題の中で、より低い支出レベルに適応することが最も重要であることを認めた。
「挑戦の中でも最も大きいのは、新しい財政レギュレーション、いわゆるコストキャップを理解し、厳しい制約の中で運営できるように組織を適応させることだ」
「我々は2020年や冬の間を通してずっと、レギュレーションの内容を理解するための作業を続けてきた。そして次に、レギュレーションの中からチャンスを見つけ出そうとした。これには、膨大な量の仕事が必要だった」
Zak Brown, CEO, McLaren Racing
Photo by: Steven Tee / Motorsport Images
マクラーレン・レーシングのザク・ブラウンCEOは、すでに2023年までを見据え、計画を立てていると話した。
「毎年コストキャップが下がっていくので、3年間の旅になる」
「2021年の準備はできているし、2022年と2023年の計画もある。我々はそれらの計画を実行に移しているが、まだすべてを実行する必要はない」
「2021年から、最大限のパフォーマンスを引き出すために最も効率的なお金の使い方を学ぶことができると考えると、その計画にはいくつかの分岐点がある」
パワーユニットのサプライヤーをルノーからメルセデスに変えたマクラーレンはこの冬、独特の課題に直面している。それに応じてリソースを配分し、調整をしなければならなかったのだ。
マクラーレンのプロダクション・ディレクターを務めるピアース・タインは、次のように語った。
「予算制限の時代へと入るが、いくつか重要な要素を持ち越すことになる。FIAは今年のコスト上限対象外となる暫定持ち越しコンポーネント(TCO)リストを作成した。そのリストに含まれるパーツは昨年のマシンで使用していた場合、2021年に使用が可能となっているものだ」
「我々はこのTCO制度を最大限に活用し、ギヤボックス内部やサスペンションのコンポーネントなどを、できるだけ引き継げるようにした。そのためそれらに関しては、設計に2021年の予算を使う必要はない」
「我々は、ギアボックスの内部部品や一部のサスペンション部品など、TCO制度を最大限に活用し、2021年の予算の一部をできるだけ設計や生産に使わなくても済むようにした」
タインは、予算制限がチームにとって対応しなければならない新たなチャレンジだと考えている。
「技術的な制約、時間的な制約、コスト的な制約など、F1では常に一連の制約の下で仕事をしてきた」
「しかし新しい予算制限の性質は、これまで経験してきたものとは全く異なる。コストとパフォーマンスの間には本当のトレードオフがあるので、アプローチを少し変える必要がある」
「コスト上限を満たさなければいけないが、パフォーマンスを落とさずにそれを達成しなければならない」
「安いクルマを作ればいいというものではない。そうすれば、より遅いクルマが出来上がることになる。問題を全体的に捉え、あらゆる分野で効率化を図る必要があるが、クルマの性能を犠牲にしてはいけない」
「TCO規制により、どのチームがこのアプローチをうまくやっているかは来年まで分からないと思う。2022年マシンの設計と製造にかかっている」
Lawrence Stroll, Owner, Racing Point, speaks to the media
Photo by: Glenn Dunbar / Motorsport Images
予算制限に関して、最も興味深いポジションにあるのは間違いなくアストンマーチンだろう。レーシングポイント時代には、効率的な開発を行なうという定評があったチームだ。
アストンマーチンは新オーナーのローレンス・ストロールの下、新ファクトリーの建設や人員増強を着実に進めてきた。だがその拡張プロセスで、2022年と2023年の予算制限を考慮し、チームの成功を支えてきたスキルを犠牲にしないように注意しなければならなかった。
チームの拡大は必ずしも良いことではなく、管理が難しい問題なのだ。
アストンマーチンのテクニカルディレクターであるアンディ・グリーンは、ビッグチームは制約なしにお金と人材を投入できていた時代に持っていたアドバンテージを失ったと主張した。
「今、そうしたビッグチームは恐竜のようなモノなのだ。小さく無駄のない、効率的なチームでなければならないんだ」
「それが我々の強みだと思う。財政レギュレーションに関する限り、彼らのようなビッグチームは我々に近づくことになる。彼らはもはやビッグチームではなくなるから、我々も対抗できるようになるだろう」
「彼らが下に降りてきて、我々のレベルにもっと近づかなければならない。我々は何年もこのレベルで戦って、合理的な仕事をしてきたんだ」
「我々がベストだったと言っているわけではないし、改善ができないわけでもない。当然もっと良くできるはずだ。でも長い間やってきて、コスト重視の環境で仕事をするためのシステムとグループを構築してきた。それが我々の助けになると思う」
グリーンは、ファクトリーが新しくなってスペースが広くなっても、拡大を続けるつもりはないと話した。
「900人のスタッフでファクトリーを埋めようとは思っていない。それはまた別の戦略だ」
「新しいファクトリーは、これまで我々のコントロールの及ばなかった製造面を担っている。なぜなら小さなチームだったので、大量のパーツ製造を外注しなければならなかったんだ」
「その一部を内製化することでリードタイムを短縮することができる。それが新工場の大きな特徴だ。人員を大幅に増やすためではなく、さらに効率を上げるためなんだ」
「我々は、ルールの内容を知り、どのようにチームを運営しなければならないか知っている。その上で新時代を迎えるF1のために、ファクトリーを自分たちで設計することができる、理想的なポジションにいる」
タインが指摘したように、新レギュレーションへの準備をしながらシーズンを乗り切るために最高の仕事をしたのが誰なのかは、今後はっきりしていくはずだ。2021年シーズンをそうした視点で見てみるのも面白いだろう。
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