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【MotoGPキーパーソン】アルベルト・プーチ、ホンダの頑固一徹おやじ! 最後の日本人王者青山博一も師事した名育成手の正体
MotoGPにおけるレプソル・ホンダと言えば最強チーム……そう想像する人も多いだろう。2022年現在、そのチーをチームマネージャーとしてまとめているのが、一見すると非常に強面な男、アルベルト・プーチだ。ニュース記事で鋭い舌鋒を読んだことのある方も多いだろうが、彼はどんなキャリアを歩んできた男なのだろうか?【もっと知りたいMotoGPキーパーソン】連載第3回。
西村 章
公開日時: 2022/06/14 3:24
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MotoGPファンであっても、ライダー以外についてはあまり知らない人も多い……motorsport.comではMotoGPパドックのスタッフ達がどんな人物なのか、そこにスポットライトを当てることにした。
【もっと知りたいMotoGPキーパーソン】連載第3回は、2022年現在、ホンダのファクトリーチーム“レプソル・ホンダ”でチームマネージャーを務めるアルベルト・プーチだ。
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この人の現役時代を記憶している人は、かなりの古参ファンだろう。アルベルト・プーチが500ccクラスのライダーとして活動していたのは、今から四半世紀ほども昔の1990年代中期。レース中の負傷が遠因となって引退したのが、1997年のことだったのだから。
ライダーとしてよりもむしろ、プーチは引退後に指導者として辣腕をふるって数々の優れたライダーを見いだした活動でよく知られている。なかでも最も有名なのは、ダニ・ペドロサだ。
■数々のスターライダーを見出してきた“眼”
家庭の経済事情からプロフェッショナルライダーになる夢を諦めかけていたペドロサは、14歳のときにスペイン国内のモビスター・アクティバカップという一般公募の選抜プロジェクトに参加した。スペイン・ハラマサーキットで行なわれたこの選抜レースをペドロサは8位で終えているが、その少年の才能を見いだしてピックアップしたところにプーチの 炯眼 ( けいがん ) がよく現れている。後年、ペドロサは現役引退を表明した際の質疑応答で、このハラマの選抜レースが人生でもっとも重要な一戦だったと語っている。
ペドロサがMotoGPクラスに昇格(2006)
Photo by: Repsol Media
プーチはペドロサを擁し、テレフォニカ・モビスター・ジュニアチームの監督として2001年に世界選手権125ccクラスへの参戦を開始した。ペドロサは2003年に同クラスのチャンピオンとなり、2004年にチームごと250ccクラスに持ち上がる恰好でステップアップを果たした。このとき、プーチが率いるテレフォニカ・モビスター・ホンダ250ccチームにペドロサのチームメイトとして合流したのが、青山博一だ。青山は前年に全日本ロードレース選手権250ccのタイトルを獲得し、ホンダのスカラシップ一期生として世界への挑戦を開始した。そのときに受け皿となったのがこのチームで、ここでペドロサと青山は出会い、意気投合し、現在に至るまで親しい関係を続けている。
この当時から、プーチの指導の厳しさには定評があった。約束の5分前には必ず集合場所への到着していること、と徹底させるラテン系らしからぬ時間管理の厳密さや、サーキットではライバル選手は敵なのだから談笑などもってのほか、と選手たちを律する指導方針は、当時の青山も「日本人以上に日本人らしいスタイル」とよく話していた。後年になってペドロサは武士道精神を己の信条とするが、そこに至る過程では、この時期のプーチの指導方針も大きな影響を与えたのだろう。
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また、プーチはケーシー・ストーナーの才能を見いだし、ルーチョ・チェッキネロに紹介したことでも広く知られている。ストーナーは、2002年にチェッキネロのチームで250ccクラスにデビューし、翌年から125ccクラスへ移る、という少し変わった経歴で若年時代の世界選手権を過ごしている。その時期の彼の活動やチェッキネロのチームでデビューした事情等については、ストーナー自身が自伝“Pushing the Limits”(日本語版未刊行)のなかで明らかにしている。
ペドロサやストーナー、青山などの例からもわかるように、プーチはこれと見込んだ若者たちに情熱を注ぎ込んで指導するという、〈篤い情〉の持ち主だ。ライバル選手と口をきいてはならない、目も合わせるな、という方針は、(当時の彼の「指導者としての若さ」がそのような形をとったのであろうとはいえ)、現代社会の視点から見るとやや強権的なパターナリズム(父権主義)的態度にも見える。だが、そのような指導方針はパターナリズムというよりもむしろ、教育熱心な母親の愛情に通じる情の濃さ、と考えた方が理解しやすいのかもしれない。
■情に厚いのがプーチ
ホルヘ・ロレンソ引退発表後のプーチ
Photo by: MotoGP
とにかく、面倒見が良い。プーチは2014年からはアジアタレントカップのアドバイザーに就任し、青山たちとともにアジア圏の少年たちを育成する活動に携わった。2018年からは一時期離れていたレプソル・ホンダチームに戻り、チームマネージャーに就任した。
この2018シーズンの序盤戦スペインGPに、当時アジアタレントカップを戦っていた小椋藍が「アジアタレントチーム」としてワイルドカードで参戦したことがあった。小椋のグランプリデビューとなったレースでもある。
その週末、金曜午前に最初のフリープラクティスが始まるとき、このアジアタレントチームのガレージ前で雰囲気を観察していると、そこにプーチがふらりとやってきた。自分自身もMotoGPの走行準備などで忙しいだろうに、チームのピットボックスから遠く離れたパドックの隅に設営された臨時ガレージまで足を運んできたのは、自分が面倒を見てきたチームと選手の様子がやはり気になっていたからだろう。こちらがいることに気づくとうなずくように挨拶をし、握手の手を差し出して話しかけてきた。
「まだ決定ではないのだが、今のところ藍は4戦のワイルドカード参戦を計画している」
そして、訊ねてもいないのに、わざわざここまでやってきた理由についても自ら説明した。
「MotoGPの選手たちは走り慣れているしスーパースターだから、べつにほっといたって大丈夫なんだ。だが、子供たちはしっかりケアしてあげないとな」
プーチにしては饒舌にそんなことを話したのは、おそらく半ば照れ隠しのような気持ちもあったのではないか、という気もする。というのは、プーチはかつて、メディア嫌いとしても有名だったからだ。ペドロサや青山のチームマネージャーをしていた時代から『自分たちの仕事はコース上で好結果を出すこと。それがスポンサーやメディアに対する最大のアピールでありサービスだ』と公言し、自らが取材に応えることをあまり好まなかった。
しかし、MotoGP最高峰のホンダファクトリーチームのマネージャーともなれば、取材嫌いなどとはもはや言っていられない。DORNA公式サイトの実況放送でも、セッション中にピットレポーターたちのインタビューに対応する必要がある。
最初の頃はこれらの質問に対しても木で鼻をくくったようなそっけない返答が多く、ブースでそれを聞いたコメンテーターたちが「いかにもプーチらしい……」と苦笑する場面もあった。だが、やがて臨機応変な質問にも丁寧に回答するようになり、今では他陣営のマネージャーたちと比較しても遜色ないほどの濃密な質疑応答を交わすようになっている。
■プーチVS”幻”のヒキタサン
そういえば、昨年だったか、プーチに関連してこんな出来事があった。
日本の某メディアに寄稿した拙稿のHRC桒田哲宏氏インタビュー内容が、スペインの新聞やオンラインメディアなどに取り上げられた。それらの記事掲載は自分にはまったくあずかり知らぬ「引用」で、その記述内では「HRCマネージャーのヒキタ氏によると……」と、チームや選手のことについて述べられていたという。それを読んだプーチが激昂し「〈HRCのヒキタマネージャー〉という人物など聞いたことがないぞ。一体それはどこのどいつだ」とあちこちに電話をかけて訊ね回り、ちょっとした騒ぎになっているらしい、という連絡が欧州のジャーナリスト仲間から立て続けに入った。
この「ヒキタ氏」なる謎の人物は、AIが産んだ亡霊であることがほどなく判明した。
拙稿を「引用」した新聞やウェブサイトは、日本語の記事内容を理解するためにどうやらGoogle翻訳を使用したらしい。その際に、「桒田」という漢字を理解できないAIの自動翻訳機能は「HIKITA」という文字列を吐き出し、そのAI翻訳の間違いに気づかないまま掲載した新聞やオンラインメディアに謎の「ヒキタサン」が登場した、というわけだ。
幽霊の正体見たり枯れ尾花、の故事そのもののようなエピソードで、他人の記事を勝手に「引用」して翻訳しておきながらその間違いにも気づけないメディアの稚拙さがそもそもの原因なのだが、今となってはそれも笑い話で、取材交渉の話をしている際などには、レプソルホンダの欧州スタッフが「それはヒキタサンのコメントなのか?」などと茶化すこともある。
ともあれ、プーチの情熱的な性格ゆえに騒動に拍車がかかることになった、ちょっとコミカルなひと幕ではあった。
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