レッドブルに”酷似”したBスペックマシンを投入したアストンマーチン。その理由とは?
レッドブルRB18と酷似したサイドポンツーンを備えたBスペックマシンをF1スペインGPで投入したアストンマーチン。テクニカルディレクターのアンドリュー・グリーンが、大きく異なるコンセプトのマシンを投入する理由を説明した。
写真:: Carl Bingham / Motorsport Images
アストンマーチンが、F1スペインGPで投入したBスペックマシン。このマシンは開幕戦から使ってきたAスペックとは、サイドポンツーンの形状が全く異なっていた。そしてこのサイドポンツーンは、レッドブルの今季マシンRB18のモノに酷似していた。
これについてレッドブルは、引き抜かれたスタッフと共に機密情報が漏れたと憤慨。FIAは合法であるとの調査結果を報告済みだが、レッドブルはまだ納得していない。
今のF1は、年間の予算上限額がレギュレーションで厳しく制限されている。そんな中で2スペックのマシンを誕生させるのは、理想的ではないようにも感じられる。そんな中でもアストンマーチンは、この2スペックのマシンを登場させたのはなぜなのか?
テクニカルディレクターのアンドリュー・グリーンは、レッドブルから引き抜いたスタッフが合流する以前から、ふたつのプロジェクトが進行していたという。
「我々はふたつのプロジェクトを、7〜8ヵ月同時に進めていた。その時点では、どちらの方が最良の選択肢なのかは分からなかったんだ」
そうグリーンは語った。
「どちらも異なる特徴を持っていた。この新仕様は従来のモノとは特徴が異なるし、大きなダウンフォースを発生しているようには見えなかったのだ」
「従来のモノは、特性という部分では比較的脆弱だったが、大きなダウンフォースを生み出していた。だから、我々は貪欲になったのだ。そして発生するダウンフォース量を活かして、特性をさらに整理していくことを考えた」
予算制限が課されている中でも、チームはふたつのプロジェクトを慎重に管理して進めたという。
「我々が行なったことは、シャシーにはふたつのコンセプトを含めるということだった。そのため、このシャシーでは、古い冷却システムを変更せずに使えるよう設計されている。それは重要なことだった。だからその部分では追加のコストは必要なかった」
「そしてAスペックのマシンのために必要最低限のスペアを用意し、5レースに出場できるようにした。それが重要だったし、それ以上のことはしなかった。だから、両立させるのは可能なのだ」
空力開発に関しては、ひとつのアイデアにだけ焦点を当て、進めてきたとグリーンは言う。
「ふたつのプロジェクトを並行して進めていた時期もあった。でもそのしばらく後には我々はこのマシンの開発を止め、方向性を見極めるためにAスペックマシンの開発に注力した」
「我々は常に両方のスペックを開発していたわけじゃない。両方ともあるレベルまでは進めていた。その後、Aスペックに注力し、ある時点でその性能向上が頭打ちになっていることに気付いた。それでAスペックの開発を止め、Bスペックの開発を再開させたんだ」
Pierre Gasly, AlphaTauri AT03, Sebastian Vettel, Aston Martin AMR22
Photo by: Andy Hone / Motorsport Images
グリーンは、このBスペックマシンはレッドブルRB18からインスピレーションを受けたことを否定していない。ただ、登場したRB18を真似たわけではなく、既に進行中だったBスペックの開発を強化しただけだと強調する。
「他のチームが、この方向性を進んでいるのを目にした」
そうグリーンは語る。
「2月にレッドブルのマシンが発表された時、我々が進んでいた(Bスペックの)方向性を強化することになった。当然我々は、他のチームからインスピレーションを得ることもある。しかし我々は、ずっとその道を進んできたんだ」
「FIAは、我々が他チームの知的財産権(IP)を使っていないという正しい結論に達した。それ以外のIPも使っていない。全てチーム内部で生み出されただけだ」
「確かにレッドブルのマシンが発表された時、そこからいくらかのインスピレーションを受けるモノだろう。誰かが我々のマシンからインスピレーションを得たようにね」
「それは当然のことだと思う。しかし、全体的なコンセプトは、我々が独自に開発したモノだ」
確かにサイドポンツーンの形状はよく似ている。しかしグリーンは、多くの部分でレッドブルとは異なると主張する。
「マシン全体を見れば、完全に異なっているディテールがたくさんある」
「フロントウイングのコンセプトも、フロントサスペンションも、そしてシャシーも完全に違うモノだ」
「そして全く異なるパワーユニットを使っている。冷却システム、ギヤボックス、リヤサスペンション、リヤのブレーキダクト、リヤウイング、ビームウイング……その全てが完全に異なるのだ」
「我々が採用したサイドポッドは、ダウンウォッシュ(気流を下に向けるコンセプト)を狙ったモノだ。これはレッドブルだけでなく、同様のアプローチを採用したチームはたくさんある」
「私は多くの違いがあると思う。多くの人は、そのほんの一部に集中しているようだ」
Lance Stroll, Aston Martin AMR22, arrives on the grid
Photo by: Zak Mauger / Motorsport Images
グリーン曰く、Aスペックのデザインは、フロアを路面に近づけることに依存しすぎていたという。しかしポーパシング現象に対応するためには車高を上げる必要があり、そうなるとパフォーマンスを犠牲にすることになった。
Bスペックはこの問題に対処することができるという。
「Aスペックを使い続けると、開発が妨げられると思う」
「マシンを路面にとても近くして走らせようとしている。それはバランスが崩れ、空力的にも崩壊する領域なんだ。つまりそれは、不安定さを引き起こす可能性がある」
「今回の決断は、『それまでのことは忘れて、路面から離した場所でマシンを走らせよう、路面から離れた場所でパフォーマンスを成長させよう』というモノだった。それはただ、理に適っている」
ただグリーンは、Bスペックマシンは走りはじめたばかりであるため、まだまだ多くのことを学ぶ必要があるとも語る。
「空力特性は全く異なる。セットアップに対する挑戦、自由度も、まったく異なるモノだ」
「以前のスペックでは、ポーパシングを防ぐために、非常に(足回りを)固くする必要があった。また、車高を上げなければならなかった。それでふたつの問題があった」
「許容可能なスプリングレートや、走らせる時の車高の範囲も調整する必要がある。セットアップも進めていく必要があるのだ」
「それはこれまでとは大きく異なるし、ドライバーも違いを感じた。我々は仕事を進め、スイートスポットがどこにあるのかを見つけなければいけない」
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