分析

アストンマーチン撤退で、懸念されるDTMの将来

R-Motorsport/アストンマーチンが撤退したことで、BMWとアウディだけが残ることになってしまったDTM。同シリーズの将来は、ITR代表のゲルハルト・ベルガーの手腕にかかっている?

Daniel Juncadella, R-Motorsport, Aston Martin Vantage AMR

Daniel Juncadella, R-Motorsport, Aston Martin Vantage AMR

Alexander Trienitz

 2018年限りでメルセデスが撤退したDTM。2019年シーズンはアウディとBMWのみの参戦になる可能性があったが、アストンマーチンと組んだR-Motorsportが参戦したことで、3メーカーでの戦いという図式が保たれた。しかしアストンマーチンとR-Motorsportの提携は、わずか1年で解消。再び2メーカーのみが参戦するという形に”戻る”危機に、DTMは直面している。

 昨年11月、富士スピードウェイで行なわれたスーパーGTとDTMの交流戦の際、DTMを運営するITRの代表であるゲルハルト・ベルガーは、R-MotorsportがDTMへの参戦を続けることを楽観視していた。交流戦に参戦するための来日を、R-Motorsportがキャンセルしていたにも関わらずだ。

 ベルガーは当時、R-Motorsportがスペアパーツを注文したことを例に挙げ、同チームが2020年にも参戦を継続するサインだと語っていたのだ。

 しかしR-MotorsportがDTMに参戦し続ける”能力”について、日に日に疑問視されるようになっていった。

 その最たる例は、HWAとのエンジンに関する契約が解消されたことだ。HWAとR-Motorsportは、2019年以前に合弁会社を設立していた。しかしメルセデスがDTMから撤退したことで、当初はエンジンの供給先がない状態で放置されることになった。最終的にはR-Motorsportがアストンマーチンのシャシーを用意したことで使い道ができたものの、そのエンジンはパワーと信頼性が不足しており、両者の関係性は悪化……10月には関係を解消することになった。

 その後、R-Motorsportは、2020年シーズンに間に合わせるべく、他のエンジンを入手すべく奔走した。そしてその最有力候補はBMWであり、BMWも4台のアストンマーチン・ヴァンテージに供給できるだけのエンジンを用意する準備を整えつつあった。

 しかし最終的には、両者の契約は合意に至らず……R-MotorsportはDTMからの撤退を余儀なくされることになった。参戦期間はわずか1年限りだった。

 では、この冬の間にR-Motorsportの中で何が問題になったのだろうか? それを検証していくと、HWAとの関係解消が、当初考えられていた以上に大きな影響を及ぼしたということがわかる。

 R-Motorsportの4台のアストンマーチン・ヴァンテージは、同メーカーのDTMライセンスの所有者がR-Motorsportであるにも関わらず、関係解消後はHWAが所有することになった。

 GT3レースや、アストンマーチンのハイパーカー”ヴァルキリー”のプロジェクトのことを考えれば、HWAと分裂したことは経済的な影響も及ぼし、それはR-Motorsportのようなプライベーターチームを傷つけるには十分だった。

 また、もしBMWとの契約がまとまったとしても、チームは異なるエンジンを搭載することに対処するための、時間的な問題にも直面することになっただろう。ヴァンテージの冷却システムはHWAエンジン搭載を念頭に置いて設計されており、BMWのエンジンに対応するためには、フロントエンドを大きく変更する必要もある。そういう変更に関する設計を、マシンはHWAが所有したまま、実車のない状態で行なわねばならなかったはずだ。

 最終的にR-MotorsportはDTMに参加しない方が賢明だと判断。代わりに別のシリーズに参戦することを決めたようだ。チームはまだ2020年の参戦計画を明らかにしていないものの、GTワールド・チャレンジ・ヨーロッパ(元ブランパンGTシリーズ)に加え、GT3仕様のヴァンテージでADAC GTマスターズに参戦することになるとみられる。

 R-Motorsport/アストンマーチンの撤退により、2020年のDTMは2011年以降初めて、2メーカー(BMWとアウディ)による戦いになるだろう。つまり、メルセデスが2018年限りでの撤退を発表し、R-Motorsportの参入が決まる前と同じ状況に、DTMは置かれることになるのだ。

 2018年、ベルガーはアストンマーチンを説得し、R-Motorsportとのライセンス契約を取り付け、DTMに参戦させることを成功させた。その時と同じことを再びやり直すことが、ベルガーには求められるのだ。

 ただ、DTMの存続について、短期的な懸念はない。BMWとアウディは、R-Motorsportの撤退に伴い、2メーカーによる移行期を受け入れることに同意したのだ。この取り決めにより、ふたつのメーカーはカスタマーチームとしてエントリーし、参戦台数を増やすことができるようになった。

 アウディは昨年から、WRTで2台のRS5 DTMを既に走らせている。BMWも2020年にカスタマーカーを走らせる予定で、これには2019年をF1で戦ったロバート・クビサが乗り込むことになるとみられている。

 しかし、2021年にも新規参入メーカーがないとしたならば、BMWとアウディにとって満足できる環境ではないということになってしまうかもしれない。このことは、ベルガーと彼のチームに大きなプレッシャーをかけることになるだろう。

 DTMは、将来的にはハイブリッドマシンを走らせることを目指しており、スーパーGTとの関係性もより強固なものにしようとしている。ベルガーはこれらの”魅力”を用いて、グリッドにさらなるメーカーを呼び込もうとするはずだ。しかしそれが現実のモノとならない限り、DTMの未来は安泰……とは言えないかもしれない。

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