F1分析|フェルスタッペンにもあったサウジでの勝機……そこにもし角田裕毅がいれば
オスカー・ピアストリが勝利したF1サウジアラビアGP。しかしレッドブルのマックス・フェルスタッペンにも、勝機があった。もし角田裕毅が生き残っていれば、その可能性はさらに高まっていたかもしれない。
Max Verstappen, Red Bull Racing, Oscar Piastri, McLaren
写真:: Alex Pantling - Formula 1
F1サウジアラビアGPを制したのは、マクラーレンのオスカー・ピアストリだった。ピアストリはこれで今季3勝目。ドライバーズランキング首位に躍り出て、F1デビュー3年目にして初のチャンピオン獲得に向け、視界良好といったところだ。
ただ今回のサウジアラビアGPは、ある意味薄氷の勝利であったかもしれない。レース中のペース推移を見返すと、レッドブルのマックス・フェルスタッペンが勝っていた可能性も十分にあったように思われる。
予選では、フェルスタッペンが神アタックを決め、ポールポジションを奪ってみせた。しかし決勝レースではスタートでの加速が若干鈍り、2番グリッドからスタートしたピアストリに並びかけられ、ターン1に突入した。
フェルスタッペンはここでブレーキングが遅れ、オーバーラン。コース外に飛び出してしまう。そしてターン2の先でコースに復帰し、首位をキープした。しかしレーススチュワードは、このフェルスタッペンの動きを「コース外を通ってアドバンテージを得た」と判断し、5秒のタイム加算ペナルティを科した。
この5秒加算ペナルティが妥当だったかどうかは、論じても水掛け論になってしまう。しかし結果を見れば、どんな形であれコース上で前のポジションをキープしたのは、フェルスタッペンとしては正解だったと言える。もしピアストリにターン1で先行されていれば、あるいはコース復帰後にピアストリにポジションを譲っていれば、その時点でフェルスタッペンの勝利の可能性は潰えただろう。
これは1年前のサウジアラビアGPで、ハースのケビン・マグヌッセンが採った戦法と似ている。マグヌッセンはコース外走行などで20秒のタイム加算ペナルティを受けていたが、ペースを落として後続を抑え、チームメイトの入賞をサポートした。レギュレーションでは許された戦法だ。そう言う意味でフェルスタッペンが、ペナルティ覚悟だったとしても首位を確保しようとしたことは、理に適っている。
その効果は、13周目頃から現れた。
F1第5戦サウジアラビアGP決勝レースペース推移
写真: Motorsport.com Japan
上のグラフは、サウジアラビアGP決勝レース中の上位勢のラップタイム推移を表したものである。レース序盤はピアストリ(オレンジ色の点線)が、フェルスタッペン(紺の実戦)と同じようなペースで走っている。しかし13周目頃からピアストリが遅れ始め、徐々にフェルスタッペンとのペース差が拡大していっているのが読み取れる(グラフ赤丸で示した部分)。
ここからはふたつのことが推測できる。ひとつ目は、レース序盤のペースを見れば、ピアストリの方が優勢だっただろうということ。もしスタート直後の攻防でピアストリが首位に立っていたら、そのままフェルスタッペンとの差を拡大して、楽に逃げ切る形に持ち込んでいただろう。
そしてもうひとつ、13周目頃からピアストリが遅れ始めたのは、フェルスタッペンの後方を走ることで乱れた気流を受け、タイヤの消耗が促進されただろうということ。ピアストリも「路面コンディションは時折非常にトリッキーで、タイヤが摩耗していた。でも、クリーンエアに入ると楽になった」と語っている通り、フェルスタッペンは首位を走ることで、ピアストリにダメージを与えることに成功したのだ。
その影響はかなり大きく、ピアストリのペースはすぐにチームメイトのランド・ノリスと同等になってしまう。ノリスは予選でクラッシュがあったため10番グリッドスタート。そこからの巻き返しを図るため、ハードタイヤを履いていた。そのペースと、ミディアムタイヤを履くピアストリのペースが、ほぼ同等になってしまったのだ(これもグラフ赤丸で示した部分である)。
ただピアストリにとって本当に厄介だったのは、ノリスとのペース差ではない。おそらく、フェラーリのルイス・ハミルトンのペースを見ていたものと思われる。ハミルトンは今回のレースで大いに苦しみ、ペースが上がらなかった。
ピアストリとしては、できるだけ早くピットインしてタイヤを履き替えたかった。しかしハミルトンの前でコースに戻れるだけの差(20秒程度)を築くことがなかなかできなかった。前述の通り、フェルスタッペンの後ろを走ったことでタイヤが消耗し、ペースが落ちたためだ。
結局ピアストリは19周を走ったところでピットインし、ハードタイヤに履き替えた。そしてコースに戻った時にはハミルトンの後ろ。もう少しピットインを先送りにしていれば、フェルスタッペンの差がさらに広がり(この時点で3秒ほどにまで開いていた)、場合によってはウイリアムズのアレクサンダー・アルボンの後方でコースに戻ることになってしまう可能性もあった。
しかしこのタイミングは、フェルスタッペンにとっても勝機が近づいた瞬間でもあった。もしハミルトンが、ピアストリを数周にわたって抑えてくれることになれば、スタート直後に受けたペナルティ5秒を帳消しにし、再びピアストリの前でコースに戻ることができたかもしれない。
F1第5戦サウジアラビアGP決勝レースギャップ推移
写真: Motorsport.com Japan
こちらのグラフは、レース中の首位からの差の推移をグラフ化したものである。赤丸で示した部分は、ピアストリがハミルトンの後ろでコースに戻ることになった部分を示している。
結局フェルスタッペンは、ピアストリよりも2周後にピットインし、3.3秒後方でコースに戻ることになった(グラフ青丸の部分)。つまりピアストリは、フェルスタッペンより2周早くピットに入ることで、6.3秒ほど稼いだということだ。しかしフェルスタッペンはここで5秒のタイム加算ペナルティを消化している……つまりピアストリが実質的にここで稼いだのは1.3秒程度でしかなかった。
ピアストリのペースはピットストップ後、1周あたり1.3秒ほど速くなっている。このペース差で、いわゆる”アンダーカット”を成功させるわけだ。しかしピアストリが2周で実際に稼げたのは1.3秒だけ……つまりハミルトンを抜くために、ピアストリは1.3秒程度失ったということだ。
フェルスタッペンの勝機はここにあったが、ハミルトンがすぐに抜かれてしまったことで、それも潰えた。
ここで重要になってくるのは、やはり角田裕毅の存在だ。
もし角田がハミルトンに近いところ……つまりピアストリがピットストップしてコースに戻った時に、前に立ちはだかるところにいれば、ピアストリのタイムをさらに奪い、フェルスタッペンを先行させる手助けができたかもしれない。2021年のアブダビGPで、セルジオ・ペレスが当時メルセデスのハミルトンを強引にブロックしたのが、その典型例と言えよう。
また角田がフェルスタッペンやピアストリと遜色ない場所を走ることができていれば、ピアストリの戦略をカバーしたり、あるいはフェルスタッペンがピアストリに反応するのを補い、勝利を獲りにいく役割を担うこともできたはずだ。
レッドブルが角田に求めているのは、まさにそういう役割だ。これまでレッドブルは、フェルスタッペンに孤軍奮闘を強いてきた。しかし角田がしっかりと援護役を果たすことができれば、フェルスタッペンの戦いはずっと楽になる。今回のサウジアラビアGPのように手に汗握る接近戦となれば、その重要度は特に高い。そしてそういう仕事ができれば、角田に対する評価は急上昇するはずだ。
角田の今回の接触リタイアは、あまりにも不運な状況であった。とはいえ、まだレッドブルが期待している働きができていないのも事実。次のマイアミGPまでの間に、シルバーストン・サーキットを舞台にプライベートテストでレッドブルの2023年型マシンを走らせる予定だと聞く。そのテストでチームにさらに溶け込み、そしてマシンの特性を理解して、パフォーマンス向上に繋げてもらうことを願ってやまない。
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