アストンマーティン・ホンダが悩まされた、”振動”によるバッテリーへのダメージとはどんなモノなのか?「そのまま走行していちゃいけないという状況だった」
予想外の振動により、バッテリーのシステムに大きな影響が及び、走行が制限されたアストンマーティン・ホンダ。その解決に向けた道筋は?
Fernando Alonso, Aston Martin Racing
写真:: Sam Bloxham / LAT Images via Getty Images
バルセロナとバーレーンを舞台に行なわれたF1のプレシーズンテストで、アストンマーティン・ホンダは満足に走れず、ペースを上げることもできなかった。これは、ホンダのパワーユニット(PU)にトラブルが発生したからだ。
ホンダ・レーシング(HRC)は2月27日に取材会を開き、テストでトラブルに見舞われた原因を「異常振動が出て、バッテリーのシステム系にダメージが出た」と説明した。
HRCの渡辺康治社長は「振動によってバッテリーにダメージが出ているわけで、バッテリーそのものが問題かどうかは分からない」と語ったが、では具体的にどんなことが起きていたのか?
取材会での説明によれば、エンジン(ICE)には問題は出ていないという。回転数を抑えていたという報道もあったが、これは走行プランに関連するものであり、トラブルを回避するためのものではなかった。
HRCの武石伊久雄専務は、「どんな振動によって問題が起きているのか?」という質問に対し、次のように説明した。
「どんなクルマでも大体そうなんですが、起振源、つまり揺れている原因というのは、間違いなくエンジンなんです。エンジンがどういう風に(振動を)アウトプットしてしまうのか、それを車体がどう受け止めているのかというところが重要です」
「どこが揺れているのかという意味合いにおいて言えば、もちろん分かっているつもりです。でもそれをどうやって解決するのか? いなすのか、それとも固めてしまうのか、その振動をシャットダウンするのか……そこを今トライしている最中です」
「振動についてはセンサーで確認して、数値を確認しています。そういう意味では、テストベンチで再現できます。でも路面からの入力とか、そういう部分もありますから、フルに再現するというのは難しいかもしれません」
「ロングランはできなかったとはいえ、色々なデータは取れています。そういうものをうまく活用しながら、解決に繋げていきたいと考えています」
アストンマーティンのエイドリアン・ニューウェイ代表が、「ホンダのPUは上限の350kWどころか、250kWも使えていない」と発言したという報道もある。しかし武石専務は「そういう話は聞いていない」と言っており、そもそものパフォーマンスに問題があったというものではないようだ。
■バッテリーにはどんな問題が起きていたのか?
Lance Stroll, Aston Martin Racing
写真: Rudy Carezzevoli / Getty Images
では一体バッテリーがどんなダメージを受けたのか? それについて武石専務は、言葉を選びながら次のように語った。
「どういうダメージを受けたのか、それを言うと問題がどこにあったのかということを特定されすぎてしまうので、今回言及するのは避けたいと思います。でも言えるのは、そのまま走行していちゃいけないよな、というところで止めたということです」
バーレーンテスト後半の2日目、フェルナンド・アロンソがドライブ中にアストンマーティンAMR26がコース上にストップ。しかしコースマーシャルは車体に触れることができず、アストンマーティンのチームスタッフが現場に到着するのを待ち、慎重に絶縁用の手袋をはめてから車体を回収したというシーンがあった。
この事例からすれば、”そのまま走行していちゃいけない”のはバッテリーから漏電してしまう可能性があったからということなのか? そう尋ねると、武石専務は次のように説明してくれた。
「そういう危険性があったという意味です。すぐに事故が起きるとか、そういうことではないですが、危険性がありました」
この問題の解決は、PU側だけでできるモノではない。事実、レッドブルにPUを供給していた昨年までは起きていない問題である。そのため、アストンマーティンとの協業が重要になってくる。
「確かに、レッドブルと働いていた時には問題になっていませんでした。今回問題が起きたのは、レギュレーションが大きく変わったということもあるかもしれません。PUで大きな変化があったというのも、原因かもしれません」
そう武石専務は語る。
「クルマの開発をする時にはよくあるんですけど、PUだけではなく、路面からの入力とか、そういう複合的な要因で異常振動が起きるということもよくあります。そのため、なんで今回起きてしまったのかという部分はなかなか説明が難しい状況です」
「解決には車体側の協力も必要ではないかということについては、まさにその通りです。アストンマーティンさんから5名のエンジニアが(日本に)来てくれて、今まさにHRCのエンジニアと一緒になって解決しようとしてくれています。ひょっとしたら、アストンマーティンさんの部品をうまく組み込んでもらえれば、それでうまくいく可能性もあると思っています」
■ホモロゲーションは3月1日
Honda RA626H power unit
写真: Honda
なお2026年用PUのホモロゲーション(仕様凍結)は、3月1日に各社が書類を提出することになっている。渡辺社長によれば、バーレーンのテストで走らせた仕様のPUでホモロゲーションを取得することになるという。しかしホモロゲーションを取得した後でも、信頼性・耐久性という部分でのアップデートが許されている。
渡辺社長はこう説明する。
「性能の向上に関するアップデートは、ホモロゲーションを取得した後はできません。しかし信頼性や耐久性という部分については、進化させていけるということです。なのでその部分はしっかり継続していきます」
「あとはオペレーションの中で、ホモロゲーションを取った仕様の中で、パフォーマンスの最大化ということをやっていくことになると思います」
■アストンマーティンとの関係性は大丈夫か?
Lawrence Stroll, Aston Martin
写真: Kym Illman / Getty Images
ただどうしても頭をよぎってしまうのは、2015年から3年間のマクラーレン・ホンダ時代のことだ。当初は1980年代〜1990年代の黄金タッグ再びということで大きな話題となったが、2015年に始まったコラボレーションはうまくいかず、結果的に契約は期間を短縮して終了してしまうことになった。
今回問題が多発したことによって、アストンマーティンとの関係は大丈夫かと尋ねると、渡辺社長は「団結した関係にある」と語る。
「一番プライオリティが高いのは、振動対策をするということ。そこをアストンマーティンと一緒に改善しないと、その先に進めません。ですからアストンマーティンと改善するための策を出し合って、その中身をHRC Sakuraにあるいわゆるビークルダイナモ(車体のテストベンチ)で再現して対策をすることになります」
渡辺社長はそう語る。
「おそらく暫定的な対策になると思いますが、開幕に向けてはその方向でいきましょう、そしてちゃんと走行できるようにするというのが、今の一番重要な部分です。そこができれば、今度はパフォーマンスがどうだという、次のステップにいけるんだと思っています」
「私は(ローレンス)ストロール会長とか、エイドリアン・ニューウェイ代表と、電話でのやり取りをしていますが、非常に前向きな議論ができています。オーストラリアでちゃんと走るために全力でやろうということは、確認し合っています。決して悪い状況ではありません」
「とはいえドライバーたちはイライラしているところも当然あるので、そこはパフォーマンスを発揮できるようにするしかない。なんとか準備を整え、しっかりと走れるようにしていきたいです」
武石専務も、アストンマーティンとの今の関係について、次のように語る。
「現場ベースで言えば、データに基づいて、ちゃんと物事を解決していこうという雰囲気があります。ですから、そういう部分ではポジティブに捉えています」
1週間後にはいよいよ開幕戦を迎える。アストンマーティン・ホンダとしては当然厳しい状況にはあるが、問題解決、そしてさらに上を目指していくと、渡辺社長と武石専務は口を揃える。
「プレシーズンテストは、非常に厳しい状況になっています。でも我々は、絶対にそこで諦めない。開幕戦に向けて、全体的に努力をしていきたいです」
「このプロジェクトは、新しいチームと組み、新しい燃料やオイルを使うというように、色々な要素が新しいチャレンジになります。非常に難易度が高いという部分が正直に言ってあります。でも、だからこそ我々はF1をやるんです。決して諦めません」
「多少時間がかかることはあっても、常に上を見てやっていきたいと思いますから、ファンの皆さんにはぜひ応援していただきたいと思います」
そう渡辺社長が語れば、武石専務は次のように語る。
「あまり格好いいことは言うべきではないかもしれません。非常に厳しい状況ですが、開幕に向けて出来る限り手を打っていきたいと思います。ですから、まずはその結果がどうなるかを、まずは見ていただきたいなと思います」
「我々は必ず勝ちにいきます。どのくらい時間がかかるのかは分かりませんが、とにかく早く勝てるようにやっていきますので、その過程を見守っていただければと思います」
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