マイケル・マシはスケープゴートにされた……2021年F1アブダビGP、物議醸した裁定を元同僚が擁護「それほど間違ったことはしていない」
元F1レースディレクターのニールス・ウィティヒが、2021年アブダビGP後に痛烈なバッシングを受けた当時のレースディレクター、マイケル・マシを擁護した。
Max Verstappen, Red Bull Racing
写真:: Joe Portlock / LAT Images via Getty Images
F1の2021年タイトル決定戦となったアブダビGPは、物議を醸す裁定で長きに渡って論争を巻き起こした。当時のレースディレクターはマイケル・マシだったが、彼の後任として約3年に渡ってF1レースディレクターを務めたニールス・ウィティヒは、当時のマシに大きな過失はなかったと考えている。
この最終戦を迎えた時点では、レッドブルのマックス・フェルスタッペンとメルセデスのルイス・ハミルトンが同点で並んでおり、アブダビで1ポイントでも多く積み重ねたドライバーがチャンピオンという状況だった。ただレースは終盤までハミルトンがリードし、このまま逃げ切りで8度目の王座を手にするものと思われた。
しかし、残り6周でウイリアムズのニコラス・ラティフィがクラッシュしたことが戦況を大きく変えた。これでセーフティカーが出されると、11秒あった首位ハミルトンと2番手フェルスタッペンのギャップは消滅。さらに失うものがないフェルスタッペンはこの間にピットインしてニュータイヤに交換することができた。
ただ、セーフティカーの隊列の下ではハミルトンとフェルスタッペンの間に数台の周回遅れのマシンが挟まっていた。しかし残り2周でマシは、周回遅れのマシンが隊列を追い抜いて同一周回に戻ること(アンラップ)を許可。しかもその直後、ファイナルラップからレースを再開することを決定した。その結果、新品タイヤのフェルスタッペンにピタリと接近されたハミルトンはなすすべなくオーバーテイクを許し、フェルスタッペンが初のタイトルを獲得した。
しかし、この判断はF1のスポーティングレギュレーションと矛盾していた。
当該の条文では、「LAPPED CARS MAY NOW OVERTAKE(周回遅れ車両は追い越し可)」のメッセージが全チームに通知された場合、周回遅れ車両はセーフティカーとリードラップにいる車両を追い越さなければならないとされているが、一方でセーフティカーがピットに戻るのは、最短でもこのメッセージが出された次の周回以降とされている。
The FIA Safety Car leads Lewis Hamilton, Mercedes
Photo by: Lars Baron / LAT Images via Getty Images
つまり、規則通りにいけば、セーフティカーはファイナルラップ終了のタイミングでピットに戻ることになるはずで、そうなればフェルスタッペンに逆転のチャンスはなく、チャンピオンはハミルトンとなっていたはずだった。
ただウィティヒはmotorsport.com系列のFormel1.de.のYouTubeチャンネルに出演した際、これらの判断についてはレースディレクターのマシにある程度の裁量権があったため、マシが大きな過ちを犯したとは思っていないとの見解を示した。
「私の見解では、マイケルはそれほど間違ったことはしていないと思っている」
「規則はすべてを厳密に定義していたわけではなく、彼の判断は裁量権の範囲内だった。セーフティカーの運用には、ある程度の自由度が与えられていた」
「重要なのは、チーム、FIA、F1が長年、『可能な限りグリーンフラッグ下でレースを終える』ことで合意していた点だ。誰もセーフティカー先導で終わるレースを望んでいなかった」
「アブダビでは、どんな判断をしても誰かしらが不利になる状況だった。赤旗という選択肢もあったが、赤旗を出すにはコースが封鎖されていたり、スタッフに危険が及ぶといった条件が必要だった。そしてあの時はそれに該当しなかった」
「それから周回遅れの車両をどうするかという問題があった。最初はアンラップしないとされていたが、その後許可され、さらに通常の手順とは異なり、(セーフティカー退出において)次の周まで待たなかった。ただ、これは当時の規則上、彼の裁量の範囲内だった」
「彼は本質的に、『最後の1周でレースをする』という、皆で合意していたことを実行したんだ。それはスペクタクルなフィニッシュを生み、オーバーテイクが起こり、勝者と敗者が明確になった。結果は逆になっていた可能性もある。それがスポーツだ」
Niels Wittich, Race Director, FIA
Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images
「終盤のセーフティカーは常に物議を醸す。それがレースの行方を左右するのであれば、ファンとしては嬉しくないだろう。しかしそれは何だって同じであり、どの周回であれ誰かが得をし誰かが損をする。それもまたスポーツの一部だ」
「アブダビのレースは、ラティフィのクラッシュが起きるまではかなり平穏だった。あれがなければ、単純でおそらく退屈な決着になっていただろう。しかしあのアクシデントと介入によって突如勝敗を分ける展開となり、片方どちらかのファンがひどく失望するような状況となった」
「後になってから『赤旗にすべきだった』などの意見が出た。確かにそうすることもできただろうが、それは他のレースとの一貫性を欠く判断になる。一貫性こそが重要だ」
「2022年初頭の会議で、私はチームに直接聞いた。『些細なインシデントが起きるごとに赤旗を出すべきか?』と。答えはノーだった。最終戦だけ特別ルールにするべきかと尋ねても、ノーという答えだった」
「チャンピオンシップは1レースだけで決まるものではないし、シーズン序盤に失ったポイントも大きな意味を持つ。ハミルトンもフェルスタッペンも、もっと早い段階でタイトルを決めるチャンスはあった」
FIAはこの一件を「ヒューマンエラー」によるものだと認定し、マシをレースディレクターの職から外した。マシはその後、殺害予告を含む激しい誹謗中傷を受け、最終的にFIAを離れている。
Michael Masi
Photo by: Simon Galloway / Motorsport Images
ウィティヒはこう続けた。
「審議の結果、マイケルを辞めさせるしかないという結論になり、事実上スケープゴートにされたような形となった」
「私や多くの同僚にとって残念だったのは、FIAがマイケルを十分に支えなかったことだ。これは明確に批判されるべきだ。(レースディレクターが)極限の状況をひとりで対処せざるを得ないことは、皆分かっていたわけだ」
「かつてチャーリー・ホワイティングの時代には、FIAのトップが常に彼を支えていた。マックス・モズレーも強く後押ししていた。しかしそのような支援はもはや存在しない。それが、私がレースディレクターを辞めた理由のひとつでもある」
「何が起きたにせよ、十分な議論もなく、職員を守る姿勢もなかった。それがこの件から得られる最も悪い教訓だ」
マシは現在、オーストラリアのカート協会で理事を務めているほか、フォーミュラ・リージョナル・オセアニア・トロフィーを含むニュージーランドの選手権でイベントディレクターを務めている。
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