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海外F1記者の視点|デカいエンジン音は正義なのか!? V8回帰に向かおうとするF1……その是非を考える

F1は2031年に自然吸気V8エンジンへ回帰する構想を進めている。しかし、「音を大きくすること」は本当にF1が目指すべきことなのだろうか? ライター陣がそれぞれの考えを語った。

Motorsport.com staff writers

公開日時: 2026/08/14 3:22

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Sebastian Vettel, Red Bull Racing RB9

写真:: Steve Etherington / Motorsport Images

 FIAのモハメド・ベン・スレイエム会長とF1のステファノ・ドメニカリCEOは、2031年、あるいは2030年からF1で自然吸気V8エンジンを復活することに意欲的だ。パワーユニットメーカーの多くも、持続可能燃料を使用しつつ、今より依存度の低い電動コンポーネントを使った、低コストで複雑さを軽減したレギュレーションに概ね賛同している。

 ベン・スレイエム会長はコスト以外の理由として、2013年まで使われていたV8エンジンを復活させることで、ファンが望むようなF1らしい迫力あるサウンドを取り戻したいと主張している。これは良い考えと言えるのだろうか? ライター陣の見解は以下の通りだ。

うるさくすればいいわけではない——ケビン・ターナー

写真: JEP

 F1を単純にうるさくすればいいという主張は、あまり賢明ではないだろう。モータースポーツが抱える課題の中で「騒音公害」は最重要課題ではないが、全く存在しないというわけではない。そもそもエンジン音というものはエネルギー損失の証でもあり、それを無闇に持ち上げるべきではないのではなかろうか……。

 とはいえ、レーシングカーのサウンドが多くのファンにとって重要であることも間違いない。F1に求める要素として、「面白いレース」「速いマシン」「優れたドライバー」に音が勝るかと言われるとそれは疑問だが、サウンドが我々の感情に大きな影響を与えていることは確かだ。モータースポーツは五感を刺激する体験として、人々を惹きつけている。

 ただ音量自体は本質的な問題ではない。重要なのは音の質である。

 ターボエンジンは、どうしても耳に心地よい音にはなりにくい。もちろん、ポルシェの水平対向6気筒はル・マンで非常に印象的なサウンドを響かせているが、多くの人に「一番好きなエンジン音は?」と尋ねれば、V8、V10、V12を挙げるだろう。年配のファンなら直列8気筒やV16を挙げるかもしれない。

 1980年代のハイパワーなF1マシンが奏でていた荒々しいターボサウンドは、今となってはノスタルジックであるが、より排気量の大きな自然吸気エンジンが発する高音域のサウンドとはまったく異なるものだ。

 今のWEC(世界耐久選手権)で走るマシンのエンジン音を聴き比べて、好きなものを選んで欲しい。おそらくキャデラックのV8か、アストンマーティンのV12を選ぶだろう。

V10、V12は素晴らしい。しかしV8には“物語”がない——ジェイク・ボクソール-レッグ

写真: Motorsport Images

 私にとって、騒音は決して絶対的なものではない。実際、ほとんど重要なものではないと考えている。

 私が好きなのは、ドライバーがコントロールを失うギリギリのところでマシンを操っているところだ。我々凡人には到底できない領域で、必死にマシンをねじ伏せているところがいい。それはまるで、戦闘機パイロットが激しい乱気流の中で大技を決め、観衆を魅了し、同乗者をノックアウトさせる……そんな感覚だ。

 だから私は現在のパワーユニットに不満はない。今でも、特にモナコのトンネルでは耳をつんざくような轟音が鳴り響き、まるで獲物を追いかけるライオンのようだ。耳栓を忘れると酷い目に遭うが、それでも構わない。

 しかし、ここからさらにエンジン音を大きくするにしても、なぜこれほどまでにV8の退屈な音が求められているのか、私には理解できない。F1がこれまで搭載してきた数々のエンジン音の中で、V8は平凡すぎる。言うなれば、いつものイギリス料理を食べ、無難にコールドプレイを聴いている時のような物悲しさというべきか。

 V10エンジンからV8エンジンに変わった時、それを歓迎した人などほとんどいなかった。V10は、その神秘的なまでの咆哮の中にも深みがあり、低音の厚みと鋭い高音が何層にも重なった、豊かな表情を持っていた。一方のV8には、そんな奥行きはない。V10がオペラ歌手なら、V8はアンソニー・キーディス(米国のロックバンド、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのボーカル)といった風情だ。

 そしてV12は、さらに素晴らしかった。最近、Autosportの取材でマクラーレンのテストカーに積まれたランボルギーニ製V12エンジンのサウンドを聴くことがあった。その音は、荒々しく、生々しかった。力強さと暴力性を秘めながらも、美しく詩的な響きを持っていた。フェラーリは長年にわたってこのV12サウンドを奏で続けてきたわけだが、あれは騒音でも、音でもなく、まさに音楽であった。

 今のエンジン音は、好きか嫌いかは別としても、少なくとも物語性はある。獲物を追うライオンの群れ、もしくは暗闇の檻の中で苦しげに咆哮する猛獣……しかしV8の音から私が連想できるのは、「ただ単にうるさい音を出している」ということだけで、それ以上の比喩や物語は何も思い浮かばない。

V8は良いアイデア。しかし副作用もある?——フィリップ・クリーレン

Guests watch from the Paddock Club balcony.

Photo by: Sam Bagnall / Sutton Images via Getty Images

 私の書く文章は、V12を称賛するジェイクの名文には到底及ばないが、V12がおそらく最高だったという意見には同意する。

 ル・マン24時間レースを取材してきた経験は、エンジンサウンドのソムリエになる上での最高の修行だったと言える。V12が奏でる周波数の重なりは、まるで美しい交響曲のようで、V8の唸り声よりもはるかに魅力的だ。

 現在のターボ-ハイブリッドのV6エンジンのような、こもった金属音のようなサウンドよりも、より迫力があって人を惹きつける音を求める理由は理解できる。正直に言えば、今のサウンドにも時間が経つにつれて愛着が湧いてきたが、それでもかつてのV8、V10のサウンドと比べて特別心地よい音だとは思わない。

 ここで白けることを言いたくはないが、V8エンジンへの回帰には、あまり十分に議論されていない副作用もあるように思う。

 F1から大音量のエンジン音が消えて、もう10年以上が経つ。その間にF1は大きく変わった。ファン層は以前より若返り、多様化し、開催地も市街地コースが増えている。もしエンジン音のデシベルが再び大幅に上がれば、そうした市街地イベントの中には開催継続が難しくなるものも出てくるかもしれない。その中で、どれだけ多くのファンがV8エンジンを求めているのか、その点について十分な調査が行なわれているのかも疑問だ。

 V10やV12を復活させることは、市販車との関連性が乏しいことを考えても現実的ではない。F1が市街地レースを減らすこともないだろう(古参のF1ファンには申し訳ないが)。そう考えると、関係者が目指している方向性として自然吸気V8は現実的な選択肢なのだろうし、私自身も反対ではない。

 ただ、その結果として生じる望ましくない副作用まで含めて、F1というビジネスが本当に受け入れる覚悟があるのか……そこには少し疑問を感じている。

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