ハイテク化された今も変わらない……PCでは解決できないドライバーとエンジニアの信頼関係
現在F1はハイテク化が進み、あらゆるものをコンピュータで改善できるようになった。しかしながらドライバーとエンジニアの良好な人間関係は、コンピュータで作り出せないもののひとつだ。
Kevin Magnussen, Haas F1 Team with engineers
Steven Tee / Motorsport Images
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ハイテク化された現代のF1においては、ラップトップ(ノートPC)から得られるデータによってマシンのあらゆるパフォーマンスをチェックし、向上に繋げることができる。しかしながら、ドライバーとエンジニアの良好な人間関係なしには、最高のパフォーマンスを発揮することはできないだろう。
F1ドライバーはコックピットの中でひとりきりだが、決して孤立しているわけではない。彼らは常にエンジニア(主にレースエンジニアやパフォーマンスエンジニア)と無線で繋がっており、状況次第では上級スタッフとも繋がるようになっている。こういった無線交信はセッションの鍵を握っており、メルセデスのルイス・ハミルトンと担当エンジニアのピーター・ボニントン、元フェラーリのフェリペ・マッサと担当エンジニア(当時)のロブ・スメドレーなど、有名なコンビもいくつかある。
エンジニアにはタイヤ、空力、エンジンなど様々な分野におけるスペシャリストがおり、それぞれがドライバーにとって欠かせない存在となっている。F1ドライバーは決してひとりで成功できる訳ではないのだ。
その中でも、とりわけレースエンジニアは重要な役割を担っている。パフォーマンスエンジニアと協力しながらセッティングを煮詰め、セッション中は他のマシンが何をしているのかを見ながら、トラフィックやインシデントを管理したり、状況に応じた戦略指示をするのだ。
シンプルに言えば、ドライバーとレースエンジニアが協力することが極めて重要なのだ。パフォーマンスや結果という面だけでなく、時速300kmで走るドライバーの安全という面でも、信頼関係の必要性は明らかだ。この信頼関係が正しく構築されていれば成功を収めることができるが、そうでない場合、物事はすぐにうまくいかなくなる。
ただドライバーとエンジニアの関係は永遠に続く訳ではない。配置転換やチーム移籍によって担当エンジニアが変わることもしばしばある。そんな中で、ジャック・ビルヌーブがウイリアムズからB.A.Rに移籍する際にジョック・クレアを連れてきたように、ドライバーがエンジニアを引き連れてくるという例もある。
こういった担当エンジニアの変更というものは、パフォーマンス不振と結びつけられたものであることが多い。2020年のイギリスGP前には、レッドブルがかつてマーク・ウェーバーやダニエル・リカルドを担当していたサイモン・レニーをファクトリーから呼び戻し、成績が今ひとつなアレクサンダー・アルボンのレースエンジニアとして復帰させた。リカルドがレッドブル離脱を決断したのも、このレニーがファクトリー業務に移ったことが理由のひとつとされている。
■エンジニアとの良好な関係が勝利の秘訣に
Felipe Massa, Williams, Rob Smedley, Head of Vehicle Performance, Williams
Photo by: Glenn Dunbar / Motorsport Images
新たにタッグを組んだエンジニアとドライバーが信頼関係を築くのは簡単ではない上に、時間もかかる。長年の経験を経てチームにやってくるドライバーもいれば、F1デビューを果たしたばかりという新人もいる。若手ドライバーの中には強気で自信に満ちたドライバーも多いが、彼らは成長するにつれて、質の高いエンジニアがもたらす違いを肌で感じることになる。
「私がルーベンスと仕事を始めた時、彼は私を試していた」
そう語るのは、2002年から2005年にかけてフェラーリでルーベンス・バリチェロのレース・パフォーマンスエンジニアを務めていたロディ・バッソだ。
「最初のうちは彼が関係をリードしていた。でも私のことを信頼できると分かってからは、あらゆるものが横並びになっていった。それから我々はパフォーマンスも関係性も共に進化していったんだ」
ドライバーとエンジニアの相性がぴったり合うようになれば、エンジニアはドライバーのポテンシャルを最大限引き出せるようになるだけでなく、何か問題が起きた際にもリカバーできるようになる。こういった彼らの関係性がエンジニアリングにどういった影響を与えるのか、実際の例を見ていこう。
例えば高速コーナーを通過する際にスナップ・オーバーステア(アクセルを緩めた際にリヤが滑ること)の症状が出ることがあるが、これはコーナーへの進入の時点でアンダーステアとなっていることに起因する場合が多い。つまり、ドライバーがオーバーステアを指摘したとしても、レースエンジニアはデータを駆使してそれ以前に原因があることを伝えなければならない。
「こういったことは全て、お互いを認め合うことで築かれるものだ」とバッソは言う。彼曰く、ドライバーがエンジニアと良好な関係を築く上で求められるものの中で、純粋なエンジニアリング能力の割合は20〜30%ほどに過ぎないという。
このような良好な関係を構築するために、各チームは独自の施策を行なっている。ウイリアムズではオフシーズンに様々なトレーニングキャンプを実施しており、その他にもシミュレータセッションやコミュニケーション講座を通年で行なうことによって、関係を深めようとしているようだ。
しかしながら、ウイリアムズの車両パフォーマンス責任者であるデイブ・ロブソンは、今季からF1デビューを果たしたニコラス・ラティフィにとっては、コロナ禍によってエンジニアとの関係構築が難しい1年になっていると指摘した。
「他にも我々はできる限りの活動を行なっている」とロブソン。
「ただ今年は簡単な1年ではない。世界全体の状況を踏まえても、ニコラスにとっては難しいだろう」
マクラーレンのカルロス・サインツJr.もコロナ禍以前、ファクトリーでの仕事を終えた担当レースエンジニアのトム・スタラードやパフォーマンスエンジニアのエイドリアン・グッドウィンとよく時間を過ごしていたという。なおサインツJr.は、来季移籍するフェラーリに彼らを連れていく計画は“現時点では”ないと話している。
■ドライバーは“リーダー”でもあり“顧客”でもある
ドライバーがレースエンジニアやパフォーマンスエンジニアと仕事をする中で状況が改善されない場合、エンジニアを変更するという大きな決断が必要になるかもしれない。ただこれは各所に大きな影響を与えるため、軽々しく行なわれるべきものではない。
「一般的に、ドライバーはパフォーマンスの欠如を正当化するためにエンジニアを変えるというチャンスを3回以上は与えられていない」とバッソは言う。つまり、それでも問題が解決しない場合は、チームがどういう判断を下すかにかかっているのだ。
重要なのは、ドライバーというのはチームの先頭に立つ“リーダー”であると同時に、チームが製造したマシンを使用する“顧客”でもあるという点だ。ドライバーは非常に大きな力を持っているが、それを慎重に使わなければいけない。彼らがそれを間違った形、間違ったタイミングで使用すると、自分自身そしてチームの双方に深刻なマイナスをもたらす可能性がある。
以上の理由からレッドブルは、ドライバーにとって最も重要な部分が変わった今、アルボンのパフォーマンスに注目している。前任のマイク・ラッグがエンジニアを担当していた開幕3戦では、チームのエースであるマックス・フェルスタッペンとアルボンの平均予選タイム差は0.551秒となっていた。そして第4戦イギリスGPからレニーが合流。以降の平均予選タイム差は0.561秒と微増しているが、8戦中6戦で0.5秒差以内の予選タイムを記録するなど概ね改善傾向にあり、アルボン自身も「物事はかなりスムーズに進んでいる」とコメントしている。
結局のところドライバーは、チームの一員として勝利を収めるために人間的な部分に注意を払う必要がある。自分ひとりでは成功できないことに気付くかどうかはドライバー次第なのだ。
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