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【海外F1記者の視点】今も混乱が続くF1モナコGPの”ペナルティどうする?”問題。誰もが満足する結末は不可能

F1は窮地に陥ってしまった。モナコGPの結果について、次々と異議申し立てがなされているからだ。どんな結論となっても、誰かが必ず不満を抱くだろう。いや、ある程度公平な結果を得る方法はあるのだろうか?

Andrea Kimi Antonelli, Mercedes

 まさにF1らしい大混乱といえよう。文字通り、そして比喩的な意味でも、F1は1/1000秒、1/1000ミリまで計測する、完璧さと精密さが求められる選手権である。しかしモナコGPでは”わずか”77cmという誤差のため、完全な混乱に陥ってしまった。

 モナコGPの結果にまず異議を訴えたのはアルピーヌであった。同チームのピエール・ガスリーは、レースを3番手でフィニッシュしたものの、ピットレーンでの速度違反を2度犯したとして、5秒のタイム加算ペナルティを2度科された。

 結局フィニッシュしたタイムに10秒が加算されたことで、ガスリーの最終的な順位は7位となった。

 しかしアルピーヌは、ガスリーは速度違反を犯していないとして抗議。再審が行なわれ、予想外の結果がもたらされた。F1の公式計時を担当するF1マネジメント(FOM)が、ピットレーンの速度計測システムに不具合があったことを認めたのだ。

 この結果ガスリーに出された合計10秒のタイム加算ペナルティが取り消され、ガスリーは3位に返り咲いた。このことは多くの人を驚かせ、困惑させた。なぜならこの決定によって、モナコGPの順位が公平なモノになったとは到底思えないからだ。

 この裁定は、ある意味では結果を逆方向に導いたと言えるだろう。ガスリーが表彰台を取り戻す一方で、レッドブルやマクラーレン、メルセデスといった、やはり不当なペナルティを受けたであろうチームはまったく救済されなかったからだ。そして彼らが本来の順位を取り戻すため……いわば正義を追求する方法を模索し始めたのは、当然のことである。

 全員の正義が認められるような結論を導き出すのは、おそらく不可能だろう。現状、この窮地から抜け出すための理想的な方法は存在しない。

 ガスリーのペナルティを撤回するのは、比較的容易だった。彼はペナルティを消化せずにレースをフィニッシュしたからだ。一方で他の多くのドライバーは、レース中にペナルティを消化してしまった。それをどう取り戻せばいいのかは非常に難しい。

 ここからは実に複雑で、憶測の域を出ない検証となることをご理解いただきたい。それだけ、事態は複雑なのだ。

 ガスリーはレース走破タイム2時間23分51.612秒で3位となった。これは優勝したアンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)から20.369秒遅れ。アイザック・ハジャー(レッドブル)はガスリーから3.025秒差の4位、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)はさらに0.867秒遅れであった。ジョージ・ラッセル(メルセデス)は12位で、アントネッリからは43.353秒遅れ、ハジャーからは19.959秒差である。

 これは、全員が実際にフィニッシュした時と全く同じ位置ということになる。しかしガスリーには5秒のタイム加算ペナルティが2回分加算されたことで7位となっていた。アルピーヌの再審請求によりこの10秒分のペナルティが取り消されたが、ピアストリとラッセルはペナルティを取り消されなかった。ピアストリはレース中にペナルティを消化済みであったし、ラッセルはレース中にペナルティを消化しようとした結果、チームの連携ミスによって失敗し、さらなるペナルティ(ドライブスルーペナルティ)を科されたのだ。

 ガスリーのペナルティを取り消した時の最終裁定で、スチュワードは次のようにコメントしている。

「スチュワードは、ペナルティを受けた他の車両に関して、一部の車両はペナルティを消化しており、残念ながらこのことがレース戦略、ひいてはレース結果に影響を与えたことを指摘する。これらの違反が本当にあったのかについては、間違いなく疑問が残る。しかし、スチュワードに既に消化されたペナルティを取り消す権限を与える規則は存在しない。いずれにしても、そのような権限がどう行使されるのか、想像もつかない。特筆すべきは、他のどのチームも、規定の期限内に再審請求を行なわなかったということである」

「残念ながら」という言葉は、今回の事象においてまことに相応しい。

 正式には、ピアストリとラッセルに科されたペナルティが不当なモノであったとは立証されていない。モナコGPのスチュワードは、再審を要求したのはアルピーヌだけであったため、ガスリーの件のみを取り扱う必要があった。計時システムのサプライヤーが、計測のセットアップにミスがあったことを認めたため、スチュワードはガスリーに科されたペナルティのみを再検証する根拠を得たに過ぎず、他のドライバーのペナルティは再検討の対象にはならなかった。

Pierre Gasly, Alpine

Pierre Gasly, Alpine

Photo by: Sam Bagnall / Sutton Images via Getty Images

 理論的に考えれば、ガスリーがスピード違反を犯していないにもかかわらず、「スピード違反」とみなされたのであれば、ピアストリとラッセルに科されたペナルティも不当なモノだったということになる。しかしマクラーレンやメルセデスは、レース後すぐに異議を申し立てることはしなかった。

 そんな中でアルピーヌが請求した再審の結果は、彼らを困惑させたに違いない。ガスリーのペナルティを取り消すのなら、他のドライバーのペナルティをそのままにしておくのは一体どういうことなのか? と。

 今回の一連の騒動で最も興味深い点はそこだ。レース結果が誤ったデータに基づいていたとしたら、他ドライバーのレース結果をそのままにしておきながら、ガスリーのペナルティだけを回復させるということは、本当に可能なのだろうか?

 より公平な解決策、つまりそもそも科されるべきではなかったペナルティに反応したドライバーたちにとって、最終結果をより公平にする解決策がまだ見出すことができるかどうかについて、興味深い議論が交わされている。

 ひとつの可能性としては、ペナルティによって失ったタイムに相当する分だけ、彼らのレースタイムを短縮するという方法が考えられる。

 具体的にはどんな形になるだろうか?

 ピアストリがガスリーに順位を奪われたのは、レース中に2度目のピットインを行なったからだった。レースタイムに5秒を加算される可能性を回避するため、早々にペナルティを消化したのだ。

 ピアストリはランス・ストロール(アストンマーティン)のクラッシュによって出動したセーフティカー走行中にピットインし、5秒停車してペナルティを消化した。しかしアルピーヌはガスリーをピットインさせなかったため、順位を上げることができた。

 ピアストリはレースタイムからこの5秒を引けば、ハジャーとガスリーの両方を抜き、順位の上では一気に3位に躍り出る。

 これは公平なことと言えるのであろうか? 答えはノーである。

 ピアストリはペナルティを受ける前には、ガスリーよりは前を走っていた。しかしハジャーよりは後方に位置していたのだ。ハジャー陣営としては、自身が関与していない状況によって、事実上巻き添えの被害を被ることになる。しかしマクラーレンはそれで満足するだろうか? 彼らが控訴で求めているのはそれなのか? まだそれは不明瞭である。

George Russell, Mercedes, Isack Hadjar, Red Bull Racing

George Russell, Mercedes, Isack Hadjar, Red Bull Racing

Photo by: Andy Hone/ LAT Images via Getty Images

 ラッセルの状況については、さらに複雑だ。

 ラッセルはピットレーンのスピード違反で、5秒のタイム加算ペナルティを科された。メルセデスはピットストップ時にそのペナルティを消化しようとしたが、正しくペナルティを消化しなかったとして、ドライブスルーペナルティに変更された。しかもそのドライブスルーペナルティは、赤旗中断後に消化しなければいけなかった……つまり隊列が詰まった状態で消化しなければいけなかったわけで、大きく順位を落とすことになった。

 しかし競技規則には、少なくとも有用な条項がある。それは、ドライバーがレース中にペナルティを消化する時間がない場合の条項(B1.9.6.c.iii条)である。

 この規定にはこう記されている。

「TTCS(トータルタイム・クラシファイド・セッション)終了までに当該ペナルティが履行されない場合は、ストップ&ゴー・ペナルティの場合は、当該ドライバーの経過時間に30秒、ドライブスルー・ペナルティの場合は20秒が加算される」

 メルセデスが頼れる最も重要なレギュレーションは、おそらくこの一文であろう。

 ラッセルは、以前のペナルティ(おそらく誤審だったと思われる)が正しく執行されなかったために生じたペナルティを、事実上消化したことになる。FIAの規定では、ドライブスルーペナルティは20秒と定められている。

 最終順位のラッセルのタイムからこの20秒を引くと、彼はハジャーの0.041秒前でフィニッシュしたことになる。

 重要な点は、レース中に同じピットレーン速度違反でペナルティを受けたドライバーは、他にふたりいた。それはルイス・ハミルトンとフランコ・コラピントだ。

 ハミルトンはペナルティを消化してからフィニッシュ。5秒がレースタイムに返還されたとしても、勝ったアントネッリとの差は6.271秒だったため、変わらず2位のままである。コラピントはレース中にペナルティを消化しなかったため、12番手でフィニッシュして14位に降格したわけだが、フィニッシュ時の順位12位に戻ることになる。

Isack Hadjar, Red Bull Racing

Isack Hadjar, Red Bull Racing

Photo by: Sam Bagnall / Sutton Images via Getty Images

 この理論に基づいて計算していくと、優勝アントネッリと2位ハミルトンは変わらず、ピアストリがガスリーを抜いて3位になり、ラッセルは5位に浮上、ハジャーは6位まで後退することになる。またリアム・ローソン(レーシングブルズ)、アービッド・リンドブラッド(レーシングブルズ)、アレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)、エステバン・オコン(ハース)はひとつずつ順位を落とし、フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)は11位となり、入賞を逃す結果となる。

 これはメルセデスにとってはいくらか救いになるはずだ。ラッセルは結局10ポイントを獲得したことになり、チャンピオンシップの構図もわずかに変化するからだ。

 しかし混乱しているのは間違いない。現時点ではパドック内の誰もが、この件が最終的にどんな結末を迎えるのか、見当もつかない。

 現行のレギュレーションには、こういう調整を容易に行なうことができる明確な手続きは存在しない。なぜなら依存できる前例がなく、未解決の問題が多すぎるからだ。

 にもかかわらず、ガスリーにモナコGPの表彰台を与えたことが、パドックの多くの人を憤慨させている。

 ガスリーが素晴らしいレースをしたことに、疑いの余地はない。予選でベスト・オブ・ザ・レストを獲得し、決勝ではスタート直後にマクラーレンのランド・ノリスをオーバーテイクし、上位争いに加わった。実に印象的な走りであった。しかしピットレーンのスピード計測システムが正しく機能していれば、彼が表彰台争いに分け入ることはなかっただろう。

Lewis Hamilton, Ferrari, George Russell, Mercedes, Pierre Gasly, Alpine

Lewis Hamilton, Ferrari, George Russell, Mercedes, Pierre Gasly, Alpine

Photo by: Andrej Isakovic / AFP via Getty Images

 ペナルティがレース展開に影響を及ぼす前には、ガスリーはラッセルやピアストリ、そしてハジャーに大きく後れを取っていた。にもかかわらず、最終順位ではなぜかこの3人全員を上回ることになったのだ。

 今回の決定について、ピアストリはバルセロナ-カタルニアGPの際にこんなことを語っている。

「何が正しいのか、本当に判断が難しい」

「ピットレーンに問題があったことは認められているようだけど、5台も6台もペナルティを受けている。僕もスピード違反はしていない。それにひとつのペナルティを変更しても、他のペナルティは変更できない」

「これは誰にとっても非常に厳しい状況を生み出す。もちろん、僕らは控訴する意向を表明する」

「僕にとっては、ポイントやその他のことはそれほど重要ではない。もっと重要なことは、物事をそういうふうに捉えるべきではないということだ。そしてこれは、非常に厄介な前例を作ってしまった。なぜならペナルティを受けずにコース上で自分の望む位置でフィニッシュし、後でそれを巡って議論すればいいという前提が生まれてしまうからだ。本来あるべきレース結果ではなく、別の結果と出すべきだ」

 どんな解決策が導き出されるか、現時点では未知数だ。あるパドック関係者が冗談混じりに語ったように、AIを使ってレースをシミュレーションし、それを最終結果とするしかないかもしれない。

 改めて再審を請求したマクラーレン、レッドブル、そしてメルセデスが、今度どんな主張を展開するのかというところも分からない。モナコGPが終わって1週間以上が経過しているという現状で、レース結果を変更する法的手段が残っているのかも疑問視される。

 再審を申し立てているチームによっても、求めているものが異なる。メルセデスとマクラーレンは、レースタイムを修正することで、適切ではないペナルティを受けたドライバーが本来手にするべき順位を取り戻すことを求めているはずだ。一方でレッドブルは、ガスリーのペナルティ解消を認めず、ハジャーが表彰台を維持できることを望んでいるはずだ。

Oscar Piastri, McLaren

Oscar Piastri, McLaren

Photo by: Anni Graf - Formula 1 via Getty Images

 ラッセルの件についてはさらに複雑である。そもそものペナルティが不当だったかもしれないが、ペナルティ消化手順をミスしたのは、チームのコミュニケーションミスから生じたものであり、それを無かったことにするべきではないと訴えるチームもあるはずだ。

 とはいえ影響を受けたドライバー全員が、何らかの形で保証を受けるという結果も、完全に否定されたわけではない。そういう意味では、モナコGPの結果が再び変動する可能性も十分に残っている。

 いずれにしても、避けられない問題がひとつある。それは戦略、ピットストップ、そしてレース結果が、誤ったデータに基づくペナルティによって影響を受けてしまった以上、レースが本来どんな結果になっていたのか、それを再現するのは不可能だ。

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