何かとゴタゴタしている“救済措置”ADUO。結果未公表なのにアウディとフェラーリがアップデートしているのはなぜ? 様々な疑問に迫る
FIAがまだADUOの結果を正式発表していないのはなぜか? そしてそれにもかかわらずアウディとフェラーリが既にパワーユニットをアップグレードできているのはなぜか? これらの疑問点を探る。
2026年のF1において、性能が劣っているパワーユニット(PU)製造者に対して追加の開発・アップグレードを許可する制度、通常“ADUO”。この今季からの新制度については何かと疑問の声が挙がることも多い。そもそも、第1回の対象メーカーが未だ公表されていないのだ。
ADUOの対象となるメーカーについては、2戦前のモナコGPの時点で内示されており、各メーカーは自分たちの現状を把握している。しかしレッドブル・フォード・パワートレインズの要望により、追加の確認が行なわれている。
レッドブルが再検証を求めている理由は、自分たちがベンチマーク……つまり基準となる最高レベルのエンジン出力を誇っているという結果が出ているからだ。したがって、レッドブル以外のメーカーにPUのアップグレードが認められる形となるが、彼らとしてもこの結果に驚きを隠していない。
レッドブルのローレン・メキーズ代表はmotorsport.comに対し、自分たちはADUOの制度そのものに反対しているわけではないと説明した。ただ彼らはFIAが使用したデータ、センサー、評価方法について確認を求めており、曰く自分たちがメルセデスよりも優位だと示すデータサンプルは、「ひとつもない」はずだという。
この検証作業はバルセロナ・カタルニアGP前から始まり、当初は7〜10日程度で終わる見込みだった。しかしその期間はすでに過ぎており、事実確認だけでなく、結果をどのように説明・公表するかという問題も残っている。
いつ正式な結果が分かるのか?
事実確認が終了すれば、まず説明を求めた当事者であるレッドブルに対して結果が報告されることになる。これはイギリスGP後に予定されている会議で行なわれる可能性があるが、公表もその会議の終了を待つ必要があるのか、それともそれ以前にリリースできるのかは現時点では不明だ。
とはいえ実際には、ADUOの結果は既にパドック中に広まっており、周知の事実となっている。前述の通りトップ評価のレッドブル・フォードにアップグレード権は与えられず、そこに対して2〜4%劣っているメルセデスはアップグレードトークン1個を獲得。フェラーリ、アウディ、ホンダはいずれも4%以上遅れていると判定され、今年2回、来年に向けて2回のアップグレード機会が認められる。ただこれも、結果が変わらないことが前提であるが。
結果が変わる可能性は?
全体の結果が変わる可能性は極めて低いだろう。追加検証が行なわれても、エンジン性能ではレッドブル・フォードが最上位になる可能性が高いと見られている。
フェラーリ、アウディ、ホンダが4%以上差をつけられているということもほぼ確実で、その中でもホンダが最も遅れているのではないかと言われているが、いずれにせよ10%以上の差がついていることはないようだ。もし10%を超えていれば、さらに追加の開発予算が認められていたはずだ。
レッドブルはメルセデスがベンチマークとならなかったことに驚きを示している一方、メルセデス側はFIAの測定方法やデータセットは非常に綿密に構築されており、その数値に基づけば結果は明確だと説明している。さらに、水面下ではすでに開発作業が始まっているため、今さら結果を変更するのは極めて難しいとも指摘している。
なぜもうアップグレードしているチームがいるのか?
ファンにとって何より驚きなのは、このようにADUOの正式発表を前にゴタゴタが続いている状況ながら、既にアップグレードを実戦投入したメーカーがいることだろう。アウディはバルセロナの時点で改良型PUを投入済。フェラーリも今週末のオーストリアにアップグレード版PUを持ち込み、夏休み明けには改良型ターボも投入する予定となっている。
これが可能となっているのは、モナコでFIAが各メーカーへ通知した内容が既に、新パーツ投入を許可する“ゴーサイン”として扱われているためである。重要なのは公表の有無ではなく、FIA、チーム、メーカー間の公式なコミュニケーションこそが法的・技術的に有効だということだ。
またフェラーリ、アウディ、ホンダがADUOの適用対象であることに疑いの余地がないため、この3社のうち2社がすでにパワーユニットの改良版を投入しているのも偶然ではない。ホンダも、サマーブレイク前後にアップグレードを投入する計画であることを明らかにしている。
一方でレッドブルが主に問題視しているのは、メルセデスにADUOの適用資格があることだ。しかし、これは少々皮肉な状況を生んでいる。レッドブルがこのままメルセデスのアップグレードを遅らせ続ければ(※信頼性向上を目的とした小規模な改良は可能)、次のADUO評価ポイントでもレッドブルが首位を維持する可能性を高めることにも繋がってしまう。
ADUOは目的どおり機能しているのか?
レッドブルが事実確認を求めている最中だが、ADUOを巡る本当の問題はそれよりも根深い。
まず以前から指摘されているように、評価方法と許可されるアップグレード範囲との間に食い違いがある。ADUOの対象メーカーを決める上では内燃機関……つまりエンジンの出力だけが評価対象となる一方で、その結果を受けて認められるアップグレードの範囲はエンジンに限られてはおらず、ハイブリッドシステムを成す電動コンポーネントにもテコ入れが可能となっている。さらにフェラーリが開発している小型ターボのような要素は評価対象に含まれていないが、実際にはこれもエンジン出力へ影響を与える。
ただこれも、2025年春に全メーカーで合意した事項であることを記しておく必要がある。FIAシングルシーター部門責任者であるニコラス・トンバジスは元々、パラメーターをより複雑にすることにも前向きであり、パワーユニットの他の構成要素を評価対象に加えたり、選手権順位も参考にする可能性があった。しかしシンプルな評価軸がベターとされ、その案は採用されなかった。
そのため各チームは、現在の制度設計について公然と不満を述べる立場にはない。とはいえ今回の一連の騒動は、長期的にはADUO制度そのものを見直す必要があるのではないかという、より大きな疑問を投げかけている。元々性能で後れをとったメーカーを救済するためのセーフティネットとして導入されたはずの制度が、今やパドックの政治的駆け引きのひとつとなってしまっているからだ。
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