コラム

F1 オーストリアGP

ハミルトンは“イタリアのボノ”を見つけた。大切なのはやっぱりヒト……好調の鍵を「エンジニアとドライバーの相性」から紐解く

ルイス・ハミルトンがバルセロナでフェラーリでの初優勝を記録したことは、レースエンジニアの重要性を改めて示した。彼が“イタリアのボノ”を見つけたということは、氷山の一角に過ぎない。

Filip Cleeren

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公開日時: 2026/07/02 8:01

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Lewis Hamilton, Ferrari

 2025年の苦しいシーズンを経て、ルイス・ハミルトンがついにフェラーリでの初優勝を記録した。この復活撃は多くの人々の心を打った。

 そこに至るまでの大きな流れについては、すでによく知られている。ハミルトンは2026年用F1マシンの開発に関与したことに加え、後にチームメイトのシャルル・ルクレールも追従した新しいブレーキ構成への変更など、チーム内部の技術的・人的な改革に取り組んだ。これがフェラーリSF-26の性能を最大限に引き出すことにつながったのだ。

 ただ、そういった技術的な改革を躍進の鍵として挙げると、どこか抽象的に聞こえてしまう。結局のところ、ハミルトンのキャリアを好転させたのは“人”なのだ。

 各F1チームには舞台裏で多くの人たち(トップチームでは1000人以上)が働いていて、膨大な時間を費やしている。だからこそ、特定の個人を名指しで称賛するのは少し不公平に感じることもあるが、ハミルトンの新しいエンジニアリングチームの中心にいるカルロ・サンティを挙げずして、ハミルトンの現在の好調は語れないだろう。

 52歳のサンティは長年フェラーリに在籍するベテランで、これまではマラネロの開発拠点でリモートエンジニアリング部門を率いていた。そして今年から、ハミルトンの担当となった。

 サンティは当初、一時的な措置としてファクトリーからサーキットへ送り込まれた。今後もファクトリー業務の都合によっては、別の人物がハミルトンの無線を担当するレースもあるかもしれない。しかし、ふたりはすぐに強力な関係を築き上げた。ハミルトンはサンティのことを“イタリアのボノ”と呼んでおり、長く自分の担当として残したいと考えている。

イタリア版ボノ

カルロ・サンティ

カルロ・サンティ

写真: Steven Tee / LAT Images via Getty Images

 “ボノ”とは、ハミルトンがメルセデスで黄金時代を築いた際にレースエンジニアを務めていたピーター・ボニントンの愛称である。ボニントンはハミルトンの成功に欠かせない人物であった。そんな“ボノ”の名を用いることは、これ以上ない賛辞と言うこともできる。

 ボニントンは現在、チーム期待の若手、アンドレア・キミ・アントネッリの担当として良好な関係を築いている。しかもアントネッリは2年目にして覚醒し、ポイントリーダーをひた走っているところだ。

 メルセデス代表のトト・ウォルフは、なぜボニントンが世代の異なるふたりのドライバーに適応できるのかと問われ、こう語った。

「ボノはスーパースターだ」

「彼はレースエンジニアとして理想的な資質を兼ね備えている。科学やデータを扱うべき時には徹底的に技術者らしく振る舞える一方で、ドライバーが支えを必要とする時には非常に思いやりがある」

「忍耐強さも持っている。複雑な思考を持つドライバーたちと接するには欠かせない資質だ。一方で毅然とした態度も持ち合わせている。ルイスに対してもそうだったし、キミに対してもそうだ」

「私にとって、彼はこの世界で最高のエンジニアだ」

 そして今、ハミルトンはフェラーリでサンティとの間に同じような信頼関係を築きつつあるが、これは前任のレースエンジニア、リカルド・アダミを貶めるものでは決してない。アダミもまた経験豊富で優秀なエンジニアである。ドライバーとレースエンジニアのコンビネーションは極めて個人的で主観的なものでもあり、単純な双方の優劣で決まるものではない。

 ハミルトンは言う。

「アダミとは本当に良い関係だった」

「ドライバーが何を必要としているのかを理解するには時間がかかるんだ。ドライバーがエンジニアにフィードバックを伝える時、エンジニアは運転の難しさに繋がっているあらゆる要素を理解しなければならない。こちらはコーナーごとに、進入、中間、立ち上がり、それぞれで何が問題なのかを説明しようとする。そうしたドライバーとエンジニアの連携は、時にはうまくいくし、時にはそうでないこともある」

「カルロは、まさに僕にとってのイタリア版のボノだと感じている。この前ボノにもそれを伝えたよ」

「彼はベテランで、長年この世界で経験を積んできた年長者だ。無線を聞けば分かるように、とても落ち着いている。僕たちは非常に細かなレベルまで一緒に議論できる。エンジニアリング面での相互理解も深いと思う」

「EQとIQ」の絶妙なバランス

写真: Steve Etherington / Motorsport Images

 レース中の無線で、緊迫した状況下で冷静かつ簡潔にコミュニケーションを取るだけでも十分に難しそうに思えるが、レースエンジニアにはチーム全体から膨大な情報が絶えず送られてくる。その中から何が今すぐ行動につながる情報なのか、何がドライバーに伝えるべき重要かつ緊急性の高い内容なのかを瞬時に選別しなければならない。そしてそのためには、エンジニアがドライバーの思考を深く理解し、何が彼らを苛立たせるのかを理解していなければならない。

 現在はアルピーヌでトラックサイド・エンジニアリング責任者であるカレル・ルースは、かつてAutosportのインタビューに答えた際、エンジニアはIQ(知能指数)だけでなく、感情を認識する“EQ”も持ち合わせている必要があるとして、こう語っていた。

「EQとIQという点では、どちらも兼ね備えている必要がある。そうすると、ドライバーが良い精神状態にあるのか、そうでないのかを感じ取れるようになる」

「それは非常に重要なことだ。時には少し励ましたり、安心感を与えたりする必要がある。そうすることでドライバーも『よし、ここで慌てる必要はないから大丈夫だ』と思える。彼らを正しい精神状態に導くことは、時には小さなセットアップ変更以上のラップタイム向上をもたらす」

 また、ロータス時代にキミ・ライコネン、ザウバー時代にシャルル・ルクレールを担当したジュリアン・シモン=ショータンはこう語る。

「私にとって優れたエンジニアとは、優れたコミュニケーターだ。なぜなら、この仕事には多くのプレッシャーが伴う。短い時間の中で正しい判断を下し、ときには勝敗を左右する重要な決断をしなければならない」

「もうひとつ重要なのは、打たれ強さだ。ミスや悪い結果で落ち込んでいてはいけない。気持ちを切り替えて次のレースに集中する必要がある。常に改善点を探し、マシンをより良くしようとする頑固さも必要だ」

「ドライバーによっては、無線で多くの情報を欲しがる者もいれば、逆に少ない方が良い者もいる。その違いを読み取り、彼らが何を必要とし、何を望んでいるのかを理解することも仕事の一部だ。そうすることで最高のパフォーマンスを引き出せる」

 そして今、ハミルトンはサンティとの間にそういった絶妙なコンビネーションを再現することに成功したようだ。ハミルトンが優勝したバルセロナのポディウムには、サンティも共に登壇した。

ヒトのスポーツ

写真: Sam Bagnall / Sutton Images via Getty Images

 物事がうまくいっている時は何もかもが素晴らしく聞こえるが、当然そういった時ばかりではない。チームが低迷したりミスが起きると、個人が標的になる。それはチーム代表のフレデリック・バスールであったり、戦略責任者、レースエンジニアなど……彼らの声は国際映像を通じて世界中の人々に届けられているため、世間の注目を集めやすいからだ。

 ハミルトンを支えるエンジニアリングチームも、重要人物の多くは一般にほとんど知られていない。バスールも、サンティをあまり世間の目に晒したくないと考えている。特にフェラーリのように、一国の期待を背負い、熱狂的なイタリアメディアに常に注目されるチームではなおさらだ。

 またバスール自身も、ハミルトンをフェラーリに適応させるうえで果たした自身の功績については多くを語ろうとしない。彼はこう語る。

「カルロを前面に出したいとは思わない。これは全員の努力の結果だ」

「カルロはそのプロセスの一員であり、彼とルイスの相性が良いのは事実だ。しかし良い時も悪い時も、我々はチームとして対応しなければならない。悪い時には、私がチームを守り、責任を負う。特定の部署や個人だけを表に出したくはないんだ」

 しかし、バスールが自分以外のメンバーをあまり表に出したくない理由はチームを守るためだけではない。ハミルトンがバルセロナで勝ったのは、バスールのおかげだけでもなければ、サンティのおかげだけでもない。マラネロで働く1000人以上の人々が日々築き上げてきた何千・何万といった仕事の結晶だからだ。彼らはSF-26を設計し、組み立て、エンジニアリングしてきた。ピットレーンでタイヤ交換をするメカニックも、ファクトリーで品質管理を担当するスタッフも、その全員が勝利の一部なのだ。

 ドライバーやチーム代表となる人物以外の名前や顔が出ないことは、世間の厳しい批判から守るという側面がある一方で、集団としての努力や人間的な犠牲が見過ごされるという側面もある。しかしながら、F1、そしてモータースポーツは、何よりもまず“ヒトのスポーツ”なのである」

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