ハミルトンがF1ハンガリーGPの予選で見せた“駆け引き”がルール違反ではない理由とは?
F1第11戦ハンガリーGPの予選Q3のアウトラップで、ルイス・ハミルトン(メルセデス)が、ライバルのマックス・フェルスタッペンを“わざと”抑え込む動きをしたのではと囁かれているが、こうした動きはF1のルールから逸脱したモノではない。
Lewis Hamilton, Mercedes
Steve Etherington / Motorsport Images
ルイス・ハミルトン(メルセデス)とマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)の熱戦が続く2021年シーズンのF1。前戦イギリスGPでの接触が遺恨を残す中、ハンガリーGP予選Q3のアウトラップで、先行するルイス・ハミルトン(メルセデス)がマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)の前で“故意に”スロー走行したのではないかという声も聞こえてくる。しかし、こうした駆け引きはF1で定められているルールから逸脱したモノではないのだ。
ハミルトンの動きを批判する人々の中には、アウトラップを低速で周回することでフェルスタッペンを抑え込み、彼を時間切れにしようと試みたのではとの意見も見受けられた。
実際、フェルスタッペンは残り1秒でラストアタックに間に合ったものの、彼の後方を走っていたチームメイトのセルジオ・ペレスはあおりを食らい、計測ラップへ入る前にチェッカーを受けることとなった。
ポールポジションはハミルトン。2番手にはチームメイトのバルテリ・ボッタスが並び、メルセデスがワンツー。3番手にはフェルスタッペンが続き、ペレスは2度目の計測は叶わなかったものの4番手タイムを死守し、レッドブル・ホンダ勢がグリッド2列目を確保した。
こうした予選内容を受け、昨シーズンまでハースでF1を戦っていたロマン・グロージャンは、「もしアレが故意なら、良くはないよね……」とツイッターに書き込んだ。
レッドブル・ホンダのチーム代表を務めるクリスチャン・ホーナーは、この駆け引きについて言及したものの、「これもレースの一部だと」して問題視していない。
「ルイスは、凄まじいラップタイムを叩き出した」とSky Sports F1に彼は語った。
「彼は渋滞を引き起こして、明らかに我々のマシンをクリーンな状態で走らせたくはなかったようだ。でも、彼にはそのトラックポジションにいる権利があった。だから我々はこれと言って問題視していない」
ホーナーが言及した通り、実際ハミルトンが予選Q3最終盤で行なったスロー走行には、不都合や予想外、ルール違反は見当たらない。
F1には、予選で他のドライバーを妨害しないように、いくつかレギュレーションが設けられている。
F1のスポーティングレギュレーション24条4項には、「車両はいかなる時にも、不必要に速度を落とし、不安定な走行、あるいは他のドライバーまたはそれ以外の人に危険を及ぼす可能性があるとみなされる方法で運転できない」と記されている。つまり、通常走行とは異なる行為を取ったドライバーは処罰の対象となる可能性があるのだ。
さらに、F1のレースディレクターを務めるマイケル・マシは、予選時にドライバーが遵守しなければならない”最低タイム”をピットレーン入口・出口2ヵ所のセーフティーカーライン間で設けた。これにより、ドライバーが予選時に優位なトラックポジションを得るために必要以上に速度を落とすことが制限されている。
Lewis Hamilton, Mercedes W12
Photo by: Motorsport Images
今回のハンガリーGPでは、ピット出口付近の第2セーフティカーラインからピット入口付近の第1セーフティーカーラインまでの最低タイムは1分31秒0と定められていた。
物議を醸したハミルトンの予選Q3のアウトラップはこの規定をクリアしていたため、FIA側がルール違反を審議する必要がなかったのだ。
また、ルール違反であるかという是非の前に、彼のアウトラップは、予選時に記録されたアウトラップの中では最も遅いモノではなかった。
ハミルトンのアウトラップペースは、予選セッションで常に彼の前を走っていたチームメイトのボッタスの動きに左右された。つまり、ハミルトンは全ての予選アタックにおいて、ボッタスのマシン後方から来る乱気流の影響を受けない位置まで距離を取る必要があった。
ハミルトンはセーフティーカーライン間での最低タイムを考慮し、ピット出口付近の2本目のセーフティーカーラインを通過する前までに、先行するボッタスとの充分なギャップを作ることが不可欠だと知っていただろう。
そして、ここまで言及してきたハミルトンの予選Q3でのアウトラップは、予選Q1/Q2やボッタスのアウトラップペースと比較しても、飛び抜けて遅いというものではなかった。
メルセデスドライバーふたりのアウトラップを比較してみよう。ミディアムタイヤ(M)を履いてのアウトラップでは、タイヤへの熱入れの関係で明らかに速いペースで走っている。
Qualifying Run | Hamilton | Bottas |
Q1 Run 1 | 2m15s | 2m04s |
Q1 Run 2 | 2m49s | 2m38s |
Q2 Run 1 | 2m02m (M) | 1m55s (M) |
Q2 Run 2 | 2m33s | 1m52s (M) |
Q3 Run 1 | 2m32s | 2m27s |
Q3 Run 2 | 2m44s | 2m41s |
上記のデータから分かる通り、ハミルトンの予選Q3・2回目のアウトラップはQ1・2回目よりも5秒速いペースであり、ボッタスの予選Q3・2回目とは同程度のモノだった。
この議論で忘れてはならないのは、フェルスタッペンがタイムアウトのリスクを感じ、ペースの遅いハミルトンに不満を感じていたのならば、コース中央部分でハミルトンの前に出ることも可能だったということだ。暗黙のルールとして予選アタック前の最終コーナーでは先行するマシンを追い抜かないという“紳士協定”は確かに存在するが、予選中に先行するマシンを抜いてはならないというレギュレーションはない。
タイトル争いに加え、シルバーストーンでの接触も相まって、ハミルトンとフェルスタッペンのデッドヒートが注目を集めているのは当然のことだが、当事者のメルセデスとレッドブルの2チームは、今回の件では何の問題はないと明言している。
しかし、メルセデスのトト・ウルフ代表は、「ライバルの冷静な反応は、前戦から続く両チーム間の緊張がほぐれてきた表れではないか」との質問にこう答えた。
「もしこの件をネタにしたら、またPRの面で痛い目を見ると彼らは分かっていたのだろう」
タイトル争いが激化する今シーズンもハンガリーGPで折り返し。ハミルトンとフェルスタッペン、メルセデスとレッドブル・ホンダの駆け引きは、コース上、そしてコース外でも引き続き継続されそうだ。
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