MotoGPコラム:クアルタラロ、王座防衛は硬い? 躍進アプリリア&スズキ撤退発覚など激動2022年前半を振り返る
MotoGP2022年シーズンは前半の11レースが終了し現在ライダー達はサマーブレイクを満喫中。開幕戦から話題が尽きることのなかった2022年前半戦だが、8月の後半戦を前に最高峰クラスのハイライトを振り返ってみよう。
MotoGPの2022年シーズンは6月末に第11戦オランダGPを終え、現在は約1ヵ月間のサマーブレイク期間。激しい戦いが繰り広げられたシーズン前半戦だが、ここまでの戦いを振り返ってみよう。
■現王者クアルタラロ、防衛に向けた体勢は万端?
MotoGP2022年シーズンの前半戦を終え、ランキング首位のファビオ・クアルタラロ(ヤマハ)は11戦で172点のチャンピオンシップポイントを獲得した。181点だった昨年の第11戦終了時段階よりも、9点少ない。11レースを全部優勝した場合に獲得できるポイントは275なので、クアルタラロは100点少々を何らかの形で取りこぼしていたことになる。
ランキング首位にいる選手の獲得ポイントが低いことは、それだけシーズンが混戦模様であることを示唆しているといっていいだろう(ちなみに、2014年のマルク・マルケスは第11戦終了段階で10勝を挙げて263点を獲得し、ランキング2番手の選手に77点の大差を開いていた)。
Fabio Quartararo, Yamaha Factory Racing
Photo by: Dorna
実際に、今年のクアルタラロは第11戦までの優勝回数が3回(ポルトガル、カタルーニャ、ドイツ)で、ポールポジションは1回(インドネシア)しか獲得していない。
昨年の彼の実績を見てみると、優勝回数は3回で同じだが、第3戦から第7戦まで5連続ポールポジションを獲得し、以後も毎戦フロントロウから決勝レースをスタートしていた。11レースを終えて3勝を含む6表彰台(2021:優勝3回・3位3回、2022:優勝3回、2位3回)という成績は今年も昨年も同じだが、昨年のほうが総じて勢いと安定感で勝っていた印象が強いのは、おそらくチャンピオンを獲りに行く挑戦者の立場だったことが大きいだろう。
今年の彼は王座を守らなければならない立場で、ライバルたちとの攻守の位置関係が入れ替わっていることが、勢いの差、という印象を与えるのかもしれない。
この「勢い」について言うならば、昨シーズンの前半戦では、クアルタラロが誰よりも最も勢いに乗っていた。11戦中10戦をフロントロウからスタートし、決勝レースでもほとんどいつも表彰台圏内にいた。腕上がりが原因で順位を大きく落としたスペインGP(13位)や、レザースーツのジッパーが下がって順位を下げることになったカタルーニャGP(6位)などのアクシデントもあるにはあったが、ほぼ毎回そのときに可能な最大限の走りで結果を出し続けてきた。ディフェンディングチャンピオンのジョアン・ミル(スズキ)の調子がいまひとつ冴えなかっただけに、その対比もあってクアルタラロの活躍は大いにアピールした。
バニャイヤはタイトル争いから脱落濃厚
Photo by: Gold and Goose / Motorsport Images
参考までに、昨年の第11戦終了段階でランキング2番手にはフランチェスコ・バニャイア(ドゥカティ)がつけていた。だが、彼が本領を発揮して連戦連勝の猛烈な追い上げを開始するのは、多くの方々もご存じのとおり、第13戦アラゴンGP以降だ。そのバニャイアは、今シーズン開幕前にはクアルタラロ最大のライバルとして激しいタイトル争いを期待されたが、開幕戦カタールGPでの転倒を皮切りに、フランスGP、カタルニアGP、ドイツGPとノーポイントが続き、チャンピオン争いからは大きく後退することになった。
現在はクアルタラロから66ポイント差で、ランキング4番手につけている。サマーブレイク後の9戦で66ポイント差を埋めるのは、計算上では不可能なことではない。だが、それを現実化させるためには、クアルタラロが大きくポイントを取りこぼすレースが最低でも3~4戦あって、しかもそこでバニャイアが優勝もしくはそれに迫る結果を出し続けていなければならない。そう考えると、この66ポイント差を残り9戦でひっくり返すのは、可能性はゼロとは言わないまでも、現実的にはかなり難しいだろう。
■まさかここまでの速さとは……! 目を離せないアプリリア勢の躍進
そしてこのシーズン前半を振り返ったとき、王者のクアルタラロや予想外の苦戦を強いられたバニャイア以上に、最も強烈な印象を与えたのがアレイシ・エスパルガロ(アプリリア)であることに異論のある人は少ないだろう。
だが、もしも開幕前にチャンピオン予想人気投票のようなものをしていれば、この人が今のようなポジションにいることを予想できた人は果たしてどれくらいいただろうか。アルゼンチンGPでの劇的な初優勝から始まった快進撃もさることながら、前半戦最後のオランダGPでは、マーベリック・ビニャーレスもアプリリア移籍後初となる3位表彰台を獲得した。マシンの仕上がり、そして陣営全体のトータルパッケージという面で見ても、アプリリアはいま、パドック随一の〈総合力〉を発揮しているといってよさそうだ。
初優勝に湧くアプリリアとエスパルガロ(アルゼンチンGP)
Photo by: Aleix Espargaro
たしかに昨年も、アプリリアのパフォーマンスが大きく向上していたことは明らかだった。決勝中の故障によるリタイアが減り、レースタイムで見ても優勝者との差は以前よりかなり詰まってきた。とはいえ、ヤマハ、スズキ、ホンダ、ドゥカティという強豪メーカーがひしめく争いに割って入るには、まだ何かが足りないようだしもう少し時間もかかるかもしれない、というのが、おそらく大方の見方だったのではないか。
開幕戦のカタールGPでプラクティス段階から高パフォーマンスを見せ、表彰台圏内に0.9秒差と迫る4位でチェッカーフラッグを受けたときには、アレイシ・エスパルガロとアプリリアが表彰台を獲得する日はきっと遠くないはず、という手応えも感じさせた。しかし、その後の快進撃までは、このときはさすがに予想できなかった。
開幕戦カタールGPが行なわれたのは3月上旬。ロシアがウクライナに対する侵略を始めた直後の時期だ。世界はこの理不尽で悪辣な暴力行為に怒り、MotoGPでもセッション中には配信映像の画面右下隅に"United for Peace"(平和のために団結しよう)と記したロゴを掲げた。ちなみにこのロゴは、現在でも各クラスのセッション前後に表示されている。カタールの日曜夜に決勝レースがスタートする直前、グリッド上の選手たちが映し出される画面を背景に、ドルナのレースコメンテーターはこんな言葉を述べた。
「世界で多くの人々が生命を脅かされている現在、画面の隅には"United for Peace"というロゴが表示されています。レース統括団体は、ウクライナで非道な残虐行為を行っている国家に対して、断固とした措置を執ることを発表しました。わたしたちは平和の側に立ちます。わたしたちは平和のためにレースをします。そしてわたしたちは、平和のために団結します」
この宣言とともに始まったレースでは、ドゥカティ勢のエネア・バスティアニーニ(グレシーニ)が優勝し、アプリリアRS-GPを駆るアレイシ・エスパルガロは上記のとおり僅差の4位で終えた。
さらに言えば、この開幕戦で大きな注目を集めたのは、スズキの高パフォーマンスだった。
■スズキGSX-RRのパフォーマンスアップと青天の霹靂”撤退検討”と苦戦……
決勝レースでジョアン・ミルは6位、アレックス・リンスは7位に終わったが、メインストレートがやたらと長く動力性能がものをいうロサイルインターナショナルサーキットで、ミルは優勝したバスティアニーニを時速2.4km上回る357.6km/hを記録した。リンスも、ドゥカティ勢と互角以上の354.0km/hに到達した。
レースはもちろん、トップスピードだけで争うものではない。それは、トップスピードを大いに課題とするヤマハYZR-M1を操るクアルタラロが昨年も今年も戦いを優勢に進めていることからもよくわかる。とはいえ、エンジンパワーが課題と言われ続けたスズキGSX-RRのミルとリンスが、直線の長いカタールでこのようなトップスピード記録を残したことは、様々なことを示唆しているといえそうだ。選手の努力や現場スタッフの創意工夫はもちろんだが、日本側開発陣の地道な努力の積み重ねで、パフォーマンスアップに貢献する様々な要素技術を噛み合わせ、潰しこんでゆくことで、この性能を達成したのだろう。
Joan Mir, Team Suzuki MotoGP
Photo by: Gold and Goose / Motorsport Images
バイクの戦闘力向上には選手たちも士気を鼓舞されただろうし、実際にスズキ勢、特にリンスは連続表彰台を達成して上位を争い、意気軒昂にシーズン序盤を戦ってゆく。これだけの戦闘力とプレゼンスを発揮しているチームに対して、まさか浜松の本社経営陣が開幕からわずか2ヵ月後に、参戦継続契約期間中のレース活動撤退という酷薄で不条理な決定をしようとは、この段階ではまだ誰にも想像すらできなかった。そして、本社の意向が明らかになったこの5月上旬以降、スズキ陣営は序盤数戦とは対照的にめぼしい成績を残せなくなった。スズキにとって、後半戦は一戦一戦が貴重な一期一会となる。これから訪れる世界の各地で、そこに暮らす〈スズ菌〉たちを驚喜させる好成績とハイパフォーマンスを是非とも発揮してほしいものだ。
誰も予想しなかったといえば、マルク・マルケスの戦線離脱も、パドックをはじめ世界中のファンを大いに驚かせた。
開幕戦ではフロントロウ3列目からスタートして5位。その後も、たしかにまだ往時の万全な強さを発揮するには至っていないものの、5位や4位でレースを終える程度の能力は見せていた。実際に昨年は、復帰後に数回優勝も飾っている。しかし、このまま続けたとしてもおそらく限界が見えたのだろう。マルケスは、右腕の状態を完璧に取り戻すための4回目の手術を実施。カタルーニャGP以降は、欠場が続いている。彼がいつ復帰するのか、現状ではまだ明らかではない。ホンダ陣営にとっては、サマーブレイク明けもまだしばらく苦しい戦いが続くだろう。コンストラクターで最下位、チームチャンピオンシップでは12チーム中9位、という現在のポジションはにわかには信じがたいが、しかし、これが2022年シーズン前半戦を終えたホンダ陣営の現実だ。
後半戦は、8月第1週のイギリスGPからはじまる。シーズン後半の戦いは現状から戦況が大きく動くような、ポジティブな意味で皆が息を呑む予想外の展開を見せてほしいと思う。レースでは、思いもしないことがいつも次々と起こってきた。2022年後半戦もおそらく、皆を驚かせるようなことがきっといくつも発生するだろう。
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