コロナ禍で行なわれるMotoGP、第2戦ドーハで“歓声”消える。感染対策とイベント興行、その難しさを垣間見る|MotoGPコラム
新型コロナウイルスの感染が未だ収まらない状況が続く昨今だが、MotoGPやF1といった国際レースは厳重な感染防止策を講じた上で実施にこぎつけている。MotoGP開幕戦カタールGPでは観客入場の一部再開にも至ったが、連戦の第2戦ドーハGPでは一転して無観客開催に。一体現地では何が起こっていたのか? ロサイル・インターナショナル・サーキットで取材に当たっていたジャーナリストによるレポートをお届けしよう。
新型コロナウイルス感染症のワクチン接種は世界各国で着々と進む一方、まん延そのものは終息の気配をまだ見せない。そんななか、2021年のMotoGP開幕戦カタールGPと第2戦ドーハGPは、感染防止対策として厳格な衛生管理と検査態勢を確立したうえで、イベント期間中に同国内でのレース関係者と外部の接触を遮断する〈MotoGPバブル〉を形成し、2週連続の興行として行なわれた。
MotoGPクラスのカタール事前テストは3月5日にスタートしており、その後Moto2/Moto3クラスのテスト、そしてシーズン開幕2連戦、という流れでイベントが行なわれた。そのためこの“バブル”は3月上旬から第2戦が終了する4月4日まで、1ヵ月以上の長期にわたって維持されていたことになる。その期間中には、カタール政府とレースを運営するドルナ・スポーツの連携により、レース関係者の希望者に対してワクチン接種を実施する、という画期的な措置も執られた。
一方で、カタール国内での感染者数は、他国同様に深刻な状況が続いているようだ。
同国厚生省(Ministry of Public Health)のウェブサイトによると、原稿執筆時の4月5日17時現在、直近24時間の陽性者数は876人(死亡者2)、回復者数16万5952人(死亡者総数303)、となっている。人口約280万人の国家でこの数字は、けっして少ないとはいえないだろう。
ちなみに、現在までのワクチン接種者数は91万0851人、とのことだ。日本の人口を1億2500万人とすると、上記の各数値を約45倍したものが日本に喩えた場合のスケール感になる(※編注 同比率で換算すると陽性者数は約3万9千人/24時間。なお日本における実際の4月4日の新規陽性者数は2,462人)。そのような感染状況下の土地で安全にスポーツイベントを行なおうとするのだから、主催者側が入念な予防対策を取るのは当然だろう。
この開幕戦と第2戦で、パドック内部、つまりサーキットのコース上とその内側はバブルを形成して感染対策が適用されていたものの、その外側はカタール国の衛生基準と対策に応じた環境、ということになる。同国では、日本でいうCocoaのような接触確認アプリ(ETHERAZ)があり、人々はこれをスマートフォンにインストールすることが義務づけられている。同アプリのウェブサイトを見る限りでは対応機種の問題等も散見されるようだが、いずれにせよ、これを持たない状態での外出や、店舗・レストランへの出入りは厳禁とのことで、違反した場合には罰則も適用されるようだ。
ところで、MotoGP開幕戦のカタールGP決勝レースは、観客を収容する方式で実施された。つまり、観戦客たちはいずれも、この感染対策アプリを各自のスマートフォンに収めた状態でサーキットへ観戦に訪れたことになる。入場券は100リヤル(12歳以下無料/約3000円)で販売し、グランドスタンドのキャパシティの20パーセントに相当する2000人分を販売した。決勝当日のグランドスタンド裏では、飲食物の販売スタンドも2箇所ほどオープンしていたという(バブル内での取材のため、未確認)。
この2000人の観客が、レースが始まる時刻にはグリッドに近い座席に詰め寄せた。その様子はテレビのレース実況放送等にも映り込んでいたため、結果的に人々から大きな批判を集めることになった。
この開幕戦が行なわれた3月最終週は、同国での感染数急増に伴い、プールやスポーツジムの閉鎖など、屋外での行動制限等がさらに厳格化されている。にもかかわらず、サーキットへレースを観戦に来た人々はソーシャルディスタンスを維持しないどころか、むしろ一箇所に群れ集うような行動をとっている姿が衆目に晒されることになった。そのため、人々はツイッターやFacebookなどのSNSでも批判を共有したようだ。
結果的に、第2戦のドーハGP決勝レースは、当初予定していた観客収容を急遽中止し、無観客で行なうことがレースウィーク初日の金曜に発表された。中止の理由は、「感染者数の増加を受け、厚生省(Ministry of Public Health)の勧告にしたがって決定した」ということだ(ロサイルサーキットスポーツクラブの発表による)。また、2000人分の入場券はすでに完売だったが、払い戻し希望者は4月13日までにメールで連絡をするように、とも告知されている。
開幕戦のグランドスタンドにいた大勢の観客が、第2戦の決勝レースでいきなりかき消えてしまったことには、以上のような背景事情があった、というわけだ。これが、レース主催者や関連組織の迅速で臨機応変な対応であったことはまちがいなさそうだ。だが同時に、新型コロナウイルス感染症を抑制することの難しさを象徴するエピソードのひとつ、ともいえるだろう。
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