ライダー再生工場グレシーニへの移籍……マルケスとジョアン・ミルは似ているようで似ていない?
ジョアン・ミルのグレシーニへの移籍は、2024年に復活のきっかけを掴んだマルク・マルケスの移籍と類似性があるが、その一方でこのふたりの移籍には様々な異なる点が存在している。
Marc Marquez, Ducati Team
写真:: Gold and Goose Photography / Getty Images
マルク・マルケスとジョアン・ミル、このふたりが現在比較されるのは自然な流れだろう。2023年までホンダでチームメイトだった彼らだが、ミルも同じようにホンダからグレシーニへ移籍することを決めたのだから。
しかし、マルケスとミルの置かれた状況の背景や動機は、大きく異なっていると言わざるをえない。
マルケスはホンダと4年契約を結んでいたが、2023年限りでその契約を早期終了。1年型落ちのドゥカティのマシンに乗るためにグレシーニへと移った。当時、その決断は未知への挑戦と見なされたが、その理由は単なる技術的な要素を超えたものだった。むしろ哲学的な意味合いすらあった。
マルケスは、自身の長期にわたる不振がホンダの問題によるものなのか、それとも2013年のMotoGPデビュー以来、7シーズンで6度のタイトルを獲得した圧倒的な強さを自分が失ってしまったのかを確かめたかったのだ。
一方で、ミルの状況はまったく異なる。
2020年王者のミルは、自身の能力に疑問を抱いたことは一度もない。実際のところ、ホンダ側が今季末で満了する契約を更新する意思があるのかどうかを最後まで明確にしなかったため、結果として移籍を決断することになった。
ミル陣営が将来について話し合うためのミーティングを求めるたびに、ホンダは返答を先延ばしにした。そのためスペイン人ライダーは他チームとの交渉を進めることになった。
ミルは第6戦カタルニアGPで次のように語っている。
「ヘレス(第4戦スペインGP)の時点になっても、ホンダから僕の将来について何の話もなかった。そんな扱いを受ける理由は僕にはない。だから残りたいとは思わなくなったんだ」
Joan Mir, Honda HRC
Photo by: Gold and Goose Photography / Getty Images
失望をにじませながら語っていたミルに、手を差し伸べたのがグレシーニのオーナーであるナディア・パドヴァーニだった。
グレシーニは近年、”ライダー再生工場”とも言える評価を築いている。マルク・マルケスとアレックス・マルケス兄弟はその最新の成功例であり、それ以前にはエネア・バスティアニーニやファビオ・ディ・ジャンアントニオも同チームで評価を高めた。
グレシーニは競争力がありながらも、ファクトリーチームほどの重圧や注目を受けない環境を提供する。それこそが、長年再建途上にあるMotoGP最大メーカーのホンダでは得られなかったものだった。
Motorsport.comの取材によれば、ミルは5月上旬の第5戦フランスGPでグレシーニとの契約にサインしたという。ただし、2027年に向けた契約はすべてMotoGPの新コンコルド協定締結後まで正式発表が禁じられていたため、公表は先送りされた。
また、ミルは2020年にスズキでタイトルを獲得した際のレースエンジニア、フランキー・カルチェディと再びコンビを組む可能性が高い。興味深いことに、カルチェディは2024年にマルク・マルケスがドゥカティのバイクに適応する上で大きな役割を果たしたエンジニアでもあった。おそらくこれは両者の物語における唯一の共通点と言えるだろう。
ただし、ミルが直面する挑戦はマルケスとは本質的に異なっている。
まず、マルケスはグレシーニ移籍時に自分が乗りたいバイクを明確に理解していた。また、金銭面でも特殊な状況だった。2024年は実質的に無給で走り、収入は個人スポンサー契約のみだった。
ミルの移籍が正式発表される前、Motorsport.comは「マルケスと同じような犠牲を払う覚悟はあるか」と尋ねた。
Joan Mir, Honda HRC
Photo by: Gold and Goose Photography / Getty Images
「今なら無給でレースをすることも受け入れられる」
ミルはそう答えており、金銭面では両者のケースに共通点も見つけられる。しかしマシン面ではそうではない。
マルケスが2024年にグレシーニで駆ったのは、フランチェスコ・バニャイヤがホルヘ・マルティンとのタイトル争いを制して連覇を達成した2023年型ドゥカティGP23だった。
そのGP23は現代MotoGPにおける“基準”とまで評され、2023年シーズンの20戦で13勝、30回の表彰台、11回のポールポジションを獲得した、強さが明らかなマシンだった。
しかし、ミルがドゥカティに乗る2027年にはそうした確実性がない。2027年には新レギュレーションが導入され、全メーカーが完全新設計の850ccマシンを投入する。どのバイクが基準となるのか、現時点では誰にも分からない。
さらにマルケスには、すでにドゥカティで経験を積んでいた弟アレックスという比較対象がいた。一方のミルは、少なくとも当初はルーキーのダニ・オルガドから同じような助けを得ることは難しいだろう。
Dani Holgado
Photo by: Gold and Goose Photography / LAT Images / via Getty Images
もうひとつ重要なのがマシン開発だ。
2027年、ドゥカティ勢の6台は同じ基本仕様でシーズンをスタートする予定だが、継続的なアップデートを受けるのは4台と見られている。
まず当然ながらファクトリーチームのマルク・マルケスとペドロ・アコスタが優先される。そしてVR46のフェルミン・アルデゲルと、グレシーニのミルもファクトリーアップデートを受ける見込みだ。ただし、その構図はニッコロ・ブレガがアルデゲルのチームメイトとしてVR46入りするかどうかによって変化する可能性もある。
そして、マルケスが2028年末まで契約を延長し、さらにアコスタがドゥカティ入りすることで、マルケスとミルのキャリアプランの最大の違いが浮き彫りになる。
マルケスは2024年、翌年のファクトリーチーム昇格を勝ち取るという明確な目標を持ってグレシーニへ加入し、その目的を達成した。
一方のミルは、少なくとも2029年まではファクトリードゥカティに空席がないことがすでに明らかな状況の中、グレシーニへと移ることになる。
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