笹原右京、スーパーフォーミュラ2勝もHRCの2023年ラインアップに名前なし。ホンダからの評価は低かったのか? 長井部長に聞く

ホンダの2023年モータースポーツ参戦体制の中で名前が挙がらなかった笹原右京。他陣営への移籍が確実視されているが、ホンダは今季スーパーフォーミュラで2勝を挙げた笹原をどのように評価していたのか? HRCの企画管理部長である長井昌也に聞いた。

Ukyo Sasahara, TEAM MUGEN

 世間は年越しを迎えたばかりだが、トヨタとホンダは2022年中に2023年シーズンの参戦体制を発表するなど、国内ストーブリーグはやや落ち着きを見せている。ただそんな中で未だ大きな話題となっているのが、ホンダのドライバーラインアップに名前のなかった笹原右京の動向だ。

 笹原は2022年、ホンダ陣営からスーパーGT・GT500クラスとスーパーフォーミュラに参戦。特にスーパーフォーミュラではTEAM MUGENの15号車を駆ってポールポジション1回と優勝2回を記録。ランキング6位(ホンダ勢3番手)という堂々たる成績を残した。

 しかし、2023年のホンダ/HRC陣営の構想の中には、スーパーGT、スーパーフォーミュラ共に笹原の名前はなし。一方で先日行なわれたスーパーフォーミュラの合同/ルーキーテストではトヨタ陣営のトムスから参加した。トムスからの正式発表はまだないが、既報の通り笹原はスーパーGTでトムス37号車のドライバーとなることが確実視されており、スーパーフォーミュラもトムスから参戦する可能性が高いと見られている。

 国内レースにおいてはドライバー、特に日本人ドライバーのメーカー間移籍は極めて少ない。最近ではホンダの育成ドライバーだった松下信治が日産陣営のTEAM IMPULからスーパーGTに参戦し、その後ホンダ陣営に戻ったという事例があるがこれはレアケースであり、ホンダ→トヨタへという移籍例に限って言えば、2008年スーパーGTの伊藤大輔(ARTAからTeam LeMansへ移籍)まで遡ることとなる。

 そんな中で、笹原は移籍が濃厚……少なくとも2023年にホンダ陣営から国内トップカテゴリーを戦うメンバーからは外れたことになる。スーパーフォーミュラ2勝という実績を残した笹原の離脱とあって、巷では「ホンダの笹原に対する評価が不当に低いのではないか」という論調がある。このことについて、HRCで企画管理部の部長を務める長井昌也に聞いた。

「笹原選手については、ものすごく高く評価しています」と開口一番語る長井部長。その評価を基に2023年の参戦オファーをしていたとして、さらにこう続けた。

「その評価に見合った(ホンダ陣営からの参戦)継続のオファーを『ぜひ』という形でしました。ただ、彼も相当色んなことを考えていたようで、彼自身としてやりたいことがあるということでした。我々としても、彼が考え抜いたことであれば僕はそれを尊重するし、残念ではあるけれど、我が道を行って欲しいということを伝えました」

「私も2021年の4月に(ホンダの)モータースポーツ部長になったので、それ以前の笹原選手の活躍はダイレクトで見ていた訳ではありません。ただ2021年のスーパーフォーミュラでは牧野(任祐)選手の代役として表彰台まで上がり、今シーズンもトラブルなどアンラッキーなところはあれど、要所で良い走りをしていました。無限の人からも『笹原はなかなか実績は出ないけど良い走りしてるでしょ』と言われて、自分もその通りだと思っていました」

「そうしたら(第6戦)富士で優勝して、(第9戦)鈴鹿でも勝利しました。ホンダのドライバーで2勝は彼が一番乗りで、『これは本物だな』と私も思っていましたし、我々としても『彼とはこれからも』という気持ちがありました」

Ukyo Sasahara, TEAM MUGEN

Ukyo Sasahara, TEAM MUGEN

Photo by: Masahide Kamio

「ただ、思いがなかなか合わなかった。そこは残念だと思います。彼がずっとホンダで走っていくことをファンの皆さんも楽しみにしていたと思いますが、彼はさらなるステップを狙いたいというのを考えたのだろうし、我々もそこに彼の足枷になるようなことはするべきではないと思ったので、今回のような結論になりました」

 やはり気になるのは、ホンダ側が笹原にどのようなオファーをしたのかというところ。ファン目線に立って見れば、笹原が所属したTEAM MUGENのシートは王者野尻の残留とレッドブルジュニアプログラムの参画(リアム・ローソンの加入)によりオファーが難しかったとしても、ホンダ勢最多タイの2勝を挙げ、ホンダ勢3番手の選手権順位を獲得した笹原にはそこに準ずるシートがオファーされてしかるべき……そういった意見を持つ人もいるだろう。

 そこについて長井部長は、笹原に具体的にどんなオファーをしたのかを明かすこと、そして「TEAM MUGENに準ずるシート」がどこであるかについて言及するのは難しいとしつつも、次のように説明した。

「ここが2番手のチーム、ここが3番手のチームとはなかなか言えませんが、仮にチームの順番を付けたとして、ホンダが全てのドライバーの順番を決めて、それを単純にその(チームの)序列にそのまま当てはめていくのかと言われれば、そうではありません」

「チームとドライバーの相性、チームメイトになる相方との相性も、もちろんあります。そういう組み合わせも色々と考えて、その中でここが良いだろう、というのを決めます。単純に1番〜10番とランク付けして、その順にシートを決めていくという形ではありません」

 また長井部長曰く、提示したオファーに対する笹原との駆け引きなどはなかったという。「自分のやりたいことがあって、そこを見据えていたような印象でした」と長井部長は語る。

 今回の笹原の一件も含め、日本におけるドライバーのメーカー間移籍はどことなくスキャンダラスな印象をもって迎えられる感がある。ただ関係者の中にも、メーカーを跨いだ移籍の動きはあってしかるべきだと考える者も多い。実際、スーパーフォーミュラのテストで笹原を起用したトムスの山田淳も次のように語っていた。

「今の36号車(au TOM'S)の監督の伊藤大輔もホンダからきていますし、(メーカー間移籍は)我々としてはあまり違和感はありませんが、周りはざわざわしますよね」

「モータースポーツの世界はそれが普通にあっても良いと思います。日本はメーカーとメーカーの壁が高いですが、僕はそういうのは好きではありませんし、もっとフリーで良いと思います」

 こういった思いは長井部長も持っている。これまでの歴史的背景を考えるとメーカー間の壁を完全に撤廃することは簡単ではないが、“お抱え”ドライバーを囲みすぎることはしたくないと述べた。

Ukyo Sasahara, #16 Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GT

Ukyo Sasahara, #16 Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GT

Photo by: Masahide Kamio

「私個人としても、HRCとしても、ドライバーさんをメーカーが強く囲い過ぎちゃうよりも、メーカー間の移籍というのがあってしかるべきだと思います」

「日本はどうしてもホンダ系ドライバー、トヨタ系ドライバー、日産系ドライバーといった考え方になりがちです。これは日本におけるレースの成り立ちや置かれている状況もあります。ただドライバーとしては『日本のドライバーなら生涯ひとつのメーカーに尽くすべき』と考える必要はないと思います。そういうことを尊重していかないと、レースが面白くなくなってしまいます」

 このように、ドライバーとメーカーの思惑が一致しなかった場合の移籍は、ごく自然な流れであるという考え方もあるだろう。長井部長も、今後笹原がキャリアを積んでいく中で再びホンダ陣営のドライバーとして迎え入れる可能性を一切排除していない。

「一度離れたからといって『二度とうちの敷居をまたぐな』なんてことは言わないから、まずは思い切りやってごらんなさい、というのはどのドライバーにも言っています。去年松下選手を呼び戻したのも、同じ思いからです」

「一旦離れて戻ることは否定しませんし、そのドライバーが強くなって戻ってきて、また『契約してください』と言うことがあるかもしれません。『二度とうちの敷居をまたぐな』と言うことはホンダとしては言いません、と伝えてあります」

 
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