分析

スーパーフォーミュラ

SF優勝&F1テストで再び脚光……福住仁嶺はなぜ“天才”と呼ばれるのか。中堅チームを上位に押し上げるスムーズで引き出しの多いドライビング

今季のスーパーフォーミュラでの活躍で、福住仁嶺のドライビングセンスに改めてスポットライトが当たっている。彼が優れているのはどういった点なのか?

戎井健一郎

公開日時: 2026/08/19 10:47

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Nirei Fukuzumi, NTT docomo business ROOKIE

Nirei Fukuzumi, NTT docomo business ROOKIE

写真:: Masahide Kamio

 2026年は、福住仁嶺にとって飛躍の年となった。スーパーフォーミュラでは自身5年ぶり、ROOKIE Racingにとって初の優勝を記録。7月にはハースの旧車テストに参加して念願のF1マシンに乗り込んだ。諦めず努力を続ければいつかチャンスはやってくる……それを体現した好例とも言われた。

 パドックにいる関係者は口々に、福住のことを“天才”だと評する。国内レースを取材する立場としても、福住ほど世間的に過小評価されているドライバーはいないのではないかと感じることが多々あった。

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 スーパーフォーミュラではここ数シーズン、ThreeBond Racing、KCMGと、中団以降のチームで過ごしてきたため、選手権の主役になるような活躍はできずにいた。しかし結成から間もないThreeBondのマシンで何度も入賞を記録したこと、そしてKCMGに初のポールポジションをもたらし複数回表彰台に登ったことは、彼の類稀なる才能を如実に示していた。

「彼と一緒に仕事をする前、彼を知る人から『仁嶺は天才だよ』ということを耳にしていました。その言葉通りの天性の速さを感じました」

福住と土居監督

福住と土居監督

写真: Masahide Kamio

 そう語るのは、KCMGの土居隆二監督だ。

「コメントや感じているものは敏感でありながらも、(マシンが)ダメならダメなりにその最大限で走ってくれるので、セットアップを進める中でも取捨選択がスムーズに行きます。例え本人はその方向性じゃないと思っていたとしても、エンジニアが求めているセットアップで嫌な顔せず乗りこなしてくれます」

「彼がヨーロッパに乗っていた時に聞いていた話から考えても、F1の表彰台に上がれる可能性のあるドライバーだと純粋に思っています」

福住のドライビングの引き出しに「甘えていた」

 福住がマシンの最大限……もしくはそれ以上のパフォーマンスを発揮できるのはドライビングの「引き出し」にあると語るのは、かつてのスーパーフォーミュラ(フォーミュラ・ニッポン)チャンピオンで、KCMGではオンボード映像なども駆使しながら助言を行なっている松田次生アンバサダー。彼は福住の速さにチームが助けられていた一方で、その才能に甘えてしまっていた部分もあったと述べた。

「クルマがある程度決まった時には、コンディションに合わせてブレーキの踏み方やハンドルの切り方をしっかりアジャストできます。予選Q1突破がギリギリじゃないかという時でも、ギリギリのところで毎回Q1を通ってくれます」

「クルマのポテンシャルを100%……僕からすると120%出してくれる印象です。去年は正直クルマが決まっていない状態でしたが、それでもQ1を通ってくるというのは、並大抵のドライバーじゃないなと感じました」

写真: Masahide Kamio

「去年のウチのクルマはレースでリヤタイヤをあまり長く持たせることができなかったのですが、その中でしっかりポイント圏内で粘ってくれました。色んな状況に対してドライビングの引き出しで対処してくれるという点が大きかったので、去年は彼がいてくれたことにチームがだいぶ甘えていたのかなと正直感じています。それが今年出遅れてしまった部分でもあるのかなと」

「去年はドライバーに助けられたという面もあるし、逆に言えばクルマが進化しなかった。そこは僕たちも反省しないといけない点だと思います」

「ルーキーレーシングに行くとなった時も、クルマが良いと分かっていたので、絶対どこかで勝つだろうなと思っていました。鈴鹿で他よりもウイング角度を減らした状態で勝った姿を見た時に、やっぱりすごいなと。土居さんが言うようにF1で通用するドライバーだと改めて感じましたね」

 そんなドライビングの引き出しについて福住本人に尋ねると、最初は「何も考えてないですよ(笑)」と照れくさそうに言うが、実際には人一倍考えてドライビングをしているという。常に考えるというその習慣は、カート時代に身に付いたものだ。

「カートの時は、親に何かを教えてもらうということもなく、ただ周回して、自分なりに色んなことを試して走って、自分なりに『これが正解かな?』と確かめながら探り探り走っていました。誰かに教わったことは1度もありません」

「綺麗に乗る」力がROOKIEのマシンを手懐けている?

 今季はROOKIE Racingに移籍し、開幕ラウンドでいきなりチームの過去最高成績を更新する3位を記録。第5戦鈴鹿ではポールポジションと優勝を飾った。先日の第8戦SUGOでもセーフティカー出動も味方につけて2勝目を記録した福住は、ランキング3番手につけている。

 前任のドライバーである大嶋和也がエンジニア、メカニックと共に作り上げてきたROOKIE Racingのマシンは、ダウンフォースを効果的に出せる1台に仕上がっている反面、ダウンフォースのかからない低速コーナーでのパフォーマンスを課題としており、それはスーパーフォーミュラを引退した大嶋に代わって福住が乗る今季も変わらない。ポールトゥウインを飾った鈴鹿は低速コーナーが少なく、福住は空力効率の良さを活かしてリヤウイングを寝かせる異例のセットアップで速さを見せたが、富士スピードウェイの最終セクターやスポーツランドSUGOの前半セクターでは苦しさがあった。

写真: Masahide Kamio

 その中でも大嶋は、そんなマシンを福住なら乗りこなせると期待していたという。彼はトヨタイムズスポーツで公開された動画の中で、こう語っていた。

「僕らのSFのクルマはエアロ(ダウンフォース)がしっかり使えていて、かなりパフォーマンスはあるんですが、低速コーナーでどうしてもリヤ(グリップ)がなかったりと、ちょっと乗りにくいんです」

「僕はそういうのがすごく嫌で、必死にそこ(リヤのグリップ)を取りに行くと他のところもダメになったりしていました。ただ仁嶺はスーパーGTでも、そこがなくても乗ってくるので。このクルマも仁嶺は乗れるんじゃないかなと」

 これについても福住本人は「自分の中ではそういう風には思ってないです(笑)」と言うが、「自分は基本ハンドルをいっぱい切るタイプでもないし、(旋回の)きっかけの時も一気にズバッと切るタイプでもなく、荷重移動としては多すぎない方かなとは思うので、オーバーステアでも乗れたりする時もあるのかな」と自己分析した。

 ただその一方で、F1王者のマックス・フェルスタッペンのように、リヤが不安定だがフロントの旋回性能が高いオーバーステアのマシンを好む……というわけではないという。

「理想を言うと、コーナーに進入する瞬間にリヤがないとブレーキングで飛び込めないので、その影響を最小限に抑えることはできても、パフォーマンスを上げることはできていないと思います。だからオーバーがすごく好きかと言われたらそうでもないですね」

「オーバーを乗りこなせると言ってくださる方もいますが、進入の時はリヤが欲しいし、ミッド(コーナー中間)では曲がって欲しいし……みんな思うことは同じだと思いますよ(笑)」

写真: Masahide Kamio

 福住自身も、自分はステアリングを大胆に切らないスタイルだと自覚しているが、かつて彼のスーパーフォーミュラ1年目に担当エンジニアだった一瀬俊浩エンジニアも、限界を超えずに「綺麗に乗る」能力がずば抜けていると評し、これはダウンフォースの大きなマシンを速く走らせるにおいては重要なスキルだと語る。

「SFのトップドライバーはみんな比較的オーバーシュート(限界を超えること)をしないのですが、特に仁嶺はカウンターを当てる量がほとんどなく、予選アタックでも普通に走っているように見えます」

 一瀬エンジニアは、福住がダンディライアン時代の2021年にポールポジションを獲得した際のオンボード映像を基に解説した。

「多くのドライバーはちょっと滑って修正しながら……という限界の探り方をしますが、彼はそうではない。修正舵が全くないですよ。S字とかは細かい動きをしますが……その(滑り出す)手前で走って速いんですよ。信じられないです」

「もちろんこの時はポールを獲得しているので、クルマが良かったのもあると思いますが、これほど綺麗に乗るドライバーという点では、今まで見た中で仁嶺が一番じゃないですかね」

「こういう走りは下のカテゴリーではあまり強みにならないですが、スーパーフォーミュラやF1、(スーパーGTの)GT500もそうですが、速いクルマになればなるほど強みになります。オーバーシュートすることによるエアロの抜けは絶対的なロスになりますから」

 一瀬エンジニアが担当していた2018年は、福住がFIA F2に参戦しながら、スーパーフォーミュラにもダブルエントリーしていた年。前年のGP3でランキング3位に入っていたこともあり、次期日本人F1ドライバーとして期待をされていたが、この年はF2でもSFでも好結果を残すことはできず、翌年からは国内カテゴリーに専念することになった。

 F2は所属していたアーデンのチーム力も低く、車両トラブルが頻発したことでまともに走れない「あり得ない」シーズンだったと福住も振り返っているが、一瀬エンジニアとしてもスーパーフォーミュラで結果を出せなかったことに申し訳なさを感じる部分もあったという。だからこそ、福住がF1ドライブにたどり着いたことは、一瀬エンジニアにとっても胸のつかえが取れるような出来事になったのかもしれない。

「あの時は彼(福住)がホンダの育成ドライバーとしてF1に行くことを考えていた時代でしたが、僕と一緒にやったSFでは結果が出せず、翌年はF2のシートも失ってしまい、F1という夢はそこで一度遠のいてしまったと思っていました」

「だから申し訳なかったなという思いもあったのですが、ようやくF1に辿り着いてくれたので。たとえTPCであっても、乗ってくれたことに嬉しさはありますね」

写真: Motorsport.com Japan

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