【追悼】NISMO鈴木豊監督を悼む
今月、56歳の若さで逝去したNISMOチームの監督、鈴木豊氏を偲ぶ。
写真:: Masahide Kamio
ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル(ニスモ)のレース部部長で、スーパーGTシリーズではNISMOチームの監督、そしてGT500車両開発チーフエンジニアを兼任していた鈴木豊氏が、1年以上にわたる闘病の末、12月19日に56歳という若さで亡くなった。
彼と初めて名刺交換をしたのは、2002年7月の日産自動車「フェアレディZ」の発表会場だった。市販車とは別にアメリカのレース用車両としてNISSAN/NISMOワークスカラーのZ33が展示され、その車両の開発担当者だった。そのZは国内用に改良され翌年の全日本GT選手権(JGTC)/GT300クラスにデビュー。初年度にチャンピオンを獲得し、2008年と2010年にもタイトルを獲得する活躍を見せ、星野一樹、安田裕信、柳田真孝らがZを足掛かりにGT500クラスへステップアップした。
その後もメインとなる開発責任者ではないものの、GT500クラスに参戦するR34GT-R、Z34フェアレディZ、R35GT-Rの設計・開発も担った。サーキットやテスト現場では見かけてあいさつはする程度だったが、それが2009年にNISMOチームの監督に就任すると毎戦のように話を聞くことになった。
彼は新任監督として、レースマネージメントに関してはトラックエンジニアに任せていた。そして開発スタッフと実戦部隊の監督を兼任することによって、設計・開発、ニスモとユーザーチームのパイプ役になりたいと常々言っていた。毎戦レース後にコメントを聞きそれを文字にしてチェックしてもらったが、時には数行まとめてカットされコメント作りの難しさを教わることもあった。また年に何回か、数戦まとめてレース後の振り返りや裏話を聞くために大森のニスモへ出向いた。話は時おりユーモアを入れながらも言葉はていねいで、基本的に誠実で真面目な人だった。
実際監督とは言っても、他のチームのドライバー経験のあるベテラン監督のようにどっしりと座って指示をするわけではなく、サラリーマン監督として車両がピットインすればピットの位置を知らせる「→」のボードをプラットフォームから掲げたり、決勝前に車両がグリッドに着くと、車両の周りにパーテーションのポールをテキパキと並べたりチームのために働く人だった。
またファンを大事にする人で、優勝したレースではスタンドで待っているファンのためにプラットフォームまでドライバーと一緒に向かい、手を振ったり頭を下げたりするシーンを何度も見かけた。ファンにサインを求められると、豊の”ゆ”をもじって、温泉マークを書く茶目っ気もあった。
そんな彼の異変に気がついたのは、今年3月の岡山合同テスト。痩せ細った姿に初めは本人だと気がつかなかった。昨年の最終戦の頃にリンパ腫だということが分かり、抗がん剤での治療が始まっていたようだ。開幕戦岡山と第2戦富士ではあいさつもでき明るく振る舞っていたが、富士で会ったのが最後になった。富士以降もリモートでチームの会議に出たりしていることは聞いていたし早い回復を願っていたが、夏場から病状は悪化していたようで、シーズン終了後に還らぬ人となってしまった。
SNSではNISMOチームの松田次生やロニー・クインタレッリはもちろんのこと、かつて共に戦ったブノワ・トレルイエ、さらにはライバル陣営からも山本尚貴らが悲しみをつづった。
日産自動車/ニスモの柿元邦彦アンバサダーは、彼のニスモ入社後から30年ほどを共に過ごして来た。R390 GT1のル・マン参戦時は監督とトラックエンジニア、そしてスーパーGTでは日産系チーム総監督とNISMOチームの監督という立場。「年齢は20歳離れていたのですが、かわいくはないけれど信頼のおける部下でした。頑固なところがあって意見がぶつかることもありました。常々彼には『監督としてふさわしくあれ』とは言っていましたが、こんなに早く残念です」と早い死を惜しむ。
彼は東北(山形)出身だったので日本酒好きなのかと思っていたが、大の焼酎好きだと聞き、では近いうちに大森あたりでレースの話抜きで飲みましょうと話していたが、その約束が果たせなかったのは残念だし、まだ信じられない。
2014年、2015年とNISMOチーム監督としてGTシリーズを連覇し、日産勢の活躍に大きな貢献。その後タイトル奪回は叶わなかったが、来年から新たなZでリベンジを果たしたかったはずだ。GT500クラスのR35 GT-Rと共に長く戦い栄光をつかみ、R35 GT-Rの引退と共に消えた才能。GT-R最後のレースはどこでリモート観戦していたのだろうか? 彼の意志は同僚や後輩に確実に引き継がれるはずだ。R.I.P.
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