分析

F1

メルセデスとマクラーレンの違いはこんなところにも! 走り方にも大きな影響を及ぼす新時代の”ギヤ比”

マクラーレンとメルセデスは同じPUを使いながら、ギヤ比の選択が異なっている。これはそれぞれのチームにとって、何を意味するのだろうか。

Gianluca D'Alessandro

Gianluca D'Alessandro

公開日時: 2026/06/03 3:15

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Lando Norris, McLaren, George Russell, Mercedes

Lando Norris, McLaren, George Russell, Mercedes

写真:: Andy Hone/ LAT Images via Getty Images

 時代は急速に変化する。競争の激しいF1ではなおさらだ。

 近年、ギヤボックスはF1において決定的な性能要因ではなくなりつつあると見なされるようになり、コスト削減のために全チーム共通の標準部品とするべきだという議論が盛んに行なわれてきた。しかし、2026年のレギュレーション変更により、ギヤボックスは再び車両設計の中心的な要素となったのだ。

 最も分かりやすい例は、メルセデスとマクラーレンの対比である。両チームは同じパワーユニット(PU)を共有しているにもかかわらず、PUを全く異なる方法で活用しており、低速域だけでなくストレートでも差が生じている。

 PUはメルセデスから供給を受けているマクラーレンだが、ギヤボックスを自社で設計・製造している。ケースだけでなく、内部部品もすべて自社で製造しているのだ。また、ギヤ比についても独自の選択をしており、MCL40はより短いギヤ比を採用している。

「ギヤ比には確かにメリットとデメリットがあると思う」

 マクラーレンのチーム代表アンドレア・ステラはカナダGPの週末にそう語った。

「メルセデスと比べると、我々はギヤ比が短い方だ。これは加速性能において有利に働く可能性がある。例えばスタート時に有利に働くかもしれない」

 この違いは、シーズン開幕戦ですでに明らかになっていたが、5戦を終えた時点で状況はより明確になった。マクラーレンは同じPUを使用しているにもかかわらず、メルセデスよりも優れたスタートを見せることが多い。これは、メルセデスの苦戦が単一の要因によるものではないことを示唆している。

 ターボチャージャーの径を大きくするか小さくするかでメリットとデメリットが生じるのと同じように、ギヤボックスのギヤ比にも長所と短所が存在する。現在のレギュレーションの特性を踏まえ、メルセデスやレッドブルなどのチームは比較的ローギヤ(低速側のギヤ)をロングレシオに設定している。これにより低速コーナーでもエンジン回転数を高く維持でき、バッテリー回生を最大化できるからだ。

 ギヤ比が異なればエンジン回転数も変わり、エンジンへの負荷も変化する。そのため、慎重な選択が求められる。

 一方で、ショートレシオのギヤは駆動輪に伝わるトルクを増幅し、加速性能を向上させる。これは特にスタート直後の加速局面で有効だ。まだMGU-Kが駆動力を供給しておらず、内燃エンジンのみで加速している段階でも大きなメリットとなる。もちろん、そのためにはエンジニアが路面グリップを正しく見積もり、ホイールスピンを抑えなければならない。

 しかし、その違いはレーススタートに限ったことではない。ラップ全体を通しての加速にも影響する。最初の5レースのデータからは、ステラも認めているように、ある傾向が繰り返し現れている。それは、ストレートが短いほど、マクラーレンの競争力が高まるということだ。

マイアミGP予選におけるアントネッリとノリスの比較(上が速度、下が使用ギヤ)

マイアミGP予選におけるアントネッリとノリスの比較(上が速度、下が使用ギヤ)

写真: Gianluca D'Alessandro

 確かに、シーズン序盤においてマクラーレンはメルセデス製PUの性能を最大限に引き出す方法を模索している段階であり、開発元であるメルセデスが持つ知識の一部が不足していたのは当然のことだった。しかし、この傾向は序盤戦だけでなく、エネルギー回生制限の違いによって比較しやすくなった最近のレースでも確認されている。

 マイアミとモントリオールは正反対の状況だった。マイアミでは、FIAは予選で最大8MJのエネルギー回生を許可した。これはレギュレーションで認められている最大値だ。一方、カナダでは、1周あたりわずか6MJに制限され、より慎重かつ選択的なエネルギー管理が求められた。マイアミでは、マクラーレンは最初のストレートではライバルに食らいついていたが、ストレートが長くなるにつれて苦戦し始めた。

 興味深いことに、この傾向は土曜日の予選でターン11に到達するまでは表面化しなかった。これにはある理由があった。以前のセッションでターン16からの脱出時に問題が発生したため、マクラーレンはドライバーに対し、ターン11へのブレーキング前にスーパークリッピングを解除するよう指示した。これにより問題の再発は防げたが、同時にバッテリー管理戦略も変更された。

 その結果、ロングストレートの終点にある最後のブレーキングゾーンに入る前、マクラーレンは8速ギヤのギヤ比が低いことと、ラップの他の部分で既にかなりの量の電気エネルギーを消費していたことの両方の影響を受け、メルセデスに比べて最高速度が10km/h以上も劣る結果となった。 

カナダGP予選におけるラッセルとノリスの比較

カナダGP予選におけるラッセルとノリスの比較

写真: Gianluca D'Alessandro

 エネルギー回生という点では全く異なるサーキットであるにもかかわらず、カナダでも同様の傾向が見られた。セクター2の最初の2つの短いストレートでは、最高速度が約290km/hに達し、マクラーレンはメルセデスW17と同等のパフォーマンスを発揮した。しかし、最終シケインにつながる長いストレートでは、メルセデスが再び優位に立った。

 使用しているギヤを見ると、その状況はさらに明確になる。マクラーレンはラップのいくつかの区間でひとつ高いギヤを使用する傾向があり、他のチームが7速のまま走行するところを8速に切り替えている。スーパー・クリッピングが特に重要なサーキットでは、ストレートエンドでより高い速度に達することで、ラップタイムだけでなくエネルギー回生の機会という二重のメリットが得られる。

 カナダGP金曜日のスプリント予選では、ロングストレートでの差が特に大きく、時には速度差10km/hを超えることもあった。これが、マクラーレンが土曜日に向けてエネルギーマネジメント戦略を変更し、タイム差を縮小しようとした理由の一つである。

「ある速度域では、そのギヤ比によってストレートで有利になるかもしれない。しかし、不利な面もある」とステラは付け加えた。

「例えばターン10からターン13へ向かうような長いストレートでは、もう少しロングな8速ギヤを使いたい場合もある。つまり、どのギヤ比が最適かというのは単純な話ではない」

 必ずしも一つの選択肢が普遍的に優れているわけではない。どこでラップタイムを稼ぎたいかによって、それぞれのアプローチに長所と短所がある。

 非常に長いストレートがあり、利用できるエネルギーが限られているサーキットでは、メルセデスに余力があるように見える。反対に、タイトなコーナーが多く加速区間が頻繁に現れるコースでは、よりショートなギヤ比による力強い加速を持つマクラーレンが恩恵を受ける。

 ここまでのメルセデスの強みは、高いダウンフォースレベルだけではない。ダウンフォースの分野ではマクラーレンが急速に追いついているが、メルセデスは性格の大きく異なるサーキットでも競争力を維持できるバランスを実現している。

 もちろん苦戦するサーキットも存在するだろう。しかし、PUそのものの性能だけでなく、メルセデスのラップタイムの稼ぎ方は非常に幅広いサーキット特性に適しているように見える。

 ギヤ比はシーズン開始時にホモロゲーションされ、通常は年間を通じて固定される。ただし今シーズンは特例として、一度だけ変更が認められている。

 それでもステラは、その変更は必要ないと考えている。現在のマクラーレンのセットアップは欠点以上にアドバンテージをもたらしており、MCL40全体の設計哲学とも一致しているからだ。

「現時点では我々の状況に満足している。レギュレーション上は可能だとしても、ギヤ比の見直しは検討していない。最も長いストレート以外の状況で得られる利点を考えると、総合的には非常にポジティブな位置にいると考えている」とステラは締めくくった。

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