使用禁止になった”画期的”デバイス6:圧倒的性能も”危険?” ブラバムのファンカー
1978年のスウェーデンGPでF1デビューを果たしたブラバムBT46B。”ファンカー”として有名なこのマシンほど、F1の歴史上登場してすぐに結果を残し、そしてすぐに使用が禁止された例はない。
ジョルジョ・ピオラ【F1メカ解説】
Analysis provided by Giorgio Piola
1978年シーズンは、ロータス79が席巻した年だった。このマシンはグラウンドエフェクト効果を生み出し、圧倒的なパフォーマンスでマリオ・アンドレッティをワールドチャンピオンに導いた。
しかしこの年、F1に関わるすべての人の心を捉えたのは、別のマシンだった。ブラバムBT46B……ファンカーとして知られている1台である。
ロータスは1977年シーズンに、グラウンドエフェクト効果を手にした初めてのF1マシン”ロータス78”を登場させた。このマシンはパフォーマンスを発揮し、5勝を記録したが、フェラーリには及ばずコンストラクターズランキング2位となった。
タイトルを獲れなかったこともあり、ライバルチームはグラウンドエフェクト効果を重要視していなかった。そのためロータスが79を登場させてパフォーマンスを向上させると、他は遅れを取ることになった。それを取り戻すのは簡単ではなかった。
Brabham BT46, the brainchild of Gordon Murray, Brabham Designer
Photo by: David Phipps
一方ブラバムは1978年シーズンに向け、ニューマシンBT46を登場させる予定だった。このマシンは軽量化を目指すために、従来の水とオイルを使ったラジエターではなく、革新的な熱交換器を搭載していた。
ただこのマシンをテストした後、ブラバムとチーフデザイナーのゴードン・マーレイは、傾斜したサイドポンツーンのボディワークでは十分な冷却を行なうことができず、再設計する必要があることを認めなければならなかった。
Brabham BT 46
Photo by: Giorgio Piola
BT46は、南アフリカでの第3戦で改めて発表された。このマシンは、フロントウイングにラジエターをマウントするレイアウト。これは、空力性能の改善と軽量化を目指すため、チームが捨てようとしていた設計だった。エンジンの上にはオイルクーラーが置かれ、空力性能に影響を及ぼした。
マーレイは、ロータス78の設計コンセプトを、じっくりと考え続けた。彼とマクラーレンは、前年車のV字型エアダムを調整し、局所的な低圧領域を生み出した。しかし彼はすぐに、ロータス78のサイドポッドのアンダーウイングに、スカートが取り付けられているのを発見。それが複合的な効果を生み出していることに気付いた。
Lotus 79 1978 detailed overview
Photo by: Giorgio Piola
ただブラバムがロータスのアイデアを簡単に真似ることはできなかった。チームはアルファロメオの水平対向12気筒を使っていたため、サイドポッド下をウイング状にし、グラウンドエフェクト効果を期待するのは難しかったのだ。
そのためマーレイは、考え方を大きく変え、Bスペックのブラバムでさらなるダウンフォースを生み出そうとした。その選択肢は、物議を醸すこととなった。
Chaparral 2J
Photo by: Mike Stucker
BT46Bには、サイドポッド下の空気を強制的に後部に向けて排出するための巨大なファンが取り付けられていた。ファンカーと呼ばれたのは、ここに理由がある。
元祖ファンカーは、1970年にCam-Amで使われたシャパラル2Jである。BT46Bのアイデアが、このシャパラル2Jから直接着想されたモノかどうかは分からないが、いずれもスカートとファンを使って、マシンの下に負圧を生み出していたのは同じだった。
シャパラルは、ファンを動かすための補助エンジンが使われていたが、BT46Bはそのファンもアルファロメオの12気筒エンジンで動かす必要があるだけでなく、それを冷却していることも確実にしなければならなかった。
レギュレーションの条文を検討し、様々な関係者と競技した結果、ファンの主な目的は冷却であり、負圧を生み出すのは二次的なモノ……となれば、合法になる可能性は高いとされた。
チームはそれが確かであることを確認し、ファンの能力の50%以上がラジエターの冷却に使われていなければならないことが分かった。それでも、ファンがマシンの下に負圧を生み出すには十分だった。
ロータス78がスカートの部分に問題を抱えていたのと同じように、ブラバムも床下を密閉する際に、同様の課題に直面した。ただその一方で、BT46Bは、静止している状況でも、ダウンフォースを生み出した。
そのためドライバーは、ドライビングスタイルを変更する必要があった。通常コーナーの入り口では、スロットルをオフにする必要がある。しかし、このBT46Bではスロットルをさらに踏み込む必要があった。
この操作と、スカートに故障する可能性があったため、ノーズに取り付けられたピトー管が繋げられていた。またコクピットには高度計が装備されていた。
コーナーに入る際、ドライバーはこの高度計を注視。ゲージが緑の場合には加速し、赤の場合にはスカートが故障しているために減速しなければならなかった。
チームは、ロータスの強さが支配的であることを確認したため、開発は急ピッチで進められた。そしてついに、スウェーデンGPでBT46Bが発表。他チームには驚きを持って迎えられた。
ライバルチームはこのBT46Bに激怒。イベントからの撤退をチラつかせ、即座にロビー活動を展開した。しかしマーレイは、事前にFISAとの話し合いを行なっていたため、参戦は認められると確信していた。
ブラバムのチームオーナーであり、FOCA(F1コンストラクターズ協会)の幹部でもあったバーニー・エクレストンは、バランスをとるために様々な手法を採った。当時どの車両よりも圧倒的に速かったロータス79に比べ、BT46Bがさらに驚異的な速さを発揮することを心配したため、予選では燃料を満タンにし、最も硬いタイヤを履かせた。ドライバーのニキ・ラウダとジョン・ワトソンには、ペースをしっかりとコントロールするよう指示した。
それでもマシンの速さは圧倒的だったが、技術面でそのデバイスを禁止することは、他チームにはできなかった。そのためライバルチームのドライバーたちは、安全面での懸念を示し始めた。マリオ・アンドレッティはその急先鋒で、彼はBT46Bは後方に向けて土や石を跳ね飛ばしていたと主張したのだ。
最も大きな発言権を持っていたのは、エクレストンだった。レースではラウダが勝利……エクレストンはその結果を受け、FOCAをなだめる必要があった。当初は3レースに限りBT46Bを使えるように交渉するつもりだったエクレストンだが、その交渉に入る前に、スウェーデンGP限りでBT46Bを使わないことに同意するしかなかった。
BT46Bが使われ続けていたら、どんな成績を残したのか……ブラバムBT46B”ファンカー”は、そういう意味でもF1界における神話のひとつだと言えるだろう。
ただ勝率100%という記録を持っているのは、このブラバムBT46B、ただ1台のみである。
Be part of Motorsport community
Join the conversation記事をシェアもしくは保存
Top Comments
Subscribe and access Motorsport.com with your ad-blocker.
フォーミュラ 1 から MotoGP まで、私たちはパドックから直接報告します。あなたと同じように私たちのスポーツが大好きだからです。 専門的なジャーナリズムを提供し続けるために、当社のウェブサイトでは広告を使用しています。 それでも、広告なしのウェブサイトをお楽しみいただき、引き続き広告ブロッカーをご利用いただける機会を提供したいと考えています。