F1分析|日本GPアントネッリの勝利を決定づけた、SC出動前のペースアップに注目
アンドレア・キミ・アントネッリがF1日本GPで完勝。その理由はセーフティカーよりも、彼のペース推移にあったように見える。
Andrea Kimi Antonelli, Mercedes
写真:: Lars Baron / LAT Images via Getty Images
メルセデスのアンドレア・キミ・アントネッリがF1日本GPで優勝。前戦中国GPに続く2連勝を達成した。
今回のグランプリでは、ポジションを争っていたライバルであり、チームメイトでもあるジョージ・ラッセルがピットストップした直後にセーフティカー(SC)が出動したことで、アントネッリの元に勝利が”転がり込んできた”ようにも見える。しかしレース中のラップタイム推移を見ていくと、なるほどアントネッリが自分自身で勝利の可能性を手繰り寄せていたことが分かる。それが17〜21周目のペースだ。
アントネッリは予選で最速タイムをマークし、ポールポジションから決勝レースをスタートした。しかしそのスタートをミスし、6番手まで後退。つまりトップ3チームの中の最後尾となってしまったのだ。
ただアントネッリのレースペースが優れているのは明らかで、ルイス・ハミルトン(フェラーリ)、ランド・ノリス(マクラーレン)というチャンピオン経験者を次々オーバーテイク。すると16周目のノリスのピットストップを皮切りに、フェラーリ勢とマクラーレン勢は続々とピットイン。18周目にはラッセルが首位、アントネッリが2番手となった。
そしてここからが、アントネッリの真骨頂であった。
マクラーレンとフェラーリという前を邪魔するマシンがいなくなったため、メルセデスの2台は自分たちが本来持っているペースを存分に発揮できるチャンスがやってきたのだ。しかしラッセルはペースを上げることができず、無線で「僕らはタイムを失っている」と訴えた。
一方でアントネッリは、ここで一気にペースを1秒近く上げた。
F1日本GP決勝レースのペース推移
写真: Motorsport.com Japan
このグラフは、F1日本GP決勝レース中のラップタイムの推移である。青丸で囲った部分のアントネッリ(黄緑色の実線)が大きく上に跳ね上がっているのに対し、ラッセル(黄緑色の点線)のペースは、それ以前とほとんど変わらないのがお分かりいただけるだろう。
しかもアントネッリのすごいところは、まだタイヤ交換を済ませていないのにも関わらず、新しいタイヤに交換したマシンたちとほぼ同じペースで走ったことだ。本来ならば、新しいタイヤに交換したマシンの方が速いはずで、そのパフォーマンス差を活かして順位を奪うのが、いわゆるアンダーカットである。しかしまだタイヤを変えていないアントネッリに同じペースで走られてしまえば、先にタイヤを交換したメリットは散逸してしまい、アンダーカット戦略も成功しない。まさにそういう状況が起きた。
さてペースを上げられないラッセルは、他のマシンに一縷の望みを託した。それは、ラッセルがポジションを争う上での最大のライバルであったオスカー・ピアストリ(マクラーレン)の前方を、まだタイヤを交換していない状態で走っていたマックス・フェルスタッペン(レッドブル)である。フェルスタッペンがピアストリを抑えてくれれば、ピットストップを行なっても、ピアストリの前でコース復帰することができるかもしれない。しかし21周目にフェルスタッペンはあっさりとピアストリにオーバーテイクを許してしまったため、その周の終わりでラッセルはピットに飛び込み、タイヤ交換を行なうしかなかった。ラッセルのその当時のペースからすれば、ここでピットインしなければ、ピアストリに楽をさせるだけであったからだ。
しかしこれはあまりにも間が悪かった。ラッセルがタイヤ交換を行なっているまさにその時、スプーンコーナーでオリバー・ベアマン(ハース)の大クラッシュが発生し、SC出動。そのため、まだピットストップを済ませていなかったアントネッリは翌周悠々とピットインし、隊列の先頭でコースに復帰することができた。 スタートでの出遅れを取り戻した形だ。
レース再開後のアントネッリのペースは秀逸そのものであり、他を圧倒。まさに完勝と言えた。
このアントネッリの勝利は、SCのタイミングに助けられただけという見方も確かにできるかもしれない。しかし前述したようなピットストップ前の驚異的なペースアップからすれば、SCが出動しなかったとしても、十分優勝争いに加われたと思われる。
F1日本GP決勝レースのギャップペース推移
写真: Motorsport.com Japan
こちらは、日本GP決勝レース中のギャップの推移を、折れ線で示したグラフである。この青丸で示した部分をご覧いただくと、アントネッリがラッセルとの差を極端に詰めているのがよく分かる。
そして赤丸で示した部分……ラッセルがピットストップを終え、コースに復帰した後には、ルクレールのかなり前であった。それを考えれば少なくともトップ3、ピアストリの前後でコースに復帰することもできたかもしれない。スタートで履いたミディアムタイヤのデグラデーションが大きくならなければ、レース後半をハードタイヤではなく、ソフトタイヤに変えるという選択もできたかもしれない。そうなれば、オーバーテイクを仕掛ける上でも有利に働いただろう。
アントネッリが絶対に勝ったとまでは言えないが、レースがどんな展開になったとしても、優勝争いに加わるまでは間違いなかったはずだ。
一方でラッセルには、勝てそうな要素はあまり見られない。前述の通りピットストップ前のペースも優れなかったし、SCが解除された後には、フェラーリ勢に抜かれてしまったからだ。これはソフトウェアのバグの問題もあったようだが。
今季のメルセデスは、単独で走ればめっぽう強いが、混戦になるとたちまちその強さが半減してしまうような印象である。タイヤの温めにも苦労しており、その結果今回もハミルトンやルクレールに抜かれてしまった。そして今回は特にラッセルの方にその傾向が強く出ていた……アントネッリとは逆に、ラッセルはレース展開がどうなっていたとしても、勝利を目指すのは難しかったかもしれない。
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