F1

4月でホンダを退社……F1用パワーユニット開発を率いた浅木泰昭の「最高傑作」

4月限りで定年退職することになる浅木泰昭。N-BOX、F1、そして気筒休止エンジンを手掛けてきた彼だが、キャリアでの”最高傑作”は育て上げてきたエンジニアなのかもしれない。

田中 健一

公開日時: 2023/04/29 8:00

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F1 power unit maintenance work at HRC Sakura

 2018年からホンダのF1パワーユニット開発を率いてきた浅木泰昭が、今月限りでホンダを定年退職することになる。

 すでにホンダ・レーシング(HRC)の四輪レース開発部部長の職を退いている浅木氏。しかし今も、連日後進に向けた講演を行なうなど、忙しい日々を過ごしているという。

 浅木氏は1981年にホンダに入社し、F1をはじめ様々な開発を担ってきた。今年のオーストラリアGPの際、浅木氏にキャリアでの最高傑作は何かと尋ねると、次のように語っていた。

「私が開発責任者としてやったのは、N-BOX、F1、そして気筒休止エンジンの3つです」

 そう浅木氏は語る。

 気筒休止エンジンについては、聞き馴染みのない方も多いかもしれない。これはV6エンジンで稼働する気筒数を、必要に応じて変化させるモノであり、それによって燃費を改善。特に北米で大活躍し、大きな利益を上げたという。

「このエンジンは6気筒を4気筒、3気筒と切り替えて燃費を良くするというモノです。ですが、6気筒を3気筒にしたりすると、振動が出てしまいます。その時、ホンダの内部にいた人間が”アクティブ・エンジンマウント”というモノをディーゼルエンジン用に開発していました。ただディーゼルエンジンは、そういうモノなどなくても商品化できていましたから、その人物に『俺と組まなきゃ、それは世に出ないぞ』とちょっと騙して、そのアクティブ・エンジンマウントを使うことで振動への対策を施して商品化できました」

「そのV6エンジン搭載モデルは北米で利益を上げて、今のホンダの基礎を作ることができました。技術者としては、非常に難易度の高い開発でした」

「N-BOXも、軽自動車は価格が勝負だと言われたのに、どう考えてもウチで安く作れる気がしませんでした。ただ売価で対抗するのは無理でも、他社さんが持っていない技術を入れると、我々の方がお客様に響くモデルが作れると分かりました」

「新しい魅力を作ることでなんとか戦えました。このN-BOXが売れたおかげで、日本での雇用を守ることができました。当時は円高で輸出ビジネスが厳しい環境だったので、日本で作るモノがなくなるところでした。また、国内でも販売店でも売れるモノがなくなるところだったんです。そういう状況を避けられたのもよかったですね」 

Masashi Yamamoto, General Manager, Honda Motorsport, Franz Tost, Team Principal, Scuderia Toro Rosso, and Toyoharu Tanabe, F1 Technical Director, Honda, join hands after Qualifying

Masashi Yamamoto, General Manager, Honda Motorsport, Franz Tost, Team Principal, Scuderia Toro Rosso, and Toyoharu Tanabe, F1 Technical Director, Honda, join hands after Qualifying

Photo by: Andy Hone / Motorsport Images

 その浅木氏が最後に手がけたのがF1だ。浅木氏はホンダF1の第2期にも関わっていたが、2017年頃のホンダは大いに苦労しており、関わっているエンジニアたちが成功体験を得ないまま、撤退する可能性が高まっていたとも言われる。

 浅木氏は当時、すでに定年退職の年齢を迎えていたが、技術者たちに成功体験をさせるためにも、定年を延ばしてF1用PUの開発を率いた。そして2019年には勝利を手にし、2021年にはドライバーズタイトル、そして2022年にはダブルタイトルを獲得……ホンダが作ったPUは、名実ともに世界一になった。

「F1で技術者が負けたまま撤退するという状況を避けられた。レースはホンダのDNAだとよく言いますけど、世界最高峰のレースで勝つとは何かというのを一部の技術者に残すことができた上で、退職を迎えることができたと思います」

 そういう意味では、浅木氏の最高傑作は、これからのホンダの技術を支える、エンジニアの面々なのかもしれない。「いい人材を育てられたか?」そう尋ねると、浅木氏は次のように答えた。

「それが証明されるのは、10年後、20年後のことだと思います。でも、そうなるように、私はF1に残りましたからね。そうなって欲しいと思います」

「ただそれは、その時その時の世の中が決めることだと思います。お客様が求めることに気付いて、培った技術力でそこに応えられる開発する。そういうのが技術屋の使命だし、役割だと思います」

 売れるモノ、勝てるモノを開発する……ホンダではそういうプレッシャーを日々抱えていたはずだ。それを踏まえ、ホンダでの生活は楽しかったかと尋ねると、浅木氏は次のように語った。 

「楽しかったですよ。技術屋としてやっている時はね」

「執行役員とかになって、お金の話ばかりやっている時はつまらないなと思いました。でも、最後F1に戻って、技術屋に戻れた感じはあるんで、楽しかったです」

「普通の技術者だったらできないんじゃないかということをやれました。N-BOXも面白かったし、F1も面白かったし、気筒休止エンジンも面白かった。その時その時で、普通じゃない成果を出せたのはよかったです」

 根っからの技術屋、浅木氏にはそんな言葉が似合うかもしれない。

 今は「やり残したことはないつもり」と語る浅木氏。退職後は、東京湾や太平洋を舞台に、釣りを楽しむという。

「釣りは昔よくやっていたんですよ。でもF1をやり始めたら、土日にレースがありますからね。大変なんです」

「東京湾だったらフグとか、アナゴとか、タチウオですかね。大洗の方では、ヒラメやカレイが釣れるかな」

 

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