理由はオーバーテイク増加以外にも? F1最終戦アブダビGPの舞台に変更が加えられたワケとは

F1のシーズンエンドをアブダビで迎えるようになってから13回目の最終戦を迎えた今年。舞台となるヤス・マリーナ・サーキットには大規模な修正が加えられている。

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 2021年のF1最終戦アブダビGPの開催を前に、舞台となるヤス・マリーナ・サーキットには大規模な修正が加えられている。

 サーキットの従来のレイアウトは、「F1観戦には向かない」「つまらない」という批判が相次いでいたことから、サーキットは今年の始めにレイアウトに大きく手を加えることを発表した。

 改修では、バックストレートのクランクがヘアピン(新レイアウトではターン5にあたる)に変わり、ターン9にはバンク角がつけられ、併設ホテルがある複合セクションにも修正が加えられた。

 これらひとつひとつの変更は劇的なモノとは言えないが、3つを束ねて見れば大きな影響が出てくる。

 メルセデスのストラテジー担当チーフのジェームス・ボウルズは、ポッドキャスト「iRacing Downshift」に登場した際にこう語っていた。

「アブダビは別のサーキットになったと、みんなは思っていないかも知れないが、私に言わせてみれば、レイアウトの“完全変更”によって少なくとも10秒は速くなるだろうね」

 今回のレイアウト修正は、レースの質を全体的に向上させることを目的としているが、単にサーキットデザイナーがオーバーテイクの回数を増やそうとしたワケではない。むしろ、走行のリズムが変わるような、より総合的なアプローチが取られたと言えよう。そうすることで、後方を走るマシンは前車を追従しやすくなる。それぞれが異なるラインを走ることができたり、タイヤへの負担も減ったりする可能性も秘めている。

 レイアウト変更は、サーキットデザインのコンサルタント「MRK1」とサーキットを建設した「ドリブン・インターナショナル」によって行なわれた。

 MRK1でマネージングディレクターを務めるマーク・ヒューズは、サーキット側が現行レイアウトに改善の余地があると受け入れたことを称賛している。

「流れがかなり良くなる」と新レイアウトについて彼は説明する。

「(F1初開催の)2009年時点では、コースレイアウトに対する風潮も違ったし、マシン自体も異なっていた」

「ヤスには素晴らしい建物や港があり、素晴らしいコンサートやパーティーなどを主催できていると彼らも認識している。とても勇気のある人々だと思う。ただ唯一彼らの期待を裏切ったのはサーキットだった」

「そのことを受け入れて『よし、変えよう』と誰もが言えるワケではない。しかし、彼らはそうした。私としては素晴らしいことだと捉えている」

 MRK1とドリブンは、レイアウト変更の一環として元F1ドライバーで現在はSkyで解説者を務めるカルン・チャンドックに協力を依頼し、変更点をシミュレーターでテストしてもらったという。

 シミュレーターでいち早く新レイアウトを体験したチャンドックは、ドライバーとファン双方にとってサーキットがよりよいモノになると確信している。

「改修されたヤス・マリーナを何百周も走った経験から言うと、ドライバーはスムーズで運転していて楽しいサーキットだと捉えてくれると信じている」

「既存のサーキットを改修するのは、決して容易なことではない。1から家を建てるというよりも、家をリノベーションするようなモノで、そこには絶対に変えようがないモノもある。ヤスの場合だと、ピットや港、ホテルの位置は決まっていた」

 では次にその変更が加えられた点について詳しく見ていこう。

ヘアピンのターン5

North Hairpin - 1

North Hairpin - 1

 今回のレイアウト改修で最も分かりやすい部分は、ひとつ目のバックストレートの手前にあったシケインが撤去され、ヘアピンが新設された点だろう。

 従来のクランクでは、前車に接近しすぎるとダウンフォースを失ってしまうため、マシン同士の間隔が空いてしまうことが以前から分かっていた。その結果、ドライバーたちはタイトなクランク入り口をオーバーテイクポイントとして活用するために距離をつめたり、出口からの加速で追い抜きをかけたりすることは叶わなかった。

 元々このクランクが設置されていた理由は、設置しなかった場合のマシンの到達速度を考慮すると、ドライバーとファンの安全を確保するにはバリアとグランドスタンドがコースに近すぎると判断したためだった。クランクを設け、マシンの速度を落とす狙いがあったのだ。

 もちろん、クランクを撤廃するためにバリアとグランドスタンドを後方にずらす選択肢はない。安全性を確保するべく、ヘアピンを手前側に設置したのだ。

 レイアウト変更を統括したドリブン・インターナショナルのベン・ウィルトシャーはこう語っている。

「これを実現させるためには、ランオフエリアを大きく取るしか選択肢はなかった。そのため、コーナーを約42メートル後退させて、FIAと協議してバリアを改善することになった」

「これまでも(グランドスタンドと)マシンとの距離が近いことが魅力のひとつではあったが、今回マシンがハードブレーキングするポイントができたため、ヘアピンの両側に座る人たちにとっては、さらに見応えのある席になった。加えて、ヘアピンは20メートルも幅があるから、アクションやオーバーテイクが期待できるようになった」

バンク角がついたターン9

Marsa Corner -1

Marsa Corner -1

 改修にあたり、MRK1とドリブンはふたつある長いストレートでのオーバーテイクについて深く分析した。

 従来レイアウトの最初のクランクへの飛び込みでは、オーバーテイクを仕掛けることは可能だが、クランク出口からの立ち上がりでラインが厳しくなり、その後のストレートでは再び追い抜かれてしまうことが多かった。つまり、実質的にそこでオーバーテイクを仕掛けるメリットは少なかった。

 そうしたこともあり、ふたつ目のバックストレートエンドにあったクランクとそれに続く直角コーナーの改修が検討された際は、激しいブレーキングゾーンではなく高速コーナーに変更することが好まれたのだ。

 チャンドックは次のように語る。

「新しいターン9に施した改修により、ドライバーを苛立たせるオフキャンバーの4つのコーナーはなくなり、それまでこのサーキットになかった高速コーナーが作られた」

「オフキャンバーのコーナーではリヤタイヤの温度が上がってしまうので、我々はセクター終わりのコーナーに異なる選択肢を検討していた」

 また、ウィルトシャーはこう補足する。

「ここでの哲学は、マシンの勢いをできる限り維持して、他車が追従できるようにすることだ」

「しかし、ターン2から3の複合コーナーを除けば、ヤス・マリーナ・サーキットにはチャレンジングな高速コーナーはなかった。我々はイタリア(のモンツァ・サーキット)のように、ドライバーが毎ラップ息を止めてしまうような特徴のあるコーナーを作りたいと思っていた」

「また、オフキャンバーではくバンクをつけているので、ミスを誘発するのではなく自信をもって走れるようになる。それによってドライバーは(前車に)接近するために様々な走行ラインをトライできるようになったり、サイド・バイ・サイドで走ったりできるようになる。コース上のどこからでも追い抜きを仕掛けられるようになるはずだ」

「これまでとは違った考え方が生まれ、このサーキットに新たな特性をふたつ追加できたと思っている。それこそが、我々が目指すところだ」

ホテルの複合セクション

Hotel Section - 1

Hotel Section - 1

 ヘアピンのターン5や高速コーナーのターン9とは異なり、併設のホテル付近の複合セクションには細かい修正が加えられた。

 サーキット全体のビジョンを集約したここのセクションはホテルに囲まれている。しかし、このタイトコーナーの連続によって全体的な流れが悪くなるだけでなく、タイヤをオーバーヒートさせてしまい、その他のセクションでのレースに悪影響を与えていた。

 港やホテル自体を移動させることはできず、コーナーに修正を加えるにはバリアやランオフエリアに大掛かりな工事を必要とするため、このオフキャンバーがついたコーナーをなくすことはできなかった。その代わりに、縁石を変えコーナーを大きく使えるようにすることに重点を置いた。

「ホテル下を通る2連左コーナー(ターン13・14)の半径を広げ、ターン15をよりオープンにすることが最善策だった」とチャンドックは語る一方、ウィルトシャーは次のように述べた。

「このエリアでの作業は、デザインと建設の中で最も複雑なことのひとつだったと言えるだろう。アスファルト上でミリ単位の数値を扱うことになったからね」

「従来のターン17〜19は、イン側がオープンになり、走りの流れが良くなった。我々はマシンを追いかけることを妨げていたシークエンスを取り除きたかったのだ。より長く弧を描いて縁石の上を乗り越えていくことで、ドライバーはより多くのスピードと勢いを得ることができる」

その他の改修案

Marsa Corner - 2

Marsa Corner - 2

 MRK1とドリブンは、改修に先立つサーキットへの再評価の一環として、ふたつのバックストレートを繋ぐシケインの再調整も視野に入れていた。

 シケイン出口の右コーナーの角度を緩めることで、より良いバトルを提供できるのではないかという提案もあったが、従来通りのレイアウトでも十分にサイド・バイ・サイドのバトルができると考えた。

 加えて、最終コーナーをオーバーテイクポイントにできないかと検討されたが、ホテルセクションからのアプローチが短すぎるため上手くはいかなかったという。

 今回の改修をタイトなスケジュールで終わらせるために、3度に工事を分けて行なうことも検討されたが、ヒューズがそれは正しいやり方ではなく、3つのコーナーが同時に改修されることが不可欠だと考えたため却下された。

「F1のクレイグ・ウィルソンと共にこのプロセスを進めていったのだが、ある時、時間的な問題から改修のひとつを諦めてひとつを後回しにした方が良いのではという議論が内部で行なわれた」とヒューズは語る。

「そうすると、まずコストが上がることになる。全てを2回動員することになるからね。しかし実際、シミュレーションデータを見てみると、3つの要素が全体的に機能し、より良いラップを生み出すことができるのだと気がついた」

「そのうちのひとつを取り除けば、残りのふたつの改修も無意味になる。だから、諦めるという簡単な選択肢はなかったのだ」

全体的な軌道修正

North Hairpin - 2

North Hairpin - 2

 この3点での改修により、新しく生まれ変わったヤス・マリーナ・サーキットはドライバーにとってもワクワクするコースになると期待されている。

「サーキットの全長がおよそ300メートル短縮されたことで平均速度は上がり、ラップタイムも大幅に短縮される」

 ウィルトシャーはそう語る。

「こうした変更によってタイヤの摩耗具合が変わり、ドライバーはより速く、より楽しく、より流れるように走れるサーキットになったと実感するだろう」

 改修がファンを楽しませられるかという“答え合わせ”は日曜日の決勝レースまでのお預けとなるが、チャンドックはサーキットがより良くなったと確信している。

「結論としては、F1がレースを行なう時にどれだけそれがオーバーテイクに貢献しているかを見る必要があるとは思っている」

「しかし、全体を見ると走りやすいサーキットレイアウトになったのは確かだ」

 改修前のコースレコードは2019年にルイス・ハミルトン(メルセデス)が記録した1分34秒779だったが、今回のフリー走行2回目のトップタイムは同じくハミルトンが記録した1分23秒691。ボウルズが予想した通り、10秒以上もタイムが短縮されている。

 
 
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