F1 シンガポールGP

ニューウェイ加入直後は仕方ない? アストンマーティン・ホンダの苦戦は”産みの苦しみ”……ホーナー語る「彼がレッドブルに来た時と同じように見える」

元レッドブルのチーム代表あるクリスチャン・ホーナーは、苦戦が続く今季のアストンマーティン・ホンダについて「ニューウェイがやってきたばかりのレッドブルを思い出す」と語った。

Ronald Vording Stuart Codling

編集: 2026/10/20 2:36

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Adrian Newey, Chief Technology Officer, Red Bull Racing, Christian Horner, Team Principal, Red Bull Racing, arrive into the paddock

Adrian Newey, Chief Technology Officer, Red Bull Racing, Christian Horner, Team Principal, Red Bull Racing, arrive into the paddock

写真:: Mark Sutton / Motorsport Images

  アストンマーティン・ホンダは新レギュレーションが導入された今シーズン、大いに苦しんでいる。この状況は、ホンダ製パワーユニットのパフォーマンス不足による部分も大きいが、シャシーにも大きな問題があるとされる。チーム代表のエイドリアン・ニューウェイも、シャシーの開発が計画通りに進まなかったことを率直に認める。

 2025年の途中までレッドブルのチーム代表を務めていたクリスチャン・ホーナーは、現在のアストンマーティン・ホンダの状況について、ニューウェイが加入した頃のレッドブルに似ていると感じられるようだ。

 レギュレーションが大変更された今季、アストンマーティン・ホンダは開幕前の最注目チームであった。これまで数々のチャンピオンマシンを手がけてきたニューウェイがデザインしたマシン、前年までタイトル争いを繰り広げていたホンダのPU、そして完成した新しいファクトリー……良い要素ばかりが目立ち、勢力図を掻き回す存在になるのではないかとすら思われた。

 しかしテストが始まると満足に走れず、タイムシートでも低迷。シーズンが開幕しても、最下位争いから抜け出すことができなかった。

 ホンダのPUがパフォーマンス不足であることは、ホンダ・レーシング(HRC)の渡辺康治社長も認めるところ。しかし、シャシーにも相当に問題がある。ニューウェイも、新しい風洞が本格稼働するのが遅かったため、シャシー開発が「常に後手に回っていた」ことを認めている。

 ハンガリーGPではシャシーに大規模アップデートが投入され、続くオランダGPでもホンダのアップデート版PUを搭載した。これによりフェルナンド・アロンソがオランダGPで9位、バーレーンGP in マレーシアで8位に入るなど、入賞を争えるようにはなった。しかし期待されたシンガポールGPで下位に沈むなど、パフォーマンスは安定しない。

 ホーナー元代表にとってこのアストンマーティン・ホンダの現状は、ニューウェイがレッドブルにいた頃の記憶を呼び起こすという。

 ホーナーはニューウェイを説得し、マクラーレンから移籍させることに成功した。そしてチームには、ニューウェイがマクラーレン時代からの知り合いであったディートリッヒ・マテシッツやデビッド・クルサードなどもいた。

 今では確固たるトップチームのひとつに数えられるレッドブルだが、その頃はF1界の異端児とも言える存在。F1の会場でパーティをするためだけにやってきたような立ち位置であった。しかしニューウェイを獲得したことで、パドックではようやく真剣に捉えられるようになった。

 しかしホーナーによれば、成功を収めるまでの道のりは大変だった。

「エイドリアンを説得した頃には、反発もあったよ」

 ホーナーは英国『AUTOSPORT』のインタビューでそう語った。

「特に旧ジャガー時代からの古参メンバーの間では、『エイドリアンが我々のやり方に合わせるべきだ』という意見があった。しかし私は、『いや、君たちこそ彼のやり方に合わせるべきだ』と考えたんだ」

 なおレッドブルは、ジャガーF1を買収して、2005年に立ち上げられたチームだ。

「当時既に、エイドリアンが手がけたマシンは、合計で100勝ほど挙げていたと思う。しかしジャガーは1勝もしていなかったんだ。だから私は、エイドリアンの意向を尊重し、彼が必要としているモノ、そして彼自身の能力を最大限に引き出すために必要なモノを中心にチームを構築しようと考えていたんだ」

 ニューウェイは、ピーター・プロドロモウを説得して、マクラーレンからレッドブルへと引き抜いた。ただニューウェイが連れてきたのはそのプロドロモウひとりだけだったため、レッドブルは技術チームをほぼゼロから構築する必要があった。

 ニューウェイとホーナーは、マーク・スミス、ジェフ・ウィリス、そしてロブ・マーシャルといった人材を引き入れることでそれを実現した。ちなみにマーシャルとプロドロモウは既にレッドブルを離れており、現在は共にマクラーレンで重要な役割を担っている。

 ニューウェイ率いる技術チームは、徐々に形を成していった。しかしホーナーによれば、レッドブルで成功するために必要な条件は、まだ整っていなかったという。

「チームを編成し、技術グループの力と層を厚くしようと努力してきたが、エイドリアンはまるで月からやってきたかのようだった」

 そうホーナーは笑いながら振り返る。

「我々は組織として、準備不足で未熟すぎた。そのため、彼が求めていたモノを実現することができなかった。ツールも製造プロセスも、十分に洗練されていなかったんだ」

「彼は1年目から、シームレスシフトのギヤボックスを求めていた。そうすればラップタイムをコンマ数秒縮められるからだ。しかし、我々が用意したギヤボックスは、4周ほど走ると壊れてしまうようなモノだった! ギヤボックス用のテストベンチも、必要な各種のテスト機器も、十分に揃っていなかった」

「だから彼のマシンが登場した1年目となる2007年は、彼の要求に応えるだけの準備がまったくできておらず、マシンにはあらゆる問題が発生した。信頼性、サスペンション、ギヤボックス、電気系統など、あらゆる面で問題があった。彼の要求には、妥協というモノが一切なかったからだ」

David Coulthard at the Nurburgring in 2007

David Coulthard at the Nurburgring in 2007

Photo by: Rainer Schlegelmilch / Getty Images

 ホーナーは、現在のアストンマーティンでも、同じようなことが起きているのではないかと語る。ニューウェイはアストンマーティンのファクトリーを「業界最高」と評しているにもかかわらず、全てが要求される水準に達していたわけではなかった。

「外から見ていると、まるで歴史が繰り返されているように感じるよ」

 そうホーナーは語った。

「彼はアストンマーティンに移籍しても、慣れ親しんだやり方で仕事をするはずだ。しかしアストンマーティンはその準備ができていなかったため、その体制を整えようとしている最中だろう」

 ニューウェイがレッドブルにやってきたのは、最近までハースF1のチーム代表を務めていたギュンター・シュタイナーがテクニカル・オペレーション・ディレクターを務めた後のことであった。ホーナーは、シュタイナーに関する面白いエピソードを披露した。

「私がレッドブルに加入した時、彼らは『ニキ・ラウダが推薦した人物を雇った。彼は以前ジャガーにいて、名前をギュンター・シュタイナーというんだ』と言ったんだ」

 そうホーナーは振り返る。

「彼のことは全く知らなかったし、インターネットで調べてみたら、かなり恐ろしい人物に見えた。それが第一印象だったんだ。そしてギュンターが現れた」

「彼は当時、フェラーリエンジンを搭載したRB2の責任者だった。そのマシンは、シルバーストンで行なったシェイクダウンで、わずか3℃ほどしかない寒い中、オーバーヒートしてしまったんだ」

「その後すぐにエイドリアンがやってきて、『あのクルマのことは忘れよう』と言ったんだ。それでギュンターはレッドブルのグループ内で、ちょうど始まったばかりだったNASCARのプロジェクトに携わることになり、それが彼にとってアメリカと繋がる転機となった」

Christian Horner and Guenther Steiner in 2005

Christian Horner and Guenther Steiner in 2005

Photo by: Red Bull Racing

 マクラーレンは当時、ニューウェイの退団を快く思っていなかった。しかしレッドブルがライバルになるとは思ってもいなかったため、マクラーレンにとってはニューウェイが加入しても脅威にはならない移籍先だと思われていた。ニューウェイはそれにより、マクラーレンの考えが間違っていたということを証明したいという意欲を掻き立てられた。

「確かにそういう側面もあっただろう」

 そうホーナーは認めた。

「彼は、私が説明したレッドブルの精神を、気に入ってくれたんだと思う。レッドブルは純粋なレースチーム、より小規模なチームに戻ったような感覚だったんだろう」

 皮肉なことにそれから19年後、同じ理由でニューウェイはレッドブルを離れる決断を下した。ニューウェイは、レッドブルが政治的な駆け引きの巣窟と化してしまったことに、居心地の悪さを感じたのだ。

 ホーナーはニューウェイの退団を、間接的に知らされただけであり、そのことには失望したという。

 なおこれらのことの詳細については、最近発売されたホーナーの著書『Drive』でも触れられている。

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