海外F1記者の視点|どうするフェルスタッペン。今季抱えるフラストレーションが王者に及ぼす影響……レッドブル残留? マクラーレンへ移籍? いやそれとも
イギリスGPの週末は、マックス・フェルスタッペンとレッドブルの今シーズンを象徴するようなものだったと言える。
Max Verstappen, Red Bull
写真:: Liam Fabre
Autosport
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F1イギリスGPの土曜日に行なわれたオランダ人メディア向けの会見でのことだった。レッドブルのマックス・フェルスタッペンは今シーズンについて「あまりにも奇妙なことが多すぎる」と語り、「もしかしたら黒猫を轢いてしまったのかもしれない」と語った。
その24時間後、フェルスタッペンにはまたしても”奇妙なこと”が降りかかった。決勝レース終盤にストウコーナーでリヤウイングのトラブルに見舞われ、コースオフ。リタイアを余儀なくされたのだ。
フェルスタッペンのフラストレーションは、頂点にまで高まっている。そのレースで彼は、十分表彰台も狙える位置を走っていた。ただ、その表彰台を逃したことについては、それほど大きなことではない。それ以上に、舞台裏で起きていたことによって、フラストレーションが高まったのだ。
リヤウイングの問題はこれで2戦連続。前戦オーストリアGPの予選でも、同じようなトラブルによってコースオフを喫した。
これについてフェルスタッペンは「とても危険だ」と発言。FIAも調査に乗り出すことを決めたようだ。
ただそれだけではなかった。土曜日の段階でパワーユニット(PU)とマシンのバランスに問題があったため、フェルスタッペンはPUの交換とマシンのセッティング変更を進言したが、チームはこれを黙殺。フェルスタッペンはこのことについて大いに不満を持っている。
「僕はピットレーンからスタート(して問題を解消)したかった。彼らは修正する自信があったのかもしれないけど、僕はそうは思っていなかった」
レース後、フェルスタッペンはそう語った。
一方でチーム代表のローレン・メキーズは、チームとしてはPUとセッティングが理想的ではないことを認識していたものの、ピットレーンスタートを選択すれば上位争いはまず不可能だと判断したため、フェルスタッペンの進言を受け入れなかったと説明した。
確かにこれは、至極妥当な判断だと言えるだろう。しかし何もこれは、今回のイギリスGPだけの問題ではない。カナダGPの時点で既に、予選前のセッティングの方向性について、チームが自分の意見を聞き入れなかったと語っていた。
なおデ・テレグラフ紙の報道によれば、マクラーレンに移籍することが決まっているレースエンジニアのジャンピエロ・ランビアーゼには、共有されていない機密情報があるという。
これはレッドブルにとって長年の強みであったコミュニケーションに、亀裂が生じていることを示唆している。
■2025年の再現はほぼ不可能
Red Bull turned it around late last year as Verstappen narrowly missed out on a fifth title
Photo by: Guido De Bortoli / LAT Images via Getty Images
解決のためには、率直な話し合いが必要だろう。ただイギリスGPの後、フェルスタッペンはそういう話し合いには乗り気ではないと認めている。しかも今年のレッドブルのパフォーマンスが不十分であるのは明らかだ。
オーストリアGPで2位に入ったことについてはいくらか希望を与えたものの、イギリスGPでの週末は、まだ目標とするレベルには程遠いことを突きつけられた。フェルスタッペンは、高速コースが舞台となるベルギーGPやイタリアGPでも同様の問題に直面するだろうと語る。
昨年のフェルスタッペンは、夏休み明けから驚異的なパフォーマンスを披露。なんと以後全てのレースで表彰台登壇を果たしたのだ。ただ今季は同じような復活は不可能に見える。それにはふたつの理由がある。
FIAはレッドブルが使うレッドブル・フォード・パワートレインズ(RBPT)のエンジンを、現時点で最も出力の大きなエンジンだと認めた。これにより、RBPTは、パワーユニットを”ADUO対象”としてアップデートすることができない。ただRBPTはエンジンこそ強力ながら電動部分では苦戦しており、この部分をアップデートできないというのは、大きな足枷といえよう。
今後ADUO対象となるためには、いずれかのメーカーのエンジンにパフォーマンスの面で上回ってもらわなければいけない。それもまた苦しい状況だ。
シャシーの面では、2回のアップデート投入によって大きな進歩を遂げたものの、チーム関係者は全員まだ十分ではないと認識している。オーストリアでは確かに好調な走りを見せたが、レッドブルリンクはそもそもフェルスタッペンが従来得意としてきたコース。シルバーストンでは、残っていた弱点が再び露呈した。
ただシャシーをさらにアップデートするのも簡単ではない。年間の予算上限額が設定されているからだ。フェルスタッペンもイギリスGPの際にこう語った。
「コスト上限があるから、マシンに今後も多くのアップデートと施せるわけではない」
コスト上限に関しては、昨年までも存在していた制限である。しかし、PUの件もあり、今季は事実上挽回が難しい状況にある。フェルスタッペンがその才能をいかんなく発揮し、目覚ましい成績を残すことも時折あるかもしれない。しかしそれが安定して続くことは難しいだろう。
■フェルスタッペンの将来はマクラーレン? それとも引退か
Could Verstappen follow long-time engineer Lambiase to McLaren?
Photo by: circuitpics.de
さらに先を見据えると、フェルスタッペンはより根本的な疑問に応えなければいけない。それは、F1から引退したり、休養することを選ばなかった場合には、どういう進路を取るかということだ。現在の状況を踏まえると、フェルスタッペンのマネジメント陣が、移籍市場に探りを入れているのは間違いない。
フェルスタッペンのマネージャーを務めるレイモンド・フェルミューレンは先日、「フェルスタッペンは中団でレースをするために生まれてきたわけではない」と語ったのには理由がある。しかし今シーズン、フェルスタッペンはその言葉通りの位置を走ることも少なくはない。
さてフェルスタッペンが移籍するとしたら……メルセデスとフェラーリは、現時点ではシートが空きそうもない。そのため、マクラーレンが移籍先最有力候補として浮上してきたのは当然のことと言える。マクラーレンの関係者も、フェルスタッペンの陣営と接触していることを否定しておらず、むしろ自然な流れだと語っている。
当然ながらレッドブルはこの騒動を回避したいと考えており、フェルスタッペンに対してチーム残留を公に表明するよう促し、数百万ユーロで契約解除条項を無効にすることを打診した。それが無効となれば、フェルスタッペンは少なくとも、既に締結された契約に従い、2028年までチームに残らなければいけない。
当然のことながら、フェルスタッペンはどちらの要求にも同意する必要はほとんどないと考えている。いずれも、彼にとっては有利となるようなモノではない。フェルスタッペンは既に高額の報酬を受け取っており、金銭的な保証を得られることは特に決定的な要因とはいえない。しかも契約解除条項を放棄すれば、大きな自由とそれに伴う交渉力を失うことになる。
レッドブルの内部には、この決定に満足していない者もいて、中には忠誠心が足りないと考えている者もいるようだ。しかし一流アスリートが自身のキャリアにとって最善の決断を下すのは当然のこと。しかもフェルスタッペンは、ここまで十分に忠誠心を果たしてきたとさえ言える。
レッドブル陣営に残る唯一の強みは、レッドブルがフェルスタッペンに対して、耐久レースに参戦するという自由を与えているという点かもしれない。しかしマクラーレンとしても、それに完全に反対するわけではないようだ。
しかもレッドブルからは、フェルスタッペンのタイトル4連覇を支えた数々の重要人物が既に離れていることも忘れてはならない。そのうち、前出のランビアーゼをはじめ、ロブ・マーシャルやウィル・コートニーなどはマクラーレンに移籍した。それも、フェルスタッペンがマクラーレンに移籍するのではという噂を後押ししている。
とはいえマクラーレンにも疑問点はある。それはメルセデスのカスタマーチームであるという立場だ。FIAのモハメド・ベン・スレイエムは、メルセデスへの依存度を下げたいという意向を示しており、その方向性によって先行きが大きく変わる可能性もある。
この動きは、マクラーレンが独自のパワーユニット開発プロジェクトに着手するきっかけとなる可能性がある。レッドブルは先んじてその方向性に進んでおり、少なくともエンジンに関しては、驚くほど高い出力を発揮している。
とはいえこれは長期的な検討事項であり、早くても次のレギュレーションが導入される2031年もしくは2030年以降ということになろう。フェルスタッペンは、それまでの数年間に関する決断を下さねばならない。
レッドブルのメキーズ代表は、多くの人材が離脱したにも関わらず、レッドブルには人材の”厚み”があると主張し続けている。そして新しい風洞も、来年には稼働が開始される予定だ。
短期的な苦境は、もはや挽回するのは難しいだろう。しかし長期的な視点では、どのプロジェクトが最も説得力があるものかというところが重要である。
これはフェルスタッペンだけが答えられる問いである。最終的にはプロジェクトへの信頼、そしてF1の将来像に対する信頼によって、フェルスタッペンの将来が決まるのだろう。
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