MotoGP参戦わずか30戦でクビのレクオナ。 KTMの判断は”未来のスター”を捨てている?
2022年シーズンWSBKにホンダから参戦することになったイケル・レクオナ。MotoGP参戦わずか30レースでシートを失うことになったレクオナだが、KTMとMotoGPはこの状況に対し、未来のスターを失う危機感を持たなければならない。
写真:: Gold and Goose / Motorsport Images
モータースポーツの世界は究極的なビジネスの世界である。チームはスポンサーの製品を売ることでレースに参戦し続けることができ、そのために結果を出す必要がある。また、選手の成功と失敗の境界線も明確であり、多くの人の夢は打ち砕かれる。さらに現状は若い人達の夢が叶わないことが多い。
KTMはMotoGPに参戦してくる若い才能を独占している傾向がある。Northern Talent Cup(ノーザン・タレント・カップ)やRed Bull Rookies Cup(レッドブル・ルーキーズ・カップ)などのジュニアカテゴリーにバイクを供給し、若い才能を見い出す最前線にいる。そこで若手ライダー達は、KTMまたは傘下のHusqvarnaやGasGasからMoto3クラスに参戦し、最終的にはMoto2、MotoGPへと進むことができる。
2022年にMotoGPクラスのファクトリーチームからはブラッド・ビンダーとミゲル・オリベイラが参戦し、サテライトチームであるテック3からは2021年Moto2クラス王者のレミー・ガードナーと年間2位で終えたラウル・フェルナンデスが最高峰クラスにデビューを果たす。また、今最もグランプリレースで注目高い存在のMoto3王者ペドロ・アコスタは2024年にMotoGPクラスに参戦することをKTMと既に契約しているのだ。
若い才能発掘に熱心なKTMではあるが、その才能を守ることに関しては冷淡でもある。当初ガードナーとフェルナンデスはテック3のシートを望んでおらず、ヤマハとRNFレーシング(元ペトロナス・ヤマハSRT)からの参戦も視野に入れていた。だがその状況は一変、フェルナンデスは契約もありKTMからの参戦を選ばざるを得なかった。
このような若い才能に対するアプローチは、セバスチャン・ベッテルやマックス・フェルスタッペンといったスーパースターを輩出してきたレッドブルF1における若手ドライバープログラムに似ていないでもない。しかし、同時に数多くの名前を鉄くずの山へ放り投げることにもなった。
Lecuona was ditched after two years in MotoGP with Tech3 and now will try his luck in World Superbikes
Photo by: Gold and Goose / Motorsport Images
このことについて2021年まで2年間テック3からMotoGPに参戦していたイケル・レクオナは、このKTMのアプローチを愚かだと考えている。
「正直に話すと、僕は一人のライダーを信じるということは、彼らを1年、2年、3年、4年と信じることであると思う」
レクオナは2021年シーズン終了後、このようにmotorsport.comに語った。
「ライダーを信じるのは勝手だが、ライダーには適応し、成長するための時間が必要であると理解してくれる必要がある」
「1年でライダーに対し“あそこにいる必要がある”と言ったり、プレッシャーをかけたりするが、みんな適応する時間がいるんだ」
「彼らはとても若いライダーを起用し、すごく難しいバイクで速く走ることを望んでいる」
さらに、KTMはドゥカティやヤマハなどのような従来のバイクでないことから、若いライダーが乗って直ぐに速くなるわけではないと言い切る。KTMは他勢力がアルミツインスパー/オーリンズを使用する中、独自のスチール・トラス・フレームを使用し、WPサスペンションを採用している。そんなKTMがMotoGPで成功を収めるためには、ドゥカティやヤマハと同じ開発の道を進むのではなく、独自の道を進む必要があると思っているためだ。
KTM wasn't the regular front-running prospect it was in 2020 last season, hindering Lecuona's prospects
Photo by: Gold and Goose / Motorsport Images
またレクオナは新型コロナウィルスの影響が少なからず生じたとし、以下のように答えた。
「僕の場合、新型コロナウィルスの状況も問題の理由にある」
「MotoGPでは多くのことを学び、勉強し、努力していかなければいけない。でも1つのサーキットで2レースもやると1週間、そして次のもう1週間と向上できるけど、何もトライできない。多くは学べないんだ。なぜなら、それは同じサーキットだからだ。それに通常のシーズンよりもレース数が少なかったしね。1年目では多くのことを学べなかったよ」
2021年、アレックス・マルケス(LCRホンダ)がホンダの難しいマシンで獲得した最高順位が4位であったことや、ビンダーが厳しいシーズンを強いられたことを考慮すると、レクオナが最高峰クラスで正当なチャンスを与えられ、成長するのに十分な環境にいたとは言い難い。さらに、現在のMotoGPは競争が激しく、かつての新人とは比較にならないほど厳しい状況下に立たされている。
「MotoGPのレベルは非常に高くなっている。6つのファクトリーが参戦するMotoGPでは、何度もコンマ7秒差につけても15番手になるんだ。遅いから15位というわけじゃない」
「トップからコンマ7秒差なんだ。5年前なら1秒差でゴールすれば表彰台に登れたのに、今じゃ1秒遅れると最後尾だ。こんなことMotoGPでは初めてだと思うよ」
Strong form of Gardner and Fernandez in Moto2 meant Lecuona's place was under threat for much of 2021
Photo by: Gold and Goose / Motorsport Images
若干21歳という若さでMotoGP参戦わずか30レースにして、この世界から去ることになったレクオナ。2022年シーズンは、ホンダファクトリーからスーパーバイク選手権(WSBK)へと転向する。レクオナはMotoGPで過ごした時間を蔑ろにするのではなく、またMotoGP復帰までの繋ぎとしてこの転向を考えているのでもなく、自身のキャリアの次の章としているようだ。
しかし”あと1年”があれば、レクオナがMotoGPで大きなステップを踏み出すことも出来た可能性はある。そうなればKTMにとっても、若手ライダーにとっても、MotoGP全体にとっても教訓となったはずだ。
KTMの”次世代の若手有望株”を獲得したいという欲求が、ライダーが成長するための時間を与えることの必要性をないがしろにする理由にするべきではないはずだ。Moto3やMoto2で才能を発揮したライダーはMotoGPでもその才能を発揮できるだろう……しかし全てのルーキーがファビオ・クアルタラロやホルヘ・マルティンのようであることを期待するのはフェアではない。
レクオナが2020年にMotoGPデビューを果たした時、彼はロードレースの経験はまだ浅く、2015年に市販車ベースのバイクでサーキットレースを始めたばかりだった。”最高峰クラスでのレース”という2度と訪れないかもしれないチャンスを掴んだことに後悔はないと語るレクオナだが、20代になったばかりで掴んだチャンスが本当に一生に一度きりのものというべきだろうか。KTMの若手育成への姿勢が問われているとも言えるだろう。
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