1台体制でも強くなれる。ROOKIE RacingはいかにしてSF初優勝に届いたか……鍵は「全員野球」の精神とポジティブな空気
ROOKIE Racingが、2026年のスーパーフォーミュラ第5戦でついに初優勝を達成した。石浦宏明監督は、チームの全員が努力を重ねた結果だと語る。
写真:: Masahide Kamio
2026年のスーパーフォーミュラ第5戦鈴鹿で、NTT docomo business ROOKIEは福住仁嶺のドライブで初優勝を飾った。ROOKIE Racingは1台体制で、2年前はノーポイントに終わったチーム。しかし急速に力をつけ、一気に表彰台の頂上まで駆け上がった。
このチームには今季から“天才”と称される福住仁嶺が加入しており、今回の優勝は福住の才能に依るところも当然大きいだろう。しかしそれだけで勝てるほど、スーパーフォーミュラは生易しいカテゴリーではない。ここに至るまでのチーム全体での着実な積み上げなくして、躍進はあり得なかっただろう。
鈴鹿で異才を放つ“レスダウンフォース”のセットアップ
ROOKIE Racingは2020年からスーパーフォーミュラ参戦をスタート。翌2021年から本格的な自社運営チームとなり、今年で6年目を迎える。チームは2023年のSUGO戦での4位など、チーム立ち上げ時からドライバーを務めた大嶋和也と共に時折高いパフォーマンスを見せることはあったが、多くのレースで下位に沈み、前述の通り2024年は入賞0回に終わってしまった。
しかし昨年、大嶋とROOKIE Racingはパフォーマンスを底上げすることに成功する。12戦で実に7回の入賞を記録。翌年に優勝を果たすことになる鈴鹿では、各車リヤウイングを最大角度にするのが定石の中、フラップを寝かせる“レスダウンフォース”のコンセプトを採用し、5戦で3回入賞した。
昨年、大嶋とチームはパフォーマンスを底上げ
写真: Masahide Kamio
大嶋は当時、14号車が多くのダウンフォースを出せるパッケージになっているとして、「昨年まではダウンフォースをつけるほどストレートが遅くて苦労したが、今年はストレートもみんなと同じくらいの速度で走りながら、高速コーナーも走れるようになってきている」「(リヤウイングのダウンフォースレベルを)2ステップ減らしている中でもセクター1でみんなに負けなかったのはポジティブ」と話していた。
このレスダウンフォースのコンセプトは、引退した大嶋に代わって福住が乗る今シーズンにも踏襲された。もちろんメリットばかりではなく、リヤタイヤに厳しくデグラデーション(性能劣化)が出やすいというウィークポイントもある。第5戦の決勝レースをポールポジションからスタートした福住も、リヤタイヤが厳しいと感じていたようだが、それでもライバルと遜色ないペースで周回できたことが勝利を手繰り寄せた。石浦宏明監督は「そこは仁嶺の頑張りと、エンジニアの昨日(第4戦)からの修正が実ったところですね」と振り返る。
早めにタイヤを交換したライバルがアンダーカットを狙う中、福住はレース後半まで粘り、ステイアウトを続けた。牧野任祐(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)や坪井翔(VANTELIN TEAM TOM’S)がフレッシュタイヤに履き替えてプッシュしている時は石浦監督も「心臓バクバク」だったというが、“ガーディアン”(守護者)としてチームを支える大嶋、そして木谷彬彦エンジニアとピットウォールで話し合う中で、このままのペースであれば勝機があると確信し、落ち着きを取り戻した。
一旦は岩佐にオーバーテイクを許した福住だったが……
写真: Masahide Kamio
そしてレース終盤、トップをキープする福住は岩佐歩夢(TEAM MUGEN AUTOBACS)と太田格之進(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)に接近される苦しい展開に。残り6周で岩佐に抜かれ万事休すかと思われたが、岩佐がオーバーテイクシステム(OTS)を使えないタイミングでOTSを使い返し、ホームストレートで見事逆転した。レスダウンフォースのセッティングも、ストレートでの追い抜きに間違いなく寄与したはずだ。
石浦監督も、自身が現役時代に山本尚貴がレスダウンフォースのコンセプトで速さを見せていたことから、鈴鹿でそれが機能し得ることを理解していたが、それを実際に自分たちのマシンに落とし込むことは容易ではない。「それを狙っても普通は(S字区間の)セクター1が遅くなっちゃうので、なかなかモノにできません。そこはエンジニアが頑張ってくれて、良いバランスを見つけてくれたことも大きいですね」と言う。石浦監督と同じく2度のシリーズチャンピオン経験者である野尻智紀(TEAM MUGEN AUTOBACS)も、「今の自分たちのコンセプトでは間違いなく成り立たないです」と話していた。
大嶋は昨年、14号車は高速域での車両姿勢の制御にも強みがあると語っていた。その強みを活かしながら、レスダウンフォースでもうまくグリップを確保できていたということだろうか。野尻も「ダウンフォースがなくてもタイヤが接地しているということですよね。路面にはタイヤしか接地してしないですから、大事なのはそこ。そういったところがうまく処理できているから、レースでもあれだけ走れるんでしょうね」と分析する。
チームに宿る全員野球の精神
今季スーパーフォーミュラの主役たちとのバトルを制して、見事勝利した福住。第2戦にしてチームに初表彰台をもたらし、第5戦(事実上の4戦目)には初ポールと初優勝に届いてしまった。石浦監督も「こんなに早く結果が出るとは」と驚いた様子だった。
「メカさん、エンジニア、ドライバーのみんなが『もっと、もっと』という気持ちで努力を続けてきた結果ですね」
“ガーディアン”大嶋と抱き合う
写真: Masahide Kamio
たとえエンジニアとドライバーが良いセットアップを見つけたとしても、メカニックが高い精度で車両を組み上げ、セット変更に対して一貫性、再現性のある挙動を見せる車両に仕上げることができなければ、パフォーマンスは出せない。チームはそのことを強く認識し、ファクトリーでの組み付けに人一倍気を遣ってきた。まさにドライバー、エンジニア、メカニックが三位一体になった結果の勝利と言える。
もっと言えば、マシンのパフォーマンスアップだけでも勝てない。スタートでストールしないためのクラッチ・スロットル等の諸設定、ピットでのタイヤ交換作業、車検違反やマイナートラブルを回避するための管理体制……これらを徹底しないと、レースには“勝てるマシン”を蹴落とす落とし穴がいくつもある。特にリソースや経験の限られた新参チーム、小規模チームはその落とし穴に足をすくわれやすい。
ROOKIE Racingも、第1戦の予選で4番手タイムを出した福住が最低重量違反で失格になるというエラーを喫している。しかしチームはそこから立ち直り、今回ミスなく福住を勝利に導いた。
石浦監督は全てにおいてミスなくレースウィークを戦うことは簡単ではないとしつつも、チームオーナーである“モリゾウ”こと豊田章男トヨタ会長が、「ミスを責めない」風土、そしてスタッフが安心して戦えるポジティブな空気を作り出していると語る。
「僕たちROOKIE Racingはアットホームだとよく言っています。そう言っているだけじゃないかと思われるかもしれませんが、本当に家族的です」
第2戦で表彰台を獲得し、チームに笑顔で迎えられる福住
写真: Masahide Kamio
「モリゾウさんが『いつも“ありがとう”と言えるチームにしよう』とか、『ミスは絶対起きるから、みんなで防げばいい』といったことを言ってくれるおかげで、みんな安心してやれています。全員でやるチーム、というところが徹底できていると思います」
また石浦監督は、“全員野球”を象徴するエピソードとして、福住がポールを獲得した第5戦の予選でのエピソードを披露した。
「今日の予選のQ1からQ2にかけて、仁嶺がセット変更をしたいと突然言い出したのですが、時間的に間に合わないということで諦めかけていました」
「でもメカさんが無線で『最初のアウトイン(※)をやらなければ間に合うよ』と言ってくれました。それで仁嶺が『アウトインしなくて良いからやってほしい』と言い、急いで組み替えが始まりました」
※アウトラップ1周だけでピットインすること。予選開始直後に行なうことで、コースコンディションのチェックや、ブレーキの熱入れなどに活用する。
PPを獲得し喜ぶ福住
写真: Masahide Kamio
「つまり、メカさんも勝つためにアイデアを出して、レースに参加しているんです。監督、ドライバー、エンジニアだけでやっているわけじゃないんです」
表彰台、ポールポジション、そして優勝……。今シーズン前半戦だけで、これまで達成できていなかった大きなマイルストーンを3つも達成してみせたROOKIE Racing。次の目標はと石浦監督に話題を振ると、「……もう自動的ですよね(笑)」と笑顔を見せる。言うまでもなく、シリーズチャンピオンだ。
「自分も初優勝した年に初チャンピオンでした。あの時、優勝するまでは公言するのが恥ずかしくて言わなかったのですが、優勝すると公言できるようになるので」
ここまで4レースを終えて、福住はランキング3番手。シリーズチャンピオン獲得も、決して絵空事ではない。
写真: Masahide Kamio
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