分析
スーパーフォーミュラ 第6戦・第7戦・第3戦富士
岩佐歩夢、スーパーフォーミュラ連覇に黄信号。「パフォーマンスはすごく高い」と小池エンジニア……しかし“噛み合わなかった”前半戦
スーパーフォーミュラで岩佐歩夢を担当する小池智彦エンジニアは、岩佐のタイトル獲得はかなり厳しい状況になったと認める一方で、今季のパフォーマンス自体は非常に高いものがあると語った。
戎井健一郎
公開日時: 2026/07/20 9:47
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Ayumu Iwasa, TEAM MUGEN AUTOBACS
写真:: Masahide Kamio
土日で3レースが行なわれた7月のスーパーフォーミュラ富士ラウンドは、太田格之進(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)が2勝を記録。岩佐歩夢(TEAM MUGEN AUTOBACS)は太田に次ぐランキング2番手の座を辛うじてキープしたものの、2年連続のシリーズチャンピオンには黄信号が灯る結果となった。
岩佐にとっては3レース全てで流れを引き寄せることができなかった。土曜の第6戦ではウエット路面の予選で22番手と大苦戦し、ドライの決勝では本調子を取り戻して追い上げるも10位。中止となった第3戦オートポリス戦の代替レースはポールポジションながらスタート失敗し、中団に飲まれたことで1コーナーでの事故に巻き込まれリタイアした。第7戦も6番手スタートから浮上叶わず、5位に終わった。
3戦で表彰台を1度も獲得できなかった岩佐。選手権リーダーの太田との点差は50.5ポイントまで開いた。ここから岩佐が2戦連続でポールトゥウインを飾り、太田が2戦連続でノーポイントに終わってもまだ逆転できない……それほど大きな差である。そして残りは5レースしかない。
レースレポート:
岩佐を担当する小池智彦エンジニアも、「チャンピオンシップを考えると、だいぶ厳しい。正直無理かな」と冷静かつ率直に語るが、自分たちのパフォーマンスの高さについては確かな手応えを持ち続けている。タイトルを獲得した昨シーズンもそうであったが、今季のTEAM MUGENの1号車(昨年までの15号車)は、ドライバー・チームのパッケージとしてのポテンシャルを活かし切れない、いわゆる“噛み合わない”レースが続いたことでポイントを多く落としている。
Ayumu Iwasa, TEAM MUGEN AUTOBACS
写真: Masahide Kamio
「今年は15号車としてはすごくパフォーマンスが高いと思っています」と小池エンジニアは言う。
「3年目で熟成してきた部分もありますし、タイヤの理解もすごく深まってきていて、かなり手応えのある状態です」
「今回の富士も実力の部分も多少ありますが、正直パフォーマンスが悪くてこうなっているわけじゃない、しょうがない部分もあるかなと個人的には思っていて、あまり悲観していません」
「ただチャンピオンシップを考えるとだいぶ厳しく、正直無理かなと思いますが、後半戦全部勝てるようにしたいです。これだけ流れが悪いのなら、去年のように後半はもうちょっと良い流れになるんじゃないかと思います」
噛み合わないレースが続く
優勝0回、表彰台2回に終わっている岩佐の今季ここまでの7戦を、小池エンジニアの証言も踏まえながら振り返っていく。
ポールポジションを獲得したもてぎでの第1戦は、雨が強く降る中、セーフティカー(SC)リスタートの際に太田にオーバーテイクを許して2位に終わったが、この際岩佐はエンジンが吹けない症状が出ていたと話していた。実際、吸気口からエンジンに雨水が侵入したことで、一部ドライバーに失火のような症状が起きていた可能性が高いと言われている。
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Ayumu Iwasa, TEAM MUGEN AUTOBACS
写真: Masahide Kamio
3番グリッドからスタートした翌日の第2戦は、マシンの挙動に異常を感じた状態での走行となり8位に終わった。後に岩佐は、車両のとある箇所に異常が起きていたことが分かり、その対策を行なったと説明している。
オートポリスでの第3戦は、予選でポールポジションを獲得するも、決勝は悪天候で中止に(後に富士ラウンドに振替)。小池エンジニアは「あのレースが2周で終了になれば(レース成立の条件をクリアして)優勝でしたし、もし通常通りレースができていればかなり自信がありました」と悔しがる。
鈴鹿での第4戦はポールトゥウインは確実かと思われたが、突然降り出した雨に翻弄された。岩佐はタイヤを発動させられずSCリスタートでポジションを落としたばかりか、他の上位陣と同じくウエットタイヤに交換する判断が裏目に出て(結果的にスリックタイヤでのステイアウトが正解だった)、ポイント圏外でのフィニッシュとなった。翌日の第5戦は福住仁嶺(NTT docomo business ROOKIE)と最後まで優勝を争い2位だった。
そして迎えた富士ラウンド。第6戦はウエット路面の予選での苦戦が全てだったと言える。岩佐は、今回のような雨量がかなり少ない中でウエットタイヤを履いている状況や、上述の鈴鹿戦のような小雨×スリックタイヤといったイレギュラーな状況では全くパフォーマンスを出せていないと語る。
これは岩佐車の唯一のウィークポイントとも言えるかもしれないが、小池エンジニアは車両セットアップのコンセプトが関係していると話す。「そういう(コンディションへの)対策をしちゃうと、逆にドライでのグリップのピークがなくなってしまう方向性ではあります。我々のクルマはだいぶ尖ってるんで」と彼は言う。
Ayumu Iwasa, TEAM MUGEN AUTOBACS
写真: Masahide Kamio
もしダンプ路面のイレギュラーなコンディションにピッタリ合った車両を作り上げるには、セットアップのコンセプトごと“ガラチェン”する必要があるという。それは時間の限られたレースウィークでは容易なことではない。
それに、セッション中にそのダンプ路面が最後まで続くという保証もない。すぐにドライ路面になるかもしれないし、むしろ雨量が増えてフルウエットになるかもしれない。そんな予測不可能な中で特定の狭い領域のコンディションだけに特化したセットアップの合わせ込みをしていくのは、メリットよりもリスクの方が大きいというのが小池エンジニアの判断のようだ。
「その点太田選手のクルマはいかなるコンディションでも力を発揮できています。それがスーパーフォーミュラでは大切だと思っていますが、とはいえ我々がそっちの方向性に振ったら、ピークがなくなって終わるんだろうなと。現状のコンセプトだと厳しい部分もあるかなと思います」
「原因はなんとなく分かっているのですが、それを対策すべきかという点は、難しいところですね」
第3戦はスタート直後のアクシデントに巻き込まれる
写真: Masahide Kamio
逆に翌日の第3戦の代替レースは、スタートでアンチストールに入ってしまったことが全てだったと言える。スーパーフォーミュラにおけるスタートは、ドライバーの技量というよりはコンディションに合わせた各種設定をいかに合わせ込むかが成否の大多数を占めると言われるが、小池エンジニア曰く、富士で行なわれた事前のテストではかなりスタート練習をやりこんで手応えを掴んでおり、「攻めた」設定にしていたのだという。
「テストでは間違いなく自分たちが1番スタート練習をしていました」
「かなりデータをとれたので、すごく自信がありました。昨日のレース(第6戦)もスタートがすごく良かったです。今日(第3戦)はストールという形になってしまいましたが、第7戦に向けてはすごく自信があったので、SCスタートになってしまったのは残念でしたね」
小池エンジニアの言うように、第7戦はオイル処理の影響でスタートがディレイされ、SC先導からスタートが切られる形となった。6番手の岩佐は、レース前半の14周でピットインしてアンダーカットを狙ったが、後半は自身よりも先にピットインしていたチームメイトの野尻智紀に行手を阻まれる格好となる。
フォーメーションラップで佐藤蓮のマシンから出たオイルを処理
写真: Masahide Kamio
小池エンジニアは言う。
「戦略でなんとかしたいと思っていました。みんな引っ張る手配をしていたので、野尻選手の後ろになるのは覚悟で、早めで入る方針にしました。大湯選手(大湯都史樹(SANKI VERTEX PARTNERS CERUMO・INGING)の前になんとか出られたので、野尻選手を抜ければ勝つチャンスがあったと思いますが、タイヤの問題もあり、結局(終盤まで)抜き切ることができませんでした」
セカンドスティントは原因不明のタイヤのバイブレーションにより、岩佐のペースは上がり切らなかったという。こういった症状は他のドライバーも悩まされており、牧野任祐(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)も「タイヤを替えてこんなにフィーリングが変わるのか、というくらいフィーリングが変わります。そこをちゃんと理解し切れていない」と話している。
結果的に、レース最終盤に野尻を交わして5位でチェッカーを受けた岩佐。野尻に対してはチームから「ペース上げられそう?」「岩佐の方がすごくペースが良いからね」といった無線が飛んでいたが、チームオーダーが出されることはなかった。
小池エンジニアとしては、チームの判断には納得しているとした上で、個人的にはチームオーダーを期待していたとも認める。「僕としてはチームの判断に従うだけですが、いちエンジニアとしては前に出してもらえれば勝てるチャンスがあると踏んでの戦略だった」という。
3度のポールを獲得し、予選ポイントだけで12ポイントを稼いでいることで、ランキング2番手の座を守っている岩佐。もしスーパーフォーミュラに予選ポイントが存在しない場合、6番手まで後退する計算となる。現状は“ランキング2位争い”の渦中にあるという形だが、残る5レースで太田の背中を捉えることはできるだろうか。
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