F1 カナダGP

パワーユニットがガラッと変わる2026年F1新規則は、復帰のホンダにとっても「かなりの痛手」。しかし“ゼロスタート”の第3期、第4期とは違う

パワーユニットの新規則が導入される2026年からF1に本格復帰するホンダ。既に開発もスタートしているが、現行PUでアドバンテージを誇っていたホンダにとっては、痛手となる規則変更も多いようだ。

戎井健一郎

編集: 2023/06/29 11:24

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Tetsushi Kakuda, Honda F1 project leader

 F1では2026年より、新規則の下で新たなパワーユニット(PU)が導入される。電動パワーの比率が大幅に高められるなど、現行PUとは大きく異なるものになるとされているが、この新型PUを開発して2026年からのF1に本格復帰するのが、日本のホンダだ。

 ホンダは2021年を最後にPUサプライヤーとしてのF1活動を終了。ただ、翌2022年から2025年までは新規則導入までのインターバルとしてPU開発が凍結されていることもあり、ホンダは現在も子会社のホンダ・レーシング(HRC)による技術支援という形で、引き続きレッドブルとアルファタウリに対してPU供給を行なっている。

 そして2026年以降のPUメーカーとして製造者登録を済ませたホンダは、アストンマーチンと手を組んでF1に復帰することを発表。新規則下のPUを開発し、成長著しいアストンマーチンにワークス供給することになる。

 そんな2026年からのF1プロジェクトを指揮するラージプロジェクトリーダー(LPL)の役割を担うのが、HRCのエクゼクティブ・チーフエンジニアである角田哲史だ。角田LPLはホンダの研究開発拠点であるHRC Sakuraで取材に応じ、ホンダが開発していく新規則下のPUについて説明した。

 特に大きく比率が上げられる電動系においては、熱エネルギーを回生するMGU-Hが新規則下では廃止されるため、運動エネルギーを回生するMGU-Kにこれまで以上に大きく依存することとなる。しかもMGU-Kの最大出力は120kWから350kWに大幅増。エナジーストア(バッテリー)への回生エネルギーの入力も1周あたり2MJから9MJへと大幅に増えることになる。しかも、上記電動系の収納サイズ位置も安全上の理由で新規則では指定されることになり、サバイバルセル(モノコック)中の定められた”ボックス”の中に一括して収納しなければいけなくなった。

 これらの変更により、大型化が避けられないMGU-Kやエナジーストアを車体にうまくパッケージングしつつ、発熱や劣化を抑えながら、最適な形で回生エネルギーのデプロイメント(放出)ができるようにしなければならない。

 またエンジン系においては、燃料がカーボンニュートラル燃料となることが大きなトピックとして挙げられるが、その他にも使えるエネルギー量が従来比で約30%制限されたり、最大圧縮比が18から16に下げられたりと、様々な変更がなされている。これは、“高速燃焼”を武器に高い熱効率を誇っていたホンダのICEにとっては向かい風となっているという。

「我々はこれまで、高速燃焼によってICEの力を出すと言ってきましたが、高速燃焼は圧縮比が高いことで(燃料が)より自着火しやすい環境を作っています」と角田LPLは言う。

今季は“Honda RBPT”製PUを積むレッドブルが圧倒的な強さを見せる

今季は“Honda RBPT”製PUを積むレッドブルが圧倒的な強さを見せる

Photo by: Glenn Dunbar / Motorsport Images

「ただ(レギュレーション改定により)圧縮比が下がったり燃料流量が少なくなると、それが出しにくい状況になりますので、すぐに従来と同じように燃焼させることはできません。これは我々にとってひとつの大きなチャレンジとなります」

「我々としては高速燃焼を、与えられた環境でもう一度作り出したいと思っています。ただ物理的にそれが弱体化することは避けられないので、色々な燃焼形態をトライしている最中です」

 また高額なセンサーの使用が禁じられたり、共通部品の点数が増加することも、ホンダにとっては「案外首を絞める部分」だと角田LPLは話す。

 これまで、シリンダー内の圧力センサーをうまく活用してエンジン制御をしていたホンダだが、このセンサーは非常に高価であり、新規則下では使えなくなる。そのため、制御系に関しては再考が必要だという。インジェクター(燃料噴射装置)も共通部品化によって従来とは異なるメーカーのものを使用しなければいけない可能性が出ており、そうなると異なる噴霧の形態に適応させる必要があるため、ひとつ宿題が増えることになる。

 現行PUにおいてはレッドブルに搭載され、圧倒的な強さを誇っているホンダ/HRC製PUだが、新規則においてはこれらのようにチャレンジングな部分が多い。質疑の中でも、2026年からの規則はホンダのアドバンテージを削るようなものなのではないかと言う質問が飛んだが、角田LPLは「(F1側が)そういう認識でやっていたのかは分かりませんが……(笑)」と苦笑しつつも、「我々としてはかなり痛手ですね」と話した。

 2021年限りでのF1撤退を発表してから約3年弱で復帰を発表したホンダは、2026年型PUの開発をいち早くスタートさせた既存メーカーに対しては一歩遅れていると言えるかもしれない。しかし今回の彼らは“ゼロからのスタート”ではない。2021年限りでF1活動を終了させ、開発部隊が解散した後も、電動系のキーパーソンを中心に一部メンバーが研究等を続けてきたという。これは2000年からの復帰時(いわゆる第3期)や2015年からの復帰時(いわゆる第4期)とは大きく異なる点だ。

“第4期”終了後もPU関連の研究を続けていたホンダ

“第4期”終了後もPU関連の研究を続けていたホンダ

Photo by: Honda

 角田LPLは次のように語る。

「他のメーカーは、2022年のPUがホモロゲーション(開発凍結)された時点で、2026年に向けてまっしぐらなはずなので、その分の遅れは取り戻さないといけないと思っています」

「ただキーとなるバッテリーやMGU-Kの駆動系に関しては、基礎研究をさせていただく予算は確保できていたので、ポイントは分かっていました。独自にテストをしてきたので、方向性は見えていた、というステージからスタートできていると思います」

「第3期も第4期も、ゼロからのスタートという点にものすごいエネルギーをかけないといけなかった中で、(2026年は)ある程度の基準からスタートできることは大きいと思います」

 現在は単気筒エンジンを使っての燃焼テスト、2021年型V6エンジンをベースにしたMGU-Hのないエンジンのテスト、そして350kWを発生させる新しいMGU-Kのテストなどを実施しているというホンダ。「MGU-Kはできました。バッテリーセルも良いところまで来ました。あとはハイブリッドシステムとして形にするステージにいます。年内に合体できるといいですけどね」と角田LPLは笑顔を見せた。

 

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