F1がPUのグリッド降格ペナルティシステムにこだわるワケとは?……コスト削減と開発抑制がカギ

2021年のF1タイトル争いも残すところ5戦。ルイス・ハミルトン(メルセデス)とマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)はここまでの戦いの中で、すでにパワーユニット交換によるペナルティを受けてきた。

F1がPUのグリッド降格ペナルティシステムにこだわるワケとは?……コスト削減と開発抑制がカギ

 全22戦で行なわれる2021年のF1も残すところ5戦。今季のタイトルを争う中で、ルイス・ハミルトン(メルセデス)とマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)は既にパワーユニット(PU)のコンポーネント交換によるグリッド降格ペナルティを受けている。

 今後ふたりのうちどちらかが追加のPU交換を行なうことになれば、接近するタイトル争いの行方が大きく左右されるだろう。

 一部では批判の声も挙がっているが、F1にPU交換によるグリッド降格のペナルティシステムが存在しているのには、それなりの理由がある。各PUサプライヤーがシーズン毎に製造するコンポーネント数を制限することによるコスト削減に加え、各コンポーネントのピークパフォーマンスだけでなく、寿命を長くするように開発を促すためだ。

 仮にこうしたコスト面での管理が行なわれていなければ、現在F1にいるメーカーは参戦していなかったかもしれない。そして、PUサプライヤー間のパフォーマンス差も大きくなっていたことだろう。

 そのため、グリッド降格のペナルティシステムは不評ではあるが、必要悪として捉えるべきなのかもしれない。

 実際、F1ではかなり前から同様のペナルティシステムが導入されている。F1がV8エンジンを使用していた時代の後半には、1シーズンに使用できるエンジンが8基に制限するレギュレーションを追加。9基目のエンジンを投入すると、グリッド降格ペナルティが科された。

 ただ、このペナルティは適用されることがほとんどなかったのも事実。V8時代にエンジン交換によるペナルティを受けたのは、フェリペ・マッサ(当時フェラーリ/2010年シンガポールGP)とルーベンス・バリチェロ(当時ウイリアムズ/2011年アブダビGP)、そしてシャルル・ピック(当時マルシャ/2012年韓国GP)だけだった。

 V8時代の最終年、2013年は誰ひとりとして9基目のエンジンを使用することはなかった。

 F1は2014年にV6ターボハイブリッド、つまり現在のPUを導入した。PUは、ICE(内燃エンジン)とターボチャージャー(TC)、運動エネルギー回生システム(MGU-K)、熱エネルギー回生システム(MGU-H)、エナジーストア(ES)、コントロール・エレクトロニクス(CE)と6つの複雑なコンポーネントで構成されており、開発コストもそれに応じて格段に跳ね上がった。

 2014年は導入初年度ということもあり、1シーズンに使用できるPUは5基。PU開発の未熟さと信頼性のトラブルに各PUサプライヤーは頭を悩ませたものの、グリッド降格ペナルティを回避するためにかなり良い働きをしたと言える。

 ハイブリッド時代でのグリッド降格ペナルティ、最初の犠牲者はダニール・クビアト(当時トロロッソ)だった。イタリアGPで6基目のPUを投入した彼に続き、パストール・マルドナドとロマン・グロージャン(共に当時ロータス)、ジャン・エリック・ヴェルニュ(当時トロロッソ)、セバスチャン・ベッテル(当時レッドブル)、クビアト(シーズン2度目)が2014年シーズンでグリッド降格ペナルティを受けた。いずれもルノーPUユーザーだった。

 PU導入から2年目の2015年には、ふたつの大きな出来事があった。まず、1シーズンで使用できるPUが4基へと制限されたこと。そしてマクラーレンのPUサプライヤーとしてこの年に参戦したホンダ製PUの信頼性が絶望的に低かったことだ。

 マクラーレンと共にホンダはPUの超小型化を目指し「サイズゼロ」というコンセプトを掲げ開発を行なったものの、シーズン開始前のテストからパフォーマンス不足に加え信頼性のトラブルが続発した。

 彼らは開発を進めるべく、積極的にPUを交換するという戦略を採った。結果として、グリッド全体でペナルティ適用がわずか6件だった2014年から、翌年は37件へと跳ね上がった。当時マクラーレンに在籍していたフェルナンド・アロンソとジェンソン・バトンはシーズン通算で12基ものPUを使用。その年のメキシコGPでは、バトンに55グリッドもの降格ペナルティが科されていた。

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 2016年シーズンは全19戦から21戦にまでカレンダーが拡張されたことで、1シーズンで使用できるPUは5基までに増やされたため、ペナルティ適用数も減少した。2017年には再び4基へと戻され、ペナルティが科されるドライバーが増えた。さらに2018年以降は、ICEとTC、MGU-Hが3基、MGU-KとES、CEが2基へと更に制限が強化された。

Valtteri Bottas, Mercedes W12

Valtteri Bottas, Mercedes W12

Photo by: Steven Tee / Motorsport Images

 PUが導入されてから8年目を迎えた2021年シーズン。各PUサプライヤーは、ペナルティを最小限に抑えつつ全22戦を最後まで走り切るべく限界に挑戦している。当初苦戦していたホンダも信頼性とパフォーマンスの両面で、F1のハイブリッド時代を支配してきたメルセデスに引けを取らないPUをレッドブルへ供給。対するメルセデスはICEに信頼性のトラブルを抱えており、交換によるペナルティ適用が増加している。8人のメルセデスPUユーザーのうちペナルティを受けていないのは、ランド・ノリス(マクラーレン)とランス・ストロール(アストンマーチン)の2名だけだ。

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 PUに関するグリッド降格のペナルティシステムはドライバーやチームを始め、F1ファンをも度々苛立たせてきたが、究極の問題は誰も代替案を思いつけないことにある。

「PUのペナルティシステムは、かなり健全なモノになっていると思う」とメルセデスのチーム代表を務めるトト・ウルフは語る。

「最大限のパフォーマンスが出せるが、(寿命が)数レースの間だけというPUの開発を避けることになるからね」

「仮にドライバーへのグリッド降格ペナルティを廃止し、コンストラクターズポイントだけにペナルティを適用するレギュレーションに変更しても、ドライバーズタイトルを争うチームは、彼らのマシンにPUを投入し続けるだろう」

「(ペナルティシステムに代わる)解決策を思いつけば、確実に検討する価値はあると思う。ドライバーの責任ではないのに、PUのペナルティで最後尾、もしくは10か5グリッド下がってしまうのは、新規のファンにとってはややこしいことだ。明らかに優れているとは言い難いが、私は他に解決策を持ち合わせてはいない」

 現在のPUに関するグリッド降格ペナルティシステムには、ペナルティが緩和される例外もある。それぞれ規定数を超えたコンポーネントを初めて使用する場合には、交換ごとに10グリッド降格ペナルティが科されるが、それ以降に同じスペックのものを追加投入する場合は5グリッド降格で済むのだ。

 この例外は、ホンダがPU開発に苦戦していた際に信頼性トラブルに起因したペナルティの乱発を軽減するために導入されたものだった。しかし現在では、ライバルがPUの寿命を引き伸ばす中、比較的少ない犠牲で新しいPUコンポーネントをシーズン後半に投入するという戦略的な使われ方をされるようになった。

「あれは、かつてのホンダの名残だ」とウルフは言う。

「PUコンポーネントやPU一式を交換せざるを得ない状況に陥った際、レースの度にペナルティが科され最後尾や10グリッド降格まで下がるのは間違っているということだ」

「つまり、恥ずかしい思いをさせないためのレギュレーションというワケだ。私はこれで良いと考えているが、将来的にどうするのかを検討する必要はあるだろう。今年はそれが仇となっている」

 また、マクラーレンのチーム代表を務めるアンドレアス・ザイドルは、現在のペナルティシステムは過度な開発とパフォーマンスを抑制する論理的な手段であるとウルフに同意している。

「もちろん、ペナルティがあるのは理想的ではないという指摘は聞いている」とザイドルは言う。

「ただ正直なところ、この問題に対する簡単な解決策は見当たらない。例えば、PUの規定数を3基から4基にしようとすると、その分PUを使ってしまうので結果的に5基目を投入してしまうだろう」

「結局のところ、PUメーカーやF1チームが互いに激しく争っているため、持てる技術を限界まで、あるいはそれ以上にプッシュしてしまう。その結果、問題やトラブルが発生してしまうというのだ。今はそれを受け入れて、前へ進むしかない」

 そして、唯一ルノーPUを使用するアルピーヌのマルチン・ブコウスキーはメーカーがPUのペナルティシステムを”活用”することはできるが、実際には無意味だと語る。

「結局のところ、一定の走行距離を走れるようにPUは設計されるモノではある」と彼は言う。

「3レースだけをこなせるPUを設計し、3レースごとにPUを交換しても、レギュレーション上では大量のペナルティを被るだけであり、問題はない。ただ、シーズンを通してのチャンピオンシップという観点から見ても、おそらく有利には働かないがね」

「(PUのペナルティシステムは)もちろん、コストのために存在している。ペナルティ覚悟でPUの寿命を削ったり、パフォーマンスを向上させたりする設計を妨げることはない」

 ブコウスキーには短期間ではあるもののFIAで働いた経験があり、ペナルティシステムの代替案について研究する機会があったため、この件に関し興味深い見解を共有してくれた。

Marcin Budkowski, Executive Director, Alpine F1

Marcin Budkowski, Executive Director, Alpine F1

Photo by: Charles Coates / Motorsport Images

「グリッドペナルティを嫌う人もいるし、それのファンだという人にも会ったことはない」と彼は続ける。

「F1チームにも、反対にFIA側にもいたこともあり、私は現在のモノよりも良い代替案を何年も考えていたが見つけられていない。代替案はゼロではないが、少なくとも今よりも悪いモノだ」

「もし、(PUコンポーネントの規定数がそれぞれ)3基と2基ではなく、4基と3基だったら、ペナルティはかなり減少するだろう。ただ同時に、PUを設計する人たちはリスクを取り、5基目のPUに手を伸ばすことになるのではなかろうか? これでは堂々巡りだ」

「だから、どこかで線引きが必要になる。議論の余地はあるが、ペナルティが少なくなるだろうから、4基と3基の方が今シーズンには合っているかもしれない」

「規定をどうするか、F1委員会やその手の機関の中で議論する必要がある。今、PUの使用数を増やすということは、全員にとってコスト増加を意味するのだ」

 PUのペナルティシステムの策定に携わったひとりであり、現在FIAのレースディレクターを務めるマイケル・マシは、それに代わる案についての正式な議論は行なわれていないと主張している。

「いや、行なわれていない」と彼は言う。

「全チームが同じレギュレーション下でレースを行なっており、彼らはPUやギヤボックス、その他の様々なリソースをどれだけ使えるかを今年の初めから知っている」

「何をすべきかという点では、皆同じ理解度にある。タイトル争いをしているチームを始め、どのチームもPUや空力のアップデートなど何が何でも優位に立とうとするものだ」

 PU交換によるグリッド降格ペナルティは明らかに理想的なシステムとは言えず、妥協の産物であることは確かだ。仮にハミルトンとフェルスタッペンのタイトル争いが、コース上のバトルではなくこのペナルティによって決まることがあれば、さらなる不評を招くことになるだろう。

 ただ、パーツコストと開発の抑制という重要な課題をクリアできる代替案が提示されるまでは、F1はこのペナルティシステムに頭を悩ませることになるだろう。

 
 
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