F1分析|わずか3秒……ハミルトンのピットストップを躊躇させた、レッドブルの執念

F1アブダビGPのレース終盤、ハミルトンはピットストップできず、これが敗戦に繋がった。そこには、レッドブルの執念が効いていた。

Sergio Perez, Red Bull Racing RB16B, Lewis Hamilton, Mercedes W12 battle for track position with Max Verstappen, Red Bull Racing RB16B

 F1最終戦アブダビGPで衝撃的な敗戦を喫したルイス・ハミルトンとメルセデス。これはただの”敗け”ではなく、ハミルトンの単独での史上最多8回目のドライバーズタイトル獲得を逃す、大きすぎる1敗だった。

 ハミルトンは予選でこそタイトル争いのライバルであるマックス・フェルスタッペン(レッドブル)にポールポジションを奪われたが、スタートで首位に躍り出ると、その後はフェルスタッペンを寄せ付けず、まさに横綱相撲といった感じでレースを支配した。

 しかし最終盤にセーフティカーが出動。ハミルトンはピットに入らず、走行を続けることを選択。一方で2番手のフェルスタッペンはピットインし、ポジションを落とすことなく新しいタイヤに履き替えた。そしてセーフティカー中にハミルトンとフェルスタッペンの間にいた周回遅れのマシンは、リードラップに戻されたため、ハミルトンの真後ろにフェルスタッペンが迫った。そして残り1周でレースは再開……使い古したタイヤを履くハミルトンは必死の抵抗を見せたが、フェルスタッペンがオーバーテイクを完了させ、そのままフィニッシュ。フェルスタッペンは今季10勝目、そして2021年のF1ドライバーズタイトルを獲得した。

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 ニコラス・ラティフィ(ウイリアムズ)のクラッシュにより、残り6周という段階でSCが出動した時、ハミルトンが首位、その後方11秒のところをフェルスタッペンが走っていた。

 SC出動時のピットストップのロスタイムは14秒程度……つまりハミルトンはピットストップを行なえば、フェルスタッペンがステイアウトを選択したならば首位を奪われてしまう可能性が高いという位置関係だった。

 しかも厄介なことに、レース周回数は残り数周だった。もっと多くの周回が残っていれば、レースは間違いなく再開され、ハミルトンがピットストップしたとしても、使い古したタイヤを履くフェルスタッペンを攻略するのは簡単だっただろう。しかし今回の場合は、レースが再開されることはなく、SC走行のままチェッカーを迎えてしまう可能性もあった。そうなればハミルトンは敗戦……チャンピオンを取り逃してしまうということなったはずだ。

 ハミルトンは、フェルスタッペンとの差、そして残り周回数を考えれば、動くに動けないという最悪の状況だったわけだ。

 その結果ハミルトンはステイアウトを選択し、フェルスタッペンがタイヤを交換。2台の間にいる周回遅れのマシンだけをリードラップに戻すという物議を醸している判断が下された後、最終ラップでレースに再開された。そしてハミルトンは敗れたのだ。

 ただフェルスタッペンの側に立って見てみると、レッドブル陣営の”ふたつ”の戦略が効いていたということが言える。

 まずひとつ目は、セルジオ・ペレスにハミルトンを抑えさせたことだ。

 ソフトタイヤでスタートしたフェルスタッペンは、ミディアムタイヤでスタートしたハミルトンについていくことができず、13周でピットに戻り、ハードタイヤを履いた。ハミルトンはこれに反応し、翌周ピットインし、やはりハードに交換。ふたりの差は5秒となり、さらにその差は開いていった。

 レッドブルはここで総力戦を展開。ソフトタイヤを履いてスタートしたペレスは1回目のピットインを先送りにし、ハミルトンの前に立ちはだかった。ハミルトンがペレスの真後ろにおいついたのは19周目……ペレスのタイヤは、間違いなくかなり厳しい状態だったはずだ。しかしそこから必死のディフェンスを見せ、ハミルトンを抑え込む。その結果、10秒近く遅れていたフェルスタッペンが、ハミルトンの後方1秒まで迫ったのだ。つまりペレスは、9秒以上を稼いだということになる。

 ペレスが抜かれてしまった後、フェルスタッペンは自力に勝るハミルトンについていこうとするが、逆に再び差を広げられてしまう。そしてレッドブルは、ふたつめの策に出る。バーチャル・セーフティカー(VSC)が出動したタイミングで、フェルスタッペンを再びピットに呼び込み、新品のハードタイヤでハミルトンを追う戦略に出たのだ。

 フェルスタッペンはこのピットストップを行なったことで、ハミルトンから20秒弱の遅れとなってしまう。追いつくには1周につき1秒弱、ハミルトンより走らなければならなかった。

 その差は縮まっていくものの、前述の”1周1秒”には遠く、差が11秒台となってからは差が縮まらなくなり、これで勝負あったか……誰もがそう思った。しかし53周目にSCが出動……その後は前述の動きの通りだった。

 もしこのSCが出動した時、フェルスタッペンがあと3〜5秒程度後ろを走っていたならば、ハミルトンはピットに入り、ポジションを落とすことなく新しいタイヤに履き替えたことだろう。しかし、一時は無意味なように思われたレッドブル陣営の”ふたつの戦略”が報われ、ほんの僅かの差でハミルトンのピットインを阻止した。これが、勝利のみならずタイトルも呼び込むことになった。

 無駄かもしれないが全力を尽くす……レッドブル陣営の執念が実を結んだ。

 
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