コラム|予選から暫定グリッド発表まで4時間以上……”ペナルティパラダイス”が生んだ混乱へのシンプルな解決策とは?
モンツァを舞台に行なわれたF1イタリアGP。グリッド降格ペナルティが相次いだことで「決勝グリッドはどうなるのか?」と予選後はちょっとした混乱が起きていた。何が原因で、どう解決していくべきなのだろうか?
写真:: Zak Mauger / Motorsport Images
F1ではグリッド降格ペナルティが適用されるのは目新しいことではなく、比較的オーバーテイクが容易なサーキットを舞台に行なわれるベルギーGPとイタリアGPでは毎年、年間の使用数制限をオーバーすることを承知でパワーユニット(PU)やギヤボックスなどのコンポーネントを新規投入。後方グリッドから巻き返しを狙う。
コスト削減を図る一方で、シーズン後半戦はペナルティが乱発されるという一長一短のペナルティシステムについては賛否両論あり、議論は永遠に続くだろう。
ただパドックの意見が一致しているのが、ペナルティにより決勝グリッドの正式決定が遅れるのは、F1という近代スポーツにおいて良い印象を与えないということだ。
今回のイタリアGPでは暫定グリッドの発表まで4時間を要し、ソーシャルメディアでは”時代遅れの運営方法”だと怒りを向ける者もいた。
そこには意見の相違もあるだろうが、モンツァで起きた一件は今後に向けてどう改善すべきかという議論を再開させ、この冬に2023年シーズンに向けたFIAの動きを加速させる新たな推進力になるとmotorsport.comは見ている。
グリッド確定の遅れは、このスポーツに付きまとう大きな問題ではない。解決策はとってもシンプルだ。
モンツァの混乱
イタリアGPの予選セッションは現地時間16時過ぎに終了した。翌日の決勝レースでは20名の内9名がグリッド降格を受けることになっていたため、それがどのように適応されるのか……ドライバーやチーム、そしてメディアも決勝グリッドがどうなるのか、ハッキリしないまま途方に暮れることとなった。
予選上位だけでも、2番手タイムを獲得したマックス・フェルスタッペン(レッドブル)が5グリッド降格、3番手のカルロス・サインツJr.(フェラーリ)はグリッド最後尾、4番手のセルジオ・ペレス(レッドブル)は10グリッド降格、5番手のルイス・ハミルトンはグリッド最後尾と入り乱れた状況。ただ、その中でもフェルスタッペンは自身の決勝グリッドは7番手だと確信していた。
「僕は7番手だと思う。僕がバカじゃない限りね」とフェルスタッペンは言う。
「でも7番手だと思う……いや、7番手だ。ルールを読む必要があるね」
ただライバル勢は別の考えを持っていた。フェルスタッペンはサインツJr.とペレス、ハミルトンも後方に下がることで、4番手から決勝レースを迎えると予想するチームもいた。予選で10番手タイムを獲得したフェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)は、フェルスタッペンの予想と同じ7番手からスタートすると考えていた。
混乱はF1ドライバー間にも起き、アルファタウリのピエール・ガスリーはTwitterで次のように投稿していた。
「明日のレースで僕がどのポジションからスタートするのか、誰か教えてくれない?」
ジャーナリストや放送関係者は大胆にも決勝グリッドを予想したが、長い待ち時間を経て公式発表がなされると、修正を迫られることとなった。
結局、FIAがグリッドを発表したのは20時45分。しかもその10分後、FIAは”Final(最終)”という単語を”Provisional(暫定)”に変更した修正版を発表している。
モータースポーツの頂点であり、最先端のF1。そして人気が鰻登りとなっているこのスポーツで、ファンやドライバー、チームが決勝グリッドを知るまでに4時間近くも待たされるというのは、本来あるべき姿からかけ離れていると言わざるを得ない。
ペナルティ適用の仕組み
暫定グリッドの発表に時間を要した原因は、グランプリ運用に欠かせない厳しいレギュレーションとプロセスだ。
通常FIAはFOMが担当する公式タイミングデータを元に、一定のシステムに従って決勝グリッドを決定している(土曜日の夜、モンツァではFOMがFIAへのデータ提出が遅れたという声が聞かれたが、上級関係者はそれは噂に過ぎず、全てが通常通り処理されたと断言していた)。
車検が行なわれている間、FIAの担当者はレギュレーションに基づきペナルティの処理を行ない、グリッド順を確定する。F1の競技規則では、”グリッド最後尾以外の”ペナルティは予選順位で優先的に処理されることになっている。
そのペナルティ適用が終わった後、グリッド最後尾が決まっているドライバーのペナルティが処理される。グリッド最後尾のペナルティを受けるドライバーが複数名いた場合は、その中で予選タイム順に最後方からグリッドを確定する。
そしてグリッドの整頓が全て終了したところで、FIAのレーススチュワードがチェックと承認を行ない、最初の正式書類である暫定グリッドが発行されるのだ。
ただ関係者の話によると、モンツァでは予選後の数時間、複数のチームが次々とスチュワードにペナルティの適用方法について働きかけ、ドライバーのグリッド位置を上げようとしていたという。そのために、状況が遅々として進まなかったようだ。
Photo by: Zak Mauger / Motorsport Images
空白の問題
興味深いのが、FIAには土曜日のうちに決勝グリッドに関する情報を公開する義務はないということだ。土曜日の夜に普段発表されている暫定グリッドは、その名の通り最終版ではない。
F1の競技規則第42.4条にはこうある。
「スターティンググリッドはフォーメーションラップ開始予定時刻の最低4時間前までに発表される」
通常、多くのレースではペナルティ適用者は1〜2名程度。グリッド降格の処理は非常に簡単に済むため、FIAの文書を待つケースはそれほど多くない。
しかし、今回のモンツァのように9名がそれぞれにグリッド降格を受ける複雑な状況となると、FIAはより明確な答えを出す必要がある。
その答えが何時間も出ずに、決勝グリッドはどうなるのかとチームやファンの間で混乱が広がれば、そこはマクラーレンのアンドレアス・ザイドル代表が言うところの”空白”になる。
ザイドルは、今回の件を踏まえ、F1やFIAは話し合いを行なうべきだと指摘している。
Photo by: Steven Tee / Motorsport Images
「暫定グリッドがどのようなモノか確定していないという空白を避けるためにも、今回の件はおそらく議論すべき良いアイデアだと思う」
そうザイドルは言う。
「結局は暫定グリッドを発表することは大きな問題ではないから、議題として上げるべき良いアイデアだ。パルクフェルメが終わるのを待って、もう一度グリッドを確認すれば、みんなどう並ぶのかを早く知ることができる」
FIAのモハメド・ベン・スレイエム会長はイタリアGP終了後の9月12日(月)、F1のスポーティングマネージャーやオフィシャルを集め会議を開くことになっており、一連の混乱を受けてこの問題が議題として取り上げられる可能性がある。
問題への解決策
暫定グリッドの発表が遅れるというこの問題の解決策は、それほど複雑なモノではない。予選セッション終了時に、ペナルティ適用後のグリッド順を示す簡易的なアルゴリズムを組んでおけばいいのだ。
FIAはペナルティシステムの仕組みを熟知している。現在は、正式にグリッド降格が適用されるまで変動後の決勝グリッドは公開されず、ファンは予選終了直後に決勝グリッドを確認することはできない。
仮にドライバーそれぞれに科されたペナルティをレギュレーション通りに適用していくアルゴリズムがあれば、Q3終了直後に暫定結果を提示することは理論的に可能である。
もちろんこの時点で公開された暫定結果は拘束力を持たず、レース結果の暫定版と同様に、セッション後の車検をクリアする必要はある。
しかし、決勝レースに向けてどのようなグリッドになるかの目安を示すことで、モンツァで起きたような混乱は避けられるに違いない。
競技規則に少し手を加えるだけで、スチュワードが暫定グリッドをすぐさま提示できるようになる。理論上は形式的なモノであり、それがもたらすメリットは大きい。
新たな技術規定によりF1マシンがコース上で目論見通りの激しいバトルを繰り広げる今、コース外でのプロセスについても刷新していくことが求められている。
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