「見たか!」鈴鹿で快進撃をみせた阪口晴南、その胸の内に秘めた想いとは
2019スーパーGT第3戦鈴鹿で、後半怒涛の追い上げをみせGT300クラス優勝を飾った#96 K-tunes RC F GT3の阪口晴南。この快進撃の原動力に迫った。
写真:: Masahide Kamio
今シーズン、GT300クラスにデビューし3戦2勝の活躍を見せている#96 K-tunes RC F GT3の阪口晴南。特に第3戦鈴鹿での快進撃は目を見張るものがあったのだが、その裏には秘めたる想いがあった。
大阪出身の阪口晴南は鈴鹿サーキットレーシングスクール(SRS-F)を経て、FIA F4、全日本F3にステップアップ。昨年はスーパーフォーミュラ第2戦オートポリスにスポット参戦。予選Q1ではいきなり上位に食い込むタイムを記録するなど、周囲を驚かせた。残念ながら決勝は悪天候で中止。本人としては不完全燃焼のまま終わってしまう形となった。
その後、全日本F3で戦うも初優勝を飾ることができず、ランキング4位でシーズン終了。その当時は「(翌年は)ステップアップしたいなと思っています」と語っていたが、その願いは叶わず。ホンダの育成メンバーから外れ、全日本F3のシートも失うことになってしまった。
まさに失意の年末年始を過ごすことになった阪口。そこで導き出した新たな選択肢が“スーパーGTへの参戦”だった。2月にK-tunes Racingに加入しGT300クラスに参戦することが発表された時は、大きな話題となった。
異なるクラスとの混走やGT3マシンなど全てが初体験という状況の中、阪口はひとつずつ吸収していき、開幕戦の岡山ではいきなり予選2番手を獲得するパフォーマンスを披露。決勝では悪天候で途中終了となったため、自身の出番はなかったがチームは優勝を飾った。
#96 K-tunes RC F GT3
Photo by: Masahide Kamio
そして5月末に行われた第3戦鈴鹿では、後半スティントを担当。新田守男から2番手でバトンを引き継ぐと、誰よりも速いペースで追い上げを開始し、ゴールまで残り8周のところでトップの#25 HOPPY 86 MCをオーバーテイクし、優勝を飾った。戦略が違ったとはいえ、当初は20秒以上あったギャップを縮めていく走りは、会場を訪れたファンや関係者の印象に残るものだった。
「開幕戦で優勝した時は、自分は一度も走っていなかったので、(鈴鹿での優勝は)いい疲労感と達成感があるなと思っています」
「(自分のスティントでは)アウトラップもトラフィックがないところに出られたということもあって、いいアウトラップができたのかなと思います。その分、ちょっと(スティントの)後半は厳しくなるかなというのは頭に入れていたので、フルプッシュするというよりは80%~90%くらいでずっと走っていました」
「ラップを重ねるごとに(差の)詰まり方が大きくなっていったので、これは大丈夫だなと考えていましたし、あとはチャンスがきたら一発でパスしようと決めていました。ギャップが離れていくのは分かったので、落ち着いて走ることに集中しました」
後半スティントでの出来事を、このように振り返った阪口。こうしてコメントだけを読むと、簡単にやってのけたように見えるが、この走りを実現するために裏では想像を超える努力がなされていた。
#96 K-tunes RC F GT3
Photo by: Masahide Kamio
「今回のレースでも、組み立て方や戦い方について、僕とか影山監督と話をしていく中で、彼の中でも相当考えたのだと思います」
そう語るのは、阪口のチームメイトである新田守男だ。実はふたりの出会いは阪口がカートで活躍をしていた頃。「当時は本当に子供だった晴南と、まさかこうして一緒に組んで走るとは思ってもみなかったです」と、新田も改めてレーシングドライバーとして成長した阪口に感慨深い表情を見せた。
「彼は今年K-tunesに乗る前に……人生の中でおそらく初めて大きな辛い思いをして、色んな決断をしたなかで、うちのチームで一緒に戦うことになりました」
「晴南は自分の技術、特に経験が足りないということを(自分自身で)すごく理解しています。それを経験者から話を聞いて、どう取り入れようかというのをものすごく考えています」
「僕が知っている最近の若い子たちのなかでは、そういう部分を非常に素直に取り入れているドライバーだなと思いますね」
「今がこういう感じですから、おそらくこれからの成長の度合いも早いでしょうし、今後は僕とかではなくてトップドライバーと組むことでもっと大きなものを得ていくと思います。だから、早くK-tunes Racingを卒業して、GT500とかスーパーフォーミュラに乗ってもらえたらいいかなと思います」
阪口の貪欲な姿勢に対して感心していた新田。今後の彼のためにも、早く次のステージにステップアップして行くべきだと考えているようだ。
Photo by: Masahide Kamio
それを隣で聞いていた阪口は「褒められすぎて、どういう顔をすればいいか分かりません」と照れている様子もみせたが、改めて今シーズンの快進撃について訊くと、このような回答が返ってきた。
「スーパーGTは今年から参戦させていただいて、3戦して2勝できるとは思ってもみなかったですし、そんな簡単に勝てるレースではないということは十分に承知していました」
「その中で勝てたというのは……数ヵ月前、年末年始にちょっと挫折した時の自分からは考えられないような成績だな思います」
「でも、昨年の終わりに僕のことをダメだなと思った人たちに……『見たか!』と言ってやりたいですね」
普段は、ひとつずつ言葉を選んで、どちらかというと優等生的なコメントをすることが多かった阪口だが、この時だけは彼の“心の中にしまっていた本当の声”が聞こえてきたようだった。
それだけ、昨年末に彼の周りで起きたことというのは非常に大きなものであり、そこで感じた悔しさを今は力に変えて、このスーパーGTで戦っているのだという“秘めたる闘志”が垣間見えた瞬間だった。
その後、阪口はカローラ中京 Kuo TEAM TOM’Sから全日本F3の岡山ラウンド(第6~8戦)にスポット参戦を果たし、第7戦では3位表彰台を獲得。「得るものもすごく大きかった」と、結果以上に何か良い経験ができたという表情をみせた。
今週末には、スーパーGT第4戦タイを皮切りにシリーズは中盤戦に突入していく。3戦を終えて#96 K-tunes RC F GT3の新田/阪口組がGT300クラスのランキング首位に浮上している。
「これまでのK-tunesは勝つかノーポイントというレースが続いていて、得意なコースと苦手なコースがはっきりと分かれています。これからウェイトハンデ等もあって、厳しいレースが続くと思いますが、そこでもしっかりポイントを重ねるというのも、非常に大事だなと思っています」
そう阪口が語る通り、今週末の第4戦ではウエイトハンデが60kgに積み重なったこともあり、上位進出は難しいレースが予想される。しかし阪口が様々な経験を積んで、レーシングドライバーとして日々成長を遂げているのも確かだ。第3戦の鈴鹿から、さらに磨きがかかった彼の闘志あふれる走りに注目である。
#96 K-tunes RC F GT3
Photo by: Masahide Kamio
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