全てが実を結べばトップチーム入りも十分あり得る! アルピーヌF1、サフナウアー政権が取り組む地道な改善の数々

2022年はコンストラクターズランキング4位となり、今後はトップチームに近付くことを目指すアルピーヌ。昨年からチームに加入したオットマー・サフナウアーは様々な点でチームの改善を促そうとしている。

Jack Doohan, Alpine A522

 2022年シーズンのF1で、レッドブル、フェラーリ、メルセデスの“3強”に次ぐ戦闘力を持っていたチームの筆頭はアルピーヌだった。それはコンストラクターズ選手権の順位(4位)からも言えることだ。

 アルピーヌA522は全てのレースで中団勢最速だったわけではないが、特に高い空力効率が求められるコースや低速コーナーの多いコースで優れたパフォーマンスを発揮した。彼らはルノー時代も含めて最近はランキング5位が続いていたが、昨年はマクラーレンを抑えて4位を勝ち取った。

 これはチームにとって前進と言えるが、彼らがここ数年で最高のシーズンを送ったかと言われれば、判断が難しいところ。2018年にもコンストラクターズ4位に入っているし、2020年には17レースの開催(昨年は22レース開催)なおかつスプリントのないシーズンだったにもかかわらず昨年よりも多くのポイントを獲得している。

 特に昨年は、フェルナンド・アロンソを中心に信頼性の問題に苦しめられた。そしてアルピーヌに敗れてランキング5位になったマクラーレンは、ダニエル・リカルドの不振に足を引っ張られた側面が大きいというのも事実だ。

 これらすべてを考慮した上で結論を述べるとすれば、アルピーヌにとって2022年は堅実なシーズンであり、新レギュレーション下での2シーズン目に向けて良いスタート地点に立ったと言える。

 ただ、ルノーグループはアルピーヌがいつまでも4位争いをすることを望んではいない。アルピーヌは2022年初めに、5シーズン以内、もしくは100戦以内にトップチームの仲間入りをするという目標を掲げている。

 チーム代表のオットマー・サフナウアーは、この目標に近付かなければいけないと語る。

「100レース以内にチャンピオンになるという目標に近付かなければならない。今はもう残り80レースを切っている。これは(2022年の)年明けから始まっているからね」

「同時に3番手のチームに近付かないといけない。たとえ4位のままになったとしても、前進しないといけない」

 サフナウアーは昨年、アストンマーチンからアルピーヌに移籍してきたばかり。組織を理解するのに時間がかかったというが、今はアルピーヌCEOのローラン・ロッシと効率的に仕事をしているという。

Otmar Szafnauer, Team Principal, Alpine F1

Otmar Szafnauer, Team Principal, Alpine F1

Photo by: Alister Thorpe / GP Racing

「組織の人々、そしてその性格を理解するのに3〜6ヵ月はかかる」とサフナウアーは言う。

「他より優れている点、劣っている点を見て、そこから何を維持して、何を改善していくのかだ。ローランら首脳陣は“マウンテンクライマー”と呼ばれる計画を立て、100レース以内にチャンピオンを争うには何が必要なのかについて、計画を実行に移している」

「私の方からも、『見てくれ、ここをもっと頑張る必要がある』と言えるようなものをいくつか持ち込んでいる。既に判明したこともいくつかある」

 前述の通り、昨年はパワーユニット(PU)の信頼性が最大の問題となったアルピーヌ。しかしこれは、2022年から信頼性向上を除いたPUの開発が凍結されることを受けて、それまでにパフォーマンスの限界を追求し、信頼性の改善は後から行なうという意図的なポリシーに則ったものだとサフナウアーは強調する。

「信頼性の問題はあった。ただ修正されるのが楽しみだった。(信頼性関連の)修正に関しては許可されていたからね」と語るサフナウアー。このやり方が2023年に向けて実を結ぶはずだと考えている。

「パワートレイン(の開発)が凍結されている状態でそういったことをやっていけば、当然もっと多くのポイントを獲得できるようになるだろう。フェルナンドが昨年、(信頼性絡みで)60点をロスしたなどと言っていたのを聞いた人も多いはずだ」

「それは間違いなく相当な数だ。つまりそれ(信頼性改善)をやれば、パフォーマンスレベルが比較的同じな限り、我々はもっと上に行けるはずなんだ」

「ただ我々はパフォーマンスでもっと前進したいと思っている。パワートレインの凍結でそれは難しいが、継続的に得点できるふたりのドライバーを擁して、シャシーのことを理解しながらエンジニアリング面でより良い仕事をしないといけない」

 シャシー部門の責任者でもあるサフナウアーは、さらなる進化のためにチームの意識を少しずつ変えようとしている。

「私がこれまでいたところの中には、より効率的で、パフォーマンスだけに集中して周囲のことはあまり気にしない、というところもあった」

「そういう取り組み方の部分は簡単に変えられると思うし、我々はマシンのパフォーマンスを上げることだけに取り組むということを徹底していけばいい。大きなチームであっても、そういった考え方に変えるのは難しいことではない」

「我々はまだそこに達していない。しかし我々が下す決断はすべてパフォーマンス第一でなければならない。まずリーダー陣から少しずつ、そしてエンジニアリングチームも少しずつそういった意識を持たないといけない」

「我々には900人の人員がいて、全員がその意識を持たないといけないし、その文化を定着させるには時間がかかる。しかしリーダー陣のトップがそれを浸透させれば少しは速くなる。彼らがそういう風に行動すれば、周りもそのように行動するようになる」

 他チームから移って間もないサフナウアーが気付き、改善を促している点は他にもある。それは開発におけるスピード感だ。

「私が来てまず最初に行なったのは、アップグレードをサーキットに持ち込むのにどのくらいの時間がかかるかを調べることだった」

「そしてそれは、私がかつていた場所よりも長い時間がかかっていたのだ」

「どうすれば物事を同時進行で進められるかを考えるため、ちょっとしたサブグループのようなものを結成した。少し早めに風洞から出して、エンジニアリング作業を開始して……そうやってやり方を変えればその代償としてやり直しになることもあるが、大抵の場合そうはならない。とにかく時間を削るんだ」

「フロアを従来の半分の時間で投入できるようになったことは大きい。おそらくもっともダウンフォースに寄与するのはフロアだ」

「それらの時間を短縮できれば、(年間)ふたつのアップデートのところを3つ、4つにすることができる。これが我々がうまくいったことのひとつだと思う。おかげでマシンもだいぶ良くなった」

 またサフナウアーは、その開発スピードをさらに加速させるために、大規模チームが持っているような先進的なリソース、例えばシミュレーションツールなどを導入する必要があると考えている。

「シミュレーションによってより速く良い決断を下すために、我々はいくつか(大規模チームに)追い付かないといけない点がある。彼らはそれら(ツール)を使ってもっと先に進んでいるのだ」

 開発面では順調な成長を遂げているアルピーヌだが、ドライバー市場では翻弄された。大物アロンソはアストンマーチンに移籍してしまい、その後任に据えるつもりだったオスカー・ピアストリもマクラーレンに行ってしまった。これはサフナウアーやロッシら首脳陣にとっては厳しい経験だったようだが、アルファタウリからピエール・ガスリーを獲得することで、なんとか状況を好転させることができた。

 そんな中でサフナウアーは引き続きあらゆる分野の改善に全力を注ぐことになる。

「私が今取り組んでいる計画では、80人の人員を雇用し、ツールを手に入れ、色々と購入し、建造物も建てる必要がある」

「そしてそれはもう始まっている。ただそれができれば終わりというわけではない。そういった大きなことをするだけでなく、余裕を持って少しずつ良くしていかないといけない」

「我々は継続的な改善計画を立てているんだ。引き続き改善を進めていく」

 
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