メンタル面では好影響? メルセデス代表「レッドブルの台頭が“負けることさえ許されない”プレッシャーを減らしてくれた」
メルセデスF1のチーム代表を務めるトト・ウルフは、レッドブル・ホンダの今季の台頭によって、追われる側の“負けるはずがない”というプレッシャーが軽減されたと語った。
写真:: Mark Sutton / Motorsport Images
2021年のF1タイトルを争うメルセデスとレッドブル・ホンダのパフォーマンスは拮抗し、シーズン前半戦から激しいバトルが繰り広げられてきた。しかし、ディフェンディングチャンピオンであるメルセデスは、激しいタイトル争いについて意外な感情を抱いているようだ。
F1が“パワーユニット時代“に突入して以降タイトルを欲しいままにしてきたメルセデスが、今季のレッドブル・ホンダの追撃にプレッシャーを感じていたとしても無理はない。
メルセデスのチーム代表を務めるトト・ウルフは、レッドブルという最大の脅威によりF1での優位性を失いかねないというプレッシャーではなく、むしろそこから“解放された”かのような感覚をチームは持っていると語った。
長年に渡りF1タイトルを独占してきたが故に、メルセデスは『盛者必衰の理』から来る不安をモチベーションに変えてきた。しかし今シーズンは、彼らに拮抗するライバルを打ち負かす総力戦に身を置くことでウルフ自身やスタッフも活力を得たというのだ。
motorsport.comの独占インタビューに応じたウルフは、長年タイトルを手にしてきた追われる側の“負けるはずがない”という重圧が、レッドブルの台頭によって軽減されたと語った。
「これまで我々が抱えていた『絶対に負けられない』というプレッシャーは、実のところ和らいだ」
「今はそれが『ライバルが拮抗してくるから、我々が勝たねば』に変わっている。そうすると急にアプローチが楽になり、楽しく思えるようになる」
「周囲の見方も変わる。(タイトルを取って当然という)期待もない。他のスポーツでも見受けられることだが、期待があまりにも高くなりすぎると負けることさえ許されなくなるのだ」
「それで我々は自分たち自身を鍛えた。現実的な期待値を設け、(ライバルと)戦える状態へ戻す道のりを楽しんできた」
しかしF1にV6ターボハイブリッドが導入された2014年からこれまでを振り返ると、メルセデスがライバルチームの脅威にさらされるのは今シーズンが初めてではない。
2018年は、フェラーリが後々物議を醸したパワーユニットで他を圧倒し、シーズン前半ではセバスチャン・ベッテル(当時フェラーリ/現アストンマーチン)がルイス・ハミルトン(メルセデス)と激しい首位争いを演じた。
ウルフはフェラーリとのタイトル争いと現在のレッドブルとの争いを比較し、チームが最も厳しい状況に置かれた時期についてこう述べた。
「フェラーリと争った年の方がより激しかった。当時は自分たちが一発屋ではないことを証明したいという気持ちが強かったからね」
「我々はトップに立ち続け、歴史に名を刻みたいと思っていた。今はそれを実現できた。7年連続でチャンピオンになった。世界選手権レベルのスポーツでは類を見ない功績だ」
「それ(レッドブルの台頭)に伴い、急に気楽さが出てきた。今でも我々は野心的だし競争力もある。でも、負けることへの不安感は消えたのだ。それは嬉しいことではないが、自分たち自身の幸せが蝕まれることは少なくなった」
今季のレギュレーション変更への適応
Mercedes W12 floor detail
Photo by: Giorgio Piola
今シーズン、メルセデスとレッドブルのパフォーマンスが拮抗する要因のひとつに、空力レギュレーションの変更が挙げられる。
ダウンフォース量を10%減らすべく、FIAはマシンのフロア面積を縮小。この変更が“ローレーキ”コンセプトをマシンに採用しているメルセデスには不利に、“ハイレーキ”を採用するレッドブルには有利に働いたというのが定説である。
ウルフは、こうした現状が露呈した時を振り返り、当時チームは失われたダウンフォースを取り戻せると前向きな気持ちでいたと語った。
「2020年シーズンのかなり早い段階でレギュレーション変更が行なわれた(合意された)時、我々はダウンフォース量を取り戻すことができると考えていた」
「しかし、ライバルのパフォーマンスと比べると、想像よりも我々は挽回出来ていなかったのだと分かった」
「追いつくことを目標に今シーズンに臨んだが、見ての通りシーズン序盤でその点をクリアできた」
「開幕戦のバーレンGPを見てみると、純粋なマシンの差で言えばおそらく我々が勝てるレースではなかったが、我々が勝てた。シーズン当初から、スペインGPとポルトガルGPを除いて、常に劣勢に立たされていた」
フロア面積の減少により、メルセデスは来季導入の新レギュレーションのように今季のマシンを学び直さなければならなかったとウルフは言う。
「今年は、マシンのスイートスポットを再発見する1年だったと思う」と彼は語る。
「これまでずっと、我々は一定のコンセプトでマシンを走らせてきたが、突然フロア後方でダウンフォースを失うことになった。我々はそれを再確認して、他のエリアでパフォーマンスを引き出す必要があった」
「良い週末も悪い週末もあったが、ライバルたちとは逆に、我々にとっては新レギュレーションでシーズン開始を迎えたようなものだった」
レッドブルとの緊張関係
Toto Wolff, Executive Director (Business), Mercedes AMG, and Christian Horner, Team Principal, Red Bull Racing
Photo by: Zak Mauger / Motorsport Images
レッドブルとメルセデスの争いはコース上だけに留まらず、コース外でも激しい舌戦が繰り返されている。
フレキシブルリヤウイングにタイヤ内圧、ピットストップ規制などの論争に加え、ハミルトンとマックス・フェルスタッペン(レッドブル)が絡んだイギリスGP後のコメントをきっかけに、ウルフとレッドブルのクリスチャン・ホーナー代表の間にも緊張が走った。
ウルフはこの件について、レッドブルとメルセデスとの関係に火を付けたのは、チーム間対立ではなく、代表同士の個人的な意見の相違なのではないかと主張している。
「レッドブルやメルセデスなどと問題を抽象化しないことが非常に重要だ」とウルフは言う。
「F1はチームスポーツではあるが、そこには個人が関わっている」
「ある人との相性が悪いからといって、自分の夢を叶えたり悩みを克服したりするために、ベストを尽くそうとしている人やここで働いている人たちを軽視しているワケではない」
「チームやそこで働く人々には常に敬意を払っている」
レッドブルとメルセデスの“交友関係”が崩れたことに驚いたかと聞かれたウルフは「関係は決して大したモノではなく、我々の争いの激しさからくるモノだ」と語った。
「しかし、こうとも言える。我々は冷静さを持ち、ファン間の論争や偏見をこれ以上増やさない様に努め、平常心を保ってきたのだ」
「目標は常に、事態を収束させることだった。残念なことに、ライバル側では逆のことが起こるがね」
シーズン前半戦を終え、ドライバーズランキングでは首位のハミルトンとフェルスタッペンの差は8ポイント、コンストラクターズランキングでは首位のメルセデスとそれを追うレッドブルの差は12ポイントだ。第12戦ベルギーGPから始まるシーズン後半戦の行く末は誰にもわからない。
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