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F1メカニックの過酷な現実。カレンダー拡大で追い詰められる現場の声「F1は”限界”に近づいている」

F1のカレンダーが拡大を続け、3連戦も常態化しつつある中、F1で働くスタッフたちは限界まで追い込まれているようだ。

Pit crew

写真:: LAT Photographic

 2021年は、コロナ禍の中で22レースを実施したF1。2022年はさらに1戦増え、史上最多23戦の開催が予定されている。

 グランプリの責任者たちは、現場で働く人々が直面する困難に対処するため、常に最善を尽くしているという印象を与えようとしてきた。

 しかし、あくまでコロナ禍での収益を確保するために”必要悪”として認められていた3週連続のグランプリ開催が常態化しつつある中で、パドックで働く人々は自分たちの意見を聞いてもらえないのではないか、将来的にさらに状況が悪化するのではないかと内心不安を抱えている。

 チーム代表の中には、過酷な労働を嫌う者はF1以外の仕事を探せばいいという冷酷な意見もあるが、”燃え尽き症候群”によって多くのスタッフを不必要に失うことは、F1にとっても大きな損失となるはずだ。

 motorsport.comは匿名を条件に、あるチームのメカニックに近年の生活がどのように変化したか、カレンダーの拡大が与える影響や関係者全員にとってより良い未来を作るためにF1に何ができるかを聞いた。

 以下は、そのメカニックの言葉である……


過酷なメカニックの実態とは

 F1メカニックの生活が厳しいものであることは、隠しようがない。昔からそうだったし、楽をしようと思ってやっているわけでもない。

 私たちは皆、F1が大好きだ。グランプリレースの一員であるためには、全力を尽くす必要があることを分かっている。しかしカレンダーが拡大し、トリプルヘッダーが当たり前になるにつれ、ガレージで働く多くの人たちにとって、状況は限界に達している。

 労働時間が長いんだ。レース前の水曜日からレース後の日曜日の夜まで、毎日最低でも12時間労働だ。ファクトリーでの仕事に戻るまでは実感できないが、通常の8時間労働がほとんど滑稽に思えるほど、短く感じるんだ!

 実際、家に戻ってくるまでその生活がいかに異常なものであるかは実感できない。

 特に大変なのは回復する時間がないことだ。飛行機を降りた瞬間から仕事をするわけではないが、エコノミークラスのシートに詰め込まれ、ほとんど眠れないようなひどいフライトの後でも仕事をこなさなくちゃいけない。

 メキシコ、ブラジル、カタールでの3連戦の後、エコノミークラスのフライト、遅い時間帯のスケジュール、タイムゾーンの変更などが重なり、誰もが完全に疲れ果てていた。

 疲れがピークに達した時は恐ろしい。大切な人たちと離れて旅をしていて、孤独を感じてしまう。そして月曜日の朝や夕方に帰宅しても、何日もちゃんと寝ていないと、プライベートな時間の過ごし方にも影響が出てしまう。

 パートナーとの関係にも支障をきたす可能性もある。パートナーに怒ってしまったり、他のことで頭がいっぱいになってしまうかもしれないんだ。

 精神的な疲労だけでなく、肉体的にも疲弊してしまう。シーズンが進むにつれて、ケガも多くなる。チームには医師や理学療法士がいるが、最も簡単な解決策は、痛み止めを投与して、なんとか持ちこたえようとすることだ。普通の医者なら、私たちが処方されるような鎮痛剤を投与することは、100万年経ってもありえないだろう。

 鎮痛剤を使いたくない人は、アルコールに頼るが、これも良い解決策ではない。

Max Verstappen, Red Bull Racing RB16B, arrives on the busy pre race grid

Max Verstappen, Red Bull Racing RB16B, arrives on the busy pre race grid

Photo by: Simon Galloway / Motorsport Images

 その上、新型コロナウイルスのルールによって、また別のストレスが追加された。特にチームは、個人にとって最適な方法ではなく、自分たちにとって最適な方法で検査のタイミングを管理したがる。

 チームによっては、検査のタイミングがあまりに早いと予選や決勝に出られなくなる可能性があるため、なるべく遅いタイミングでPCR検査を受けて欲しいというところもあるようだ。もし何か問題があって検査結果が出なかったりすると、再検査のためにもう1日家に帰るのが遅れ、メカニックが苦しむことになる。

 1日の差は大したことはないと思うかもしれないが、誰もが疲れていて、愛する人と一緒に家にいたいと思っているときに、それが積み重なっていくんだ。これは、自分たちがどんな思いをしているか、チームと共有できていない典型的な例だ。

 家に帰れるように検査を処理するストレス、英国での自己隔離の必要性、急なカレンダー変更……私たちはトップの人たちがもっとお金を稼げるように、自分の人生の多くをF1に捧げなければならないのに、見返りは何もないんだ。

 ガレージにいる全員が最高のレベルで働くことを期待され、そのバランスを取るのは難しい。ドライバーがリタイアしたり、クラッシュしたりするようなクルマにしたいとは誰も思っていないから、誰もが全力を尽くすんだ。

 そして、それがさらにストレスになる。ドライバーはもちろん、ファクトリー関係者も、メカニックが100%のパフォーマンスを発揮し、ミスをしないことを期待しているんだ。でも、誰でもミスをする可能性はある。私たちも人間だし、私もこれまで何度も失敗してきた。

 ミスをすると、周りから無言の失望を買ってしまう。なぜこんなことになったのか、なぜもっと気がつかなかったのか、と聞かれ、それを受け止めるのは難しい。そして、自分自身を疑うようになる。そのことにストレスを感じるようになり、さらにミスを犯す危険性が出てくる。精神的に疲れるんだ。

 プレッシャーに加え、疲れが重なってガレージの雰囲気は時に毒々しくなってしまう。競争の場にいるから、そういった毒性が生まれるんだ。それはまるで、出世を目指す会社員のようなもので、なかなか出世できないから、つい他人にひどい態度をとってしまう。雑談も多いが、すぐに険悪になってしまう。

 各チーム改善しようと努力しているし、数年前よりも良くなっているところもある。夜間作業禁止は少しは役立っているし、もちろん数十年前のようにレースとレースの間に大量のテストを行なう必要もない。

 ホテルの部屋についても、以前は相部屋だったのが、今は全員にシングルルームを提供しても予算にあまり影響がないことに多くのチームが気づいている。その結果、スタッフから好意的な反応を得ることができ、チームにとって非常に有益だ。

 しかし、チームのSNSでメンタルヘルスを意識するのはドライバーのことだけだ。上層部がメカニックやスペシャリストを評価したがらない印象もある。結局のところ、メカニックは心配したり余分なお金をかけたりするほど重要ではないのだ。

 もし自分が精神的に参ってしまったとしても、(実際そうなった同僚を何人か知っているが)特別なサポートはないのではと感じる人が出てくるんだ。

 しばしば「嫌なら辞めればいい」と言われる。チームのボスの中には、そう言っている人もいる。しかし、そのような態度はメカニックがF1で必要とされているという現実といかにかけ離れているかを示している。新しい電球のように簡単に代替スタッフを用意できると信じているのだ。

 メカニックを追い詰めたら、キッズが仕事をするようになるだろう。優れたメカニック、優れた専門家を見つけることができなくなり、スポーツ全体が失敗に終わるだろう。

 もしジュニアカテゴリーから、経験が浅く若い人を登用し、将来的にチャンピオンを獲得できると考えているチームがあるとすれば、それはスポーツの現実を理解していないとしか言えない。

 職人と同じように、最高の成果を出すためには、経験を積んだ人がその知識を伝える必要があるのだ。F1も、前の世代が新しい世代に教えることが必要なのだ。それがないと、チームはベストを尽くすことができない。

 

 F1の上層部は3連戦を続けられると考えているようだが、F1は転換点に近づいていると思う。

 今年は、多くの人たちがF1を辞めようと言っている。自分がF1に関わってきたどの年でも、そんなことはなかった。いつもなら、シーズン終盤になると、2~3人のメンバーが「もうレースには出ない」と言い出すんだ。でも今年は辞めたいという人がとても増えた。コロナをきっかけに、F1以外の人生もあるんだということが分かってきたんだろうね。

 メカニックの賃金は過去20年間でほぼ横ばいだ。チームは予算制限によって支出を抑えようとしているため、インフレに見合った賃上げをする余裕がないのだ。そのため、賃金が伸び悩み、他のシリーズに後れを取ってF1の雇用市場が消滅してしまう。

 F2やフォーミュラE、WECで働いた方が、多少給料が安くても、レース数はほぼ半分。23レースのスケジュールに煩わされずに済むという奇妙なシナリオがあるのだ。そんなことはあってはならない。

 また、F1が好きでそのストレスに耐えられる人にとっても、通常のキャリアパスを描く余地がないことを意味する。かつては、ナンバー1メカニック、チーフメカニック、そしてさらにその上へと昇進することを目指すことができた。そしてその都度、きちんとした賃上げを受けることができた。

 そのような道はもう存在しない。なぜなら、給与水準が高くないからだ。F1ですでに働いているスタッフが未来を見通せないとしたら、F1はいったいどうやって外部から最も有望な人材を引き寄せられるというのだろうか?

 また、ガレージで働くスタッフよりも多くの贅沢をすでに享受しているチームの高給取りスタッフの給料を、予算制限から免除することに意味があるのだろうか?

 もしF1が何もせず、多くのメカニックが感じていることに反応しないのであれば、人の入れ替わりが激しくなるばかりで、それが一番損失を被るのはチームだろう。

 23レースは多すぎると思っているのは、現役のスタッフだけなのかどうかは分からない。ファンの間でもトリプルヘッダーが続くのは良くないと思っているような気がする。レース数が多いからこそ、ひとつひとつのレースの価値が下がり、スポーツが安っぽくなっているような気がするんだ。

■解決策はあるのか?

 私たちを大いに助けてくれる解決策がいくつかある。

 もちろん賃金は常に重要だ。F1全体の賃金体系を見直し、最前線にいる人たちが予算制限によって最もダメージを受けないようにする必要がある。上位ポストの給料が少し上がるだけで、現場の人間には大きな違いが生まれる。

 また、より過酷な一部のレースに向けて、エコノミークラスの狭い座席から解放されるようにしたらどうだろう。そうすれば、着陸したときには、チームのためにもっと良い仕事ができる状態になっているはずだ。

 また、スタッフのローテーションシステムをもっと推進して、シーズン中、最高のチームメンバーをリフレッシュさせ、モチベーションを保つというのはどうだろう? あるチームが今年、数レースにわたってメカニックを休ませたところ、大きな変化があったそうだ。

 しかし、おそらく最も大きな助けとなるのは、F1のトップが少し共感してくれることだろう。

 私たちは皆、グランプリレースが好きだからこの仕事をしている。しかし、レースを増やすというニーズよりも、心身の健康を優先させなければならない時期がやってくる。

 運動や回復のためのダウンタイムや、最高のパフォーマンスを発揮するための適切な健康診断を増やし、3連戦の真っ只中という過酷な状況下での生活への理解を深めることができれば、それだけで大きな意味があるはずだ。

 
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