アストンマーチンF1の誕生は、将来の”F1の可能性”を示している?
F1に参戦する自動車メーカーにとって、会社に何らかの問題が生じた時、あるいはコストを削減する必要性に迫られた時、参戦プログラムを中止するというのは、実に簡単な選択肢だ。しかし……
写真:: Zak Mauger / Motorsport Images
2021年シーズンから、現在のレーシングポイントがアストンマーチンと名称を変えて参戦することが先日明らかになった。
2020年現在、F1に参戦する自動車メーカーはメルセデス(ダイムラー)、フェラーリ(フィアット)、ルノー、ホンダの4社。これに、パワーユニットこそメルセデス製を使う予定ではあるものの、5つ目のメーカーが参戦することになった。
自動車メーカーにとって、F1に参戦することは意味のあるものなのだろうか? それには、どれくらいの価値があり、今後どうなっていくのか? 検証してみよう。
■移り変わる、自動車を取り巻く環境
F1チームを運営する際のコストは、非常に高価になる場合が多い。年間100億円以上が必要になるものの、収入の保証はない。
これまで長年にわたり多くの自動車メーカーは、外的要因を理由にF1撤退を正当化してきた。2008〜2009年に起きた世界的な金融危機の際には、BMWやホンダ、トヨタが相次いでF1から撤退。しかし現実的には多くの場合、グランプリを支配する立場には立てていなかったメーカーが撤退している。
自動車メーカーに対する経済的な圧力は、おそらくこれまでより高くなっている。世界的に、二酸化炭素排出量の削減目標が、ますます厳しくなっているからだ。このため自動車メーカーは、より高価な電動技術を開発する必要に迫られている。
自動車の販売台数は、減少傾向にあるため、利益率が低くなる。しかしその反面、新技術の研究開発のための投資資金は増えることになる。これには、経理担当者は当然頭を悩ませることになり、大幅なコスト削減が必要であるのは明らかだ。
各自動車メーカーは、環境面と商業的な面の両方で、持続可能な未来に向けた長期的な道筋を模索している。イギリスがEUを離脱したことによっても、経済的な影響が及ぼされる可能性もある。しかしそんな状況にあっても、メーカーにとってF1の魅力は依然として大きいようだ。
■アストンマーチンF1誕生。絶大なるマーケティング効果
このことは、金曜日(1月31日)にも明らかになった。アストンマーチンがロンドンの証券取引書に提出した書類には、同社がF1におけるチャンスを有効活用することが最優先事項であると書かれていたのだ。
レーシングポイントF1チームのオーナーであるローレンス・ストロールが率いるコンソーシアムが、アストンマーチンの株式1億8200万ポンド(約260億円)分を購入。さらに3億1800万ポンド(約455億円)を調達することを目的とする新株予約権もある。そしてそれらの取り組みの中心として選ばれたのがF1である。
提出された書類には、「売上の減少、販売コストの増加、および利益率の低下」に対し、「F1へのアプローチを強化することが重要であると考えられる」と明記されていた。
アストンマーチンは今シーズン限りでレッドブルのタイトルスポンサーを終了。その後レーシングポイントが、2021年シーズンからアストンマーチンF1チームに名称変更される予定だ。
アストンマーチンF1チームは、自動車メーカーとしてのアストンマーチンが直接技術的な支援を行なうモノではない。この点はフェラーリやメルセデス、そしてルノーとは異なるところだ。しかし、財政的な支援は受けることになるだろう。
2021年から2025年は、アストンマーチンがレーシングポイントのタイトルスポンサーを務める形となる。しかし条件が満たされれば、その後も契約が更新される。そしてこの契約は「同社の現在のF1の年間支出に見合ったもの」とされているため、これはアストンマーチンとレーシングポイントの双方にとって”ウイン-ウイン”の内容となっている。
かつてはフォースインディアという名称だったレーシングポイント。しかし2018年の夏休み頃にはチームの将来が不安視されており、休み明けのベルギーGPに出走できるかどうかも分からなかった。しかしローレンス・ストロール率いるコンソーシアムが新チームを立ち上げる形でレーシングポイントを立ち上げ、フォースインディアのマシンや人員、ファクトリーなどを引き継ぐ形で参戦を継続。今に至る。そして来年からは、自動車メーカーのチームへと進化……投資されたことにより即座に成功できるとは言えないものの、勇気付けられる状況であることは間違いない。
アストンマーチンの観点から見ても、自社の名前のついたF1チームを持つことは、そのブランドの認知度を高めるという点で、大きな後押しになるだろうことは間違いない。
アストンマーチンの主力車種は、ミッドシップレイアウトであり、F1と関連づけることは必要不可欠である。また同社の電気自動車が登場するのは2025年以降となる予定で、そんな状況からすればF1のハイブリッドエンジンは、最適な技術であるとも言える。
■時代はフォーミュラEへ。しかし内燃機関の進歩も必要不可欠?
昨今では、多くの自動車メーカーがフォーミュラEへの参入を急いでいる。しかし、ハイブリッド技術の方が現実的であるとの見方も強まっており、F1の最先端にいることは非常に重要とも言える。
今週初め、マクラーレンのテクニカル・ディレクターであるジェームス・キーは、5年後のF1が目指す場所について考察した。
「F1にとって重要なことは、最先端のパワートレイン技術の開発を続けるということだ。これは、必然的に起きることだと思うけどね」
そうキーは語った。
「我々はそれについて十分に語ることができていない。しかし、現在のV6ターボハイブリッド時代のエンジンに組み込まれた、いくつかの並外れた技術がある」
「これらのパワーユニットは、世界で最も効率的なモノだ。より少ない燃料で、より多くのパワーを発生する。つまり、他のどの車よりも、CO2の排出量が少なくなるのだ。それと同時に印象的なのは、このテクノロジーがいかに速く開発されたのかということだ。5〜6年前には想像もできなかったような効率を実現しているんだ」
「今後5年も、ますます環境に優しい道を進んでいくことが非常に重要だ。マシンの駆動方法から使う素材まで、それはこのスポーツのあらゆる側面に影響を与えるモノだ」
「これは非常に重要なトピックであり、F1とFIAが目指しているトピックだ。それは、2030年までに二酸化炭素の排出量をゼロにするという、最近発表されたF1の野心的な”持続可能性計画”によっても強調された」
■メルセデスのF1での将来……噂通り撤退はあるのか?
このようにF1が最新技術を開発する上での”ショーケース”として機能すれば、自動車メーカーにとっては宣伝という面で大きな効果がある。
しかしメルセデスの親会社であるダイムラーは、2022年末までに10億ユーロ(約1200億円)の支出削減を目指している。これは人員削減によって達成することが目指されていて、そのうち6億5000万ユーロ(約780億円)はトラックやバンの部門で成し遂げることが目指されている。
メルセデスのCEOであるオラ・ケレニウスは、短期的には収益が減少する可能性があると、昨年述べていた。
「CO2の排出量目標を達成するために必要な支出には、社内の全ての分野で効率を高めるための包括的な対策が必要だ」
そうケレニウスCEOは語った。
「これには、我々の作業プロセスや構造を見直すことも含まれる。このことは、2020年および2021年の収益に、マイナスの影響を及ぼすだろう。そのため、将来の成功を維持するためには、今すぐ行動し、財務力を大幅に高める必要がある」
同社がコストの削減を進めていくことが明らかになったことで、メルセデスのF1プログラムにも影響が及び、撤退する可能性もあるのではないかとの議論が盛んに行なわれるようになった。メルセデスは現行のパワーユニット時代に入って大成功を収めており、もはやF1で証明すべきモノはないと見る向きもある。しかしケレニウスCEOは、これを否定する。
「我々は世界選手権を6年連続で制した」
「それは特別なことであり、マーケティングの面では見返りがある。だから、それは非常に価値のある投資だと見なされる必要がある」
その一方で、チームを運営することによる純利益も当然重要なことだ。2021年からF1には、参戦コストに上限を設けるレギュレーションが導入される予定だ。これまで、参戦コストは増加の一途を辿っていたが、このコスト上限が導入されることで、その傾向に終止符が打たれる予定だ。そして、分配金が将来的に増加することとなれば、チームは純利益をしっかりと確保できるようになるかもしれない。
このことは、自動車メーカーが巨額の参戦資金を投じていた時代と比較すれば、著しい転換になる……と言えるだろう。そのためF1には今後も、アストンマーチンやメルセデスが示しているように、自動車メーカーが興味を持つ、十分な余地があるだろう。
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